[標準化動向]

802.16(BWA)の標準化動向(5):802.16e-2005(モバイルWiMAX)のマルチアンテナ技術

2007/02/19
(月)
SmartGridニューズレター編集部

【1】MIMO

MIMO技術は、同一周波数を使用する1対の無線伝送系に、複数の送信アンテナ(Multi Input)と複数の受信アンテナ(Multi Output)を同時に利用する技術である。複数の送信アンテナで送信された信号は、空間で互いに混信するが、受信側ではこれらの混信信号から受信したい信号を分離・合成する信号処理を行うことによって、伝搬利得を得る技術である。

送受信に用いるアンテナ系には、AASのように送信方向制御が連携するシステムも提案されているが、ここでは電波の送信方向を明示的に意識しない方式を対象として、空間多重通信(SM)および時空間符号(STC)のそれぞれについて示す。

(1)空間多重通信(SM-MIMO)

SM(Special Multiplex、空間多重)-MIMOは、複数のコード・データ系列(データ信号一定のルールで符号化した後のビット列)を、同時にそれぞれ独立した空間に対して送信することで送信データ・レートを向上させる手法で、CCIR(Co-Channel Interference Rejection、チャネル干渉抑圧)効果、ダイバーシチ利得、アレイ利得を得ることができる方式である。CCIR効果とは、マルチパス(複数の通信路)の受信環境において、複数のパスを合成し、受信波の信号対干渉雑音比を最大化(雑音に対して相対的に信号の感度を最大にすること)させることによって、同一周波数の干渉電力を相対的に低減する効果のことである。

ダイバーシチとは、マルチパス伝搬が生じる無線通信環境において、複数の異なる電波の通信路(例えばAとB)を経由して到着する電波を受信する場合、例えば受信電力の高い通信路の電波を選択して受信したり、A,B双方の通信路から到来する電波を合成して利用する事で、信頼性の高い通信を維持することができるになる技術である。また、このとき得られる利得をダイバーシチ利得という。アレイ利得とは、複数のアンテナ素子(アレイ)を利用することによって、各アレイで受信した電波の電力が加算され、受信感度が向上する利得を言う。

SM(空間多重)-MIMO方式のシステムの基本概念は図1に示す通りで、送信機が2つの信号を同時に送信することで、送信データ・レートを2倍とする例である。詳しくはコラム1を参照。

図1 SM-MIMOの概念図
図1 SM-MIMOの概念図(クリックで拡大)

 

 

コラム1

Tx i から送信された信号をsi、Tx mからRx nのチャネル係数をhmn、Rx jで受信した信号をrjとしたとき、送信アンテナ2基、受信アンテナ2基のシステムでの送受信信号の関係式は次の行列式 [1] で表現することができる。

式[1]

受信信号から送信信号の推定式は[2]式の逆行列により行われる。

式[2]

[2]式から分かるように、SM-MIMOはチャネル行列Hに逆行列が存在するときのみ有効となり、これに合致しない伝搬環境においては、期待する送信データ・レートが達成されないことになる。

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