NWGNは国を挙げた取り組みを
産学官/海外連携が必須
—海外では、このような取り組みはあるのでしょうか
青山 米国ではすでに、新世代ネットワークの取り組みが活発化しています。全米科学財団(NSF:National Science Foundation)は、2005年8月に、米国コンピュータ学会(ACM:Association for Computing Machinery)の分科会である、SIGCOMM(Special Interest Group on Data Communications、通信に関する特別会議)で、GENI(Global Environment for Networking Investigations)という、新しいネットワーク研究プロジェクトを発表しています。
このGENI(ジニーと発音)は、ネットワーク・アーキテクチャの研究で著名な、MITのデビット・クラーク博士らを中心に検討されている新世代のネットワーク・アーキテクチャの研究プロジェクトです。
現在のインターネットは、その設計原理から、オープンでトランスペアレントなネットワークでありますが、セキュリティを考慮した設計が行われていなかったため、セキュリティ対策は、その場その場の継ぎはぎ状態で対応されてきています。
最近のインターネット上では、ウイルス、アタック、スパムメール等々のセキュリティ上の問題はもとより、個人のプライバシーが第三者に奪われる可能性があります。このような状況はこれまで輝かしい発展を遂げてきたインターネットのさらなる発展の妨げになりつつあるのです。
そこで、このGENIでは、セキュリティ対策はもとより、センサー・ネットワーク、モバイル・ネットワーク、ワイヤレス・ネットワークなど多様なネットワークも包含した、ユビキタス環境をサポートする、新しいインターネット・アーキテクチャを目指しているのです。
—先ほどの先生のNWGNの提案と、かなり似ているように見えますが
青山 そうですね。昨年(2006年)9月に東京・秋葉原コンベンションホールで行われたONT3(Optical Network Testbed 3)という国際会議で、私はNXGN(次世代ネットワーク)とNWGN(新世代ネットワーク)の展開について講演しましたが、講演の後、その会議の出席者であるNSFのGENIプロジェクトの担当者から、「青山先生の提案する新世代ネットワークNWGNは、GENIプロジェクトの位置づけによく似ているので、今後連携しながら研究をすすめようではないか」と言ってくれました。
それに応じて昨年(2006年)12月、NICT(National Institute of Information and Communications Technology、情報通信研究機構)のグループとともにNSFを訪問し、新世代ネットワーク・アーキテクチャについて議論しました。このようなこともあり、今後ともGENIプロジェクトの関係者と日本の新世代ネットワークの研究者がいろいろな情報を共有し、協力し合っていこうという話になりました。
米国はARPANET(※2)、NSFNET(※3)と、20年近く、国がネットワーク・テスト・ベッドの資金を提供してきましたが、それが商用インターネットとして成長し、その結果、シスコ・システムズ、グーグル、アマゾンドットコムのような成長企業を輩出し、インターネット・ビジネスで一人勝ちを続けてきました。この成功を10年~15年後に登場する、新世代ネットワークでも柳の下のどじょうをねらう明確な戦略のもとに着々と研究・開発を進めているのです。
今、日本が手をこまねいていると、また再び米国産業の一人勝ちを許してしまうことになります。日本は、FTTHなどの光ネットワーク技術や携帯電話技術では世界の先頭を走っているのですから、国を挙げて新世代ネットワークに取り組めば、米国の一人勝ちを許さない力はあると思っています。私がプログラム・ディレクタを務めているNICTはそのような覚悟で新世代ネットワークに取り組もうとしています。
用語解説
※2 ARPANET:Advanced Research Projects Agency Network
米国国防総省高等研究計画局(ARPA)が構築した学術的なコンピュータ・ネットワーク(1969年から運用開始)。インターネットの起源ともいわれるネットワーク。運用開始当時は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)、ユタ大学、スタンフォード研究所(SRI)の4つの拠点が相互接続された。本サイト連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館 (4) リックライダー を参照。
※3 NSFNET:National Science Foundation Network
NSF(National Science Foundation、全米科学財団)が構築したネットワーク。ARPANETの後、インターネット技術はこのNSFNETを中心に発展したが、現在でもインターネットは、このNSFNETを継承し発展している。
—それは素晴らしいことですね。また、別の機会にゆっくりお伺いしたいと思います。
青山 ありがとうございます。ここで最後に、これまでお話したことをもとに今後のことをまとめますと、次のようになります。
次世代ネットワークNGN(NXGN)については、すでにNTTにおいて2006年12月末から約1年間の予定で東京と大阪で、NGNリリース1をベースにした、世界初のフィールド・トライアル(実証実験)が開始されています。今後、2007年度の下期あたりからNGNの一部商用サービスが開始される予定となっていますが、さらに、標準化の進展に伴って、2010年を目標に本格的なサービスが順次提供されていくと想定されています。
一方、NGNの次にくる新世代ネットワーク(NWGN)は、すでに構築されたNGNをベースにして、2015年~2020年頃に向けた開発と標準化を目処に、その要素技術の研究開発、ネットワーク・アーキテクチャの明確化、実証実験を行っていく必要があります。そのような2020年代の社会インフラを構成するNWGNを実現するには、産学官の緊密な連携はもとより、先ほど述べましたように国を挙げて取り組むことが是非とも必要ではないかと思っています。
—ありがとうございました
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プロフィール
青山 友紀
慶應義塾大学
デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 教授
略歴
1969年 東京大学大学院電気工学科 修士課程修了。同年、日本電信電話公社入社。以降、電気通信研究所において情報通信システム、広帯域ネットワークなどの研究に従事。1973年より1年間、米国MITに客員研究員として滞在。1994年 NTT理事 光エレクトロニクス研究所所長、1995年 NTT理事 光ネットワークシステム研究所所長を歴任。1997年より東京大学工学系研究科教授。2000年より2006年3月まで、東京大学大学院情報理工学系研究科教授。2006年4月、慶應義塾大学に転じ、現在、同デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授。工学博士。デジタル信号処理、光通信、超高精細映像、などに関する著書(共著、監修を含む)多数。
主な役職
日本学術会議会員、電子情報通信学会フェロー、現在 同学会副会長、IEEE Fellow、超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会会長、デジタルシネマ実験推進協議会会長、NPOディジタルシネマコンソーシアム理事長、NPO映像産業振興機構理事、ユビキタスネットワークフォーラム副会長、JGN2(ジャパンギガビットネットワーク2)運営委員会委員長
主な受賞歴
第9回電気通信普及財団テレコムシステム技術賞(平成6年)
平成12年度情報通信月間志田林三郎賞
第47回前島賞(平成13年度)
電子情報通信学会論文賞(平成14年度および平成16年度)
電子情報通信学会業績賞(平成16年度)
情報通信技術委員会 情報通信技術賞総務大臣表彰(平成16年度)