[特集]

対談:NGNリリース1と技術的チャレンジを語る(1):標準化されたNGNリリース1の全体像と特徴

2007/02/21
(水)
SmartGridニューズレター編集部

NGNにおける相互接続の課題

森川 そのような観点からみますと、現在のインターネットの場合でも、各ベンダのSIPプロトコルは実装が少しずつ異なっていて相互接続ができないため、大きな問題となっていますね。

—なぜ、そのような違いが出てきてしまったのですか

村上 もともとインターネットの標準化組織のIETFでは、ネットワークが動作するための最小限のルールを決め、相互接続性を確保しようとしています。したがって、相互接続はできるのですが、新しいアプリケーションにも対応できるように、標準の中に各ベンダが設定できる自由度がある場合があるのです。その自由度があるために、各ベンダで統一できなくなってしまう(相互接続できなくなってしまう)ところがあります。

このように、新しいサービスを提供しようとすると、最小限のルール・プラス・アルファの機能が(私たちはプロファイリングと言っています)求められるようになり、何かルールを追加してつくっていかなくてはならなくなる場合が出てくるのです。このような背景もあるため、ある意味では、NGNというのはそういう新しいルールづくりをしている面もあります。これはIETF標準の中に、ある許容される幅があるため、必要に応じてケース・バイ・ケースでプロファイリングをしているということなのです。

—そうすると、今先生がおっしゃられたSIPの相互接続というのは、だれがどのように進めることになるのですか

対談風景

森川 NGNの場合は、世界各国から集まって、ITU-Tでこうしましょうときちんと決め、相互接続試験を行っているのです。インターネットの場合は、それをアドホックに(適宜に)、これとこれをつなげるにはどうしたらよいか、ということをやり、相互接続できるようにしているわけです。

村上 ただIETFでは、現在でもインターネットの技術的な改良が継続的に進められています。例えば、インターネット上で新しくビデオ会議をやる場合にどのような仕掛け(技術)があるのかなどの標準化を決めるのは、やはりIETFです。また、IETFで決めたSIPプロトコルを実装した機器間の相互接続性を実装者(ベンダ)が確認するイベントとして「SIPit」(シップイット ※3)があります。昨年(2006年)4月には、東京の・秋葉原で、第18回目のSIPitが開かれています。

キャリア・ネットワークであるNGNが、エンド・ツー・エンドでほんとうに国際接続できるように標準化するのはITU-Tが担当して決めますし、当然、事業者間でのNGNの相互接続という課題があります。日本でも、次世代IPネットワーク推進フォーラム(※4)が2005年12月に設立され、相互接続の課題について検討しています。

—そうすると、NGNのIMSのところで使用されるSIPについては、完全に相互接続が可能となるのですね

村上 少なくとも、今の段階では、NGNの基本的なサービスからプロファイリング(プロトコル仕様の規準)が実施されており、相互接続が可能になる準備が進められています。しかし、SIPを各機器に搭載(実装)する場合には、やはり、実装上のSIPプロトコルの解釈ミスがないかどうかも含めて、相互接続試験を通じて実装確認していく必要があると思います。このような相互接続試験もプロファイリングの一環です。(つづく)

全5回でお届けします。ご期待ください。

用語解説

※3 SIPit:Session Initiation Protocol Interoperability Tests
SIP相互接続試験。SIPを搭載したネットワーク機器間における相互接続性の確立を目的とするSIPフォーラム(http: //www.sipforum.org/ )主導の国際的なイベント(毎回国際的に約100の組織が参加)。日本では、2006年4月17(月)~21日 (金)に、東京・秋葉原コンベンションホールで第18回目の「SIPit18」が開催された。

※4 次世代IPネットワーク推進フォーラム
ネットワークのIP化に向けて、産学官連携のもと、関係者が集結して次世代IPネットワークの相互接続試 験・実証実験に総合的に取り組むとともに、研究開発・標準化等を戦略的に推進することを目的とする〔事務局:情報通信研究機構(NICT)〕 。

プロフィール

森川博之氏

森川 博之 (もりかわ・ひろゆき)

東京大学 大学院工学系研究科
電子工学専攻 教授

略歴
1987年 東京大学 工学部 電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。1997年〜1998年 コロンビア大学客員研究員。2002〜2006年 NICTモバイルネットワークグループリーダ兼務。現在は東京大学で教授を務め、コンピュータネットワーク、モバイルコンピューティング、無線ネットワーク、フォトニックインターネット等、多岐にわたる分野で活躍している。総務省情報通信審議会、国土交通省交通審議会専門委員。


村上龍郎氏

村上 龍郎 (むらかみ・たつろう)

NTTサービスインテグレーション基盤研究所
主席研究員

 

略歴
1981年 日本電信電話公社(現NTT)に入社、武蔵野電気通信研究所。以来、通信ソフトウェアの研究、交換機ソフトウェアの開発、広域LANの構築、インターネットオフロード・VoIPの研究開発を担務し、現在、NGNアーキテクチャの検討をはじめ、NGN関連の標準化に向け精力的に活動している。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...