非接触ICカードとは?
プラスチック製カードの内部にICを内蔵して、多くの情報を収納するほか、偽造防止や各種の機能を実現しているものを、一般に「ICカード」と呼んでいます。そして、各種ある「ICカード」の中でも、情報を読み書きするにあたって、ICカードとリーダー/ライターとの、接点による接触を必要としないものを「非接触ICカード」と呼んでいます。
JISでは、「ICカード」を「1個以上のICを内蔵するJIX X 6301に規定されたID-1型ICカード。また,外部端子付きICカード,外部端子なしICカード,ISO型ICメモリカード,表示付きICカード及びこれら組み合わせたカードの総称である。」と定義しています(JIS X 6901:2003)。
この定義の中で述べられている「外部端子なしICカード」が、いわゆる「非接触ICカード」で、JISでは、どちらも正式な名称として規定されています。そして、「外部端子なしICカード」あるいは「非接触ICカード」を、「外部端子なしで接続されるICが組み込まれたID-1型の識別ICカード。」と定義しています。
なお、これらの定義の中で使用している、その他の用語については、それぞれ、次の表のように定義されています(表1)。
JISには定義がありませんが、接触と非接触の両方で読み書きが可能なコンビネーション型ICカードもあります。
ICテレホンカードとSuica
非接触ICカードの開発は、1980年代から始められましたが、日本での本格的な普及が始まったのは、つい最近で、1999年に運用が開始されたNTTのICテレホンカードが日本における実用化第1号です。
ちなみに、ICテレホンカードは、利用者が増えないことなどから、2006年3月末でサービスが終了しました。一方、2001年にサービスを開始した、JR東日本の非接触ICカードを利用したプリペイド乗車券であるSuicaは、着実に利用者を増やし、サービス開始から3年とかからずに、1,000万枚を発行しました。
Suicaは、乗車券としてだけなく、電子マネーとしても用途を広げ、利用可能な場所は、駅の中から、駅の外へと着実に広がっています。Suicaの爆発的ともいえる普及により、非接触ICカードは、注目を浴び始めました。JR東日本のSuicaに続き、JR関西のICOCA、スルッとKANSAIのPiTaPa、JR東海のTOICAといった交通系の非接触ICカードの運用が開始されたほか、2007年3月18日には、首都圏の私鉄やバスなどで利用できるPASMOの運用も始まります。
Suicaを始めとする交通系の非接触ICカードは、いずれも、ソニーと財団法人鉄道総合研究所(当時、現在はJR東日本)により開発され、ソニーにより量産が開始された非接触ICカード「FeliCa」を使用しています。
FeliCaは、のちに携帯電話などに内蔵できるように設計された「モバイルFeliCa」というバリエーションも登場し、すでに、携帯電話にとって必須の機能と言っても過言でないでしょう。ちなみに、FeliCaのコアとなるICチップで数えると(FeliCaとモバイルFeliCaの合計に相当)、2005年10月の時点で、1億個を出荷したことが発表されました(※FeliCaやモバイルFeliCaと、これらを使用している各種のサービスについては、次回、詳しく触れます)。
非接触ICカードの構造
非接触ICカードは、RFIDタグと同様に、ICチップ、アンテナ、パッケージから構成されます(図1)。なお、非接触ICカードのパッケージは、プラスチック製のカードです。
図1 非接触ICカードの構造
非接触ICカードとリーダー/ライターの間で通信を行うのに必要な非接触ICカード側の電源は、パッシブ型のRFIDタグと同様、主に電磁誘導で供給されます。一般的な非接触カードを想定した場合、ICチップ内に、メモリとCPUのほか、高周波回路、電源回路などが収められています。
非接触ICカード(図2)と、一般的なパッシブ型RFIDタグ(図3)との基本回路構成の違いを比較したときの重要な違いは、CPUの有無にあります(CPUを内蔵しない非接触ICカードもあります)。JISによるRFIDタグの定義は(JISの用語では、「RFタグ」)、「半導体メモリを内蔵して,誘導電磁界又は電波によって書き込まれたデータを保持し,非接触で読出しできる情報媒体。」となっており、非接触ICカードをRFIDタグのカテゴリーに含めることに無理はありません。そこで、パッシブ型RFIDタグに機能を追加したのが非接触ICカード、あるいは、非接触ICカードの機能を簡単にしたのがパッシブ型RFIDタグであると考えるのがよいようです。
図2 非接触ICカードの基本回路構成
図3 パッシブ型RFIDタグの基本回路構成
非接触ICカードは、極小コンピュータ
コンピュータを構成する基本要素をCPU、メモリ(記憶装置)、入出力装置とするなら、非接触ICカードは、コンピュータとしての基本要素を備えていると考えて差し支えないでしょう。
CPUとメモリーは、コンピュータと一致しますし、RFIDによる情報の送受信が、入出力装置に相当すると考えられます。ハードウェアの面では、コンピューターそのものでしょう。しかも、例えばFeliCaでは、暗号処理回路までが組み込まれています。
さらに、非接触ICカードには、OSが搭載されています。例えば、FeliCaではFeliCa OSが採用されています。そして、用途に応じたアプリケーション・プログラムも搭載されます。このように、非接触ICカードは、ハードウェアも、ソフトウェアも備えており、まさに極小コンピューターであると言えます。
3つの通信距離
非接触ICカードは、通信距離の違いによって、ISO/IECで次の3種類に分類されています。このほか、「遠隔型」という通信距離70cm以上の分類を加えている場合もありますが、標準化された規格ではありません(表2)。
近接型について、ISO/IEC 14443では、変調方式と符号化方式などの違いからタイプA(ICテレホンカードなどで使用)、タイプB(住民基本台帳カードなどで使用)の2種類に分類されています(表3)。
1998年には、FeliCaをタイプCとして加える案を、日本からISOに提案しました。しかし、タイプが増えると規格が複雑になり、標準化に逆行するという理由から、2001年に審議中止が可決されました。一部では、「タイプC」という表現を使用しているケースも見受けられますが、ISO/IEC 14443の正式な規格ではないので注意が必要です。ちなみに、FeliCaは、CPU:あり、変調方式:ASK 10%(Amplitude Shift Keying、振幅変調)、符号化方式:マンチェスタ符号という仕様になっています。
近接型は、通信距離が10cm以下ということで、ICカードをリーダー/ライターに意識してかざさないと、ICカードの内容が読み取られません。このため、個人の識別のために使用するには、最適な選択肢といえ、最も多く利用されています。
課題はサービスごとに異なるリーダー/ライター
RFIDと非接触ICカードは、通信原理が同じであることから、リーダー/ライターの基本的な機能についても同様です。ただし、非接触ICカードの場合、ICカードとリーダー/ライターの間で、相互認証(※1)といった、より複雑な処理が行われることから、これらに関連する機能をリーダー/ライターに搭載する必要があります。
日本国内で使用されている非接触ICカードの多数がFeliCaを使用していますが、サービスごとに異なるリーダー/ライターを使用しているのが現状です。例えば、携帯電話に搭載されているモバイルFeliCaチップは1種類なのに、Suicaで決済するか、Edy(※2)で決済するかで、異なるリーダー/ライターにかざす必要があります。
このため、非接触ICカードを利用する複数のサービスに対応する店舗のレジの周囲には、複数のリーダー/ライターが設置されるような事態を招いていて、利便性が低下するだけでなく、サービスの普及にも足かせとなってしまいます。そこで、複数のサービス提供者が協力し合って、1台のリーダー/ライターで複数のサービスに対応できる機種の開発や設置、さらには決済インフラの共通化を進めています。
用語解説
※1 相互認証:非接触ICカード側からリーダー/ライターが正しいものであることを認証し、リーダー/ライター側からも非接触ICカードが正しいものであることを認証すること。
※2 Edy:ビットワレットが提供する電子マネーサービス。http://www.edy.jp/