[スペシャルインタビュー]

RADVISIONのNGN戦略を聞く(1):開発者向けソフトウェアツールキットとIMSクライアント製品

2007/10/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

RADVISION(ラドビジョン)は、1992年に設立(本社:イスラエル・テルアビブ)され、2000年3月に米NASDAQに上場した、高画質なテレビ会議システムなどのビジュアル・コミュニケーションに関する製品・テクノロジーを提供する世界のリーディングメーカーです。全世界に430人の社員を擁し、年9千万ドル(約110億円)以上の収益を上げています。同社は、事業の主な事業分野の一つとして、NGN環境における各種ソフトウェアのツールキットおよびテスト環境なども提供しています。ツールキットとしては、V2oIP(Voice&Video over IP)、3G(第3世代携帯)、IMSなどの開発者向けソフトウェアツールキットなどがあり、テスト環境としてシグナリンク&メディアテストソリューションなどを提供しています。ここでは、中山惠介氏にRADVISIONのNGN製品の戦略を中心にお聞きしました。今回は、開発者向けソフトウェアツールキット製品の特徴からIMSクライアント製品までをお話していただきました。
取材:インプレスR&D標準技術編集部

RADVISIONのNGN製品戦略を聞く

≪1≫RADVISIONの開発者向けソフトウェアツールキット製品の特徴

〔1〕国際標準/業界標準のサポートを基本方針に

■ラドビジョン(RADVISION)の製品は、どのような方針で開発されているのでしょうか?

中山 当社では、NGN環境を実現するために各種のソフトウェアツールキット製品を提供しています。提供する製品については、設立当初から国際的標準や業界標準を重視し、これらの標準に準拠することを基本方針としています。また、情報通信関係に関するIETF、3GPP、PacketCable、ITU、OMA(※1)、ETSIなどの標準化団体に対して、積極的に仕様の提案活動を行ってきています。特に、欧州系のETSIのTISPANには、NGNをはじめ積極的に標準化の活動に参加し、これらを通して、3GPP/3GPP2 で進められているIMSなどの標準化にも多くの提案を行ってきました。

※1 用語解説
Packet-Cable:米ケーブル・ラボ(Cable Labs:Cable Television Laboratories)が、CATV(DOCSIS:Data-Over-Cable Service Interface Specifications、ケーブル・モデムの標準規格)上でVoIP(Voice over IP、IP電話)を実現するために設立した組織。
OMA :Open Mobile Alliance、オープン・モバイル・アライアンス。モバイル環境における通信サービスの標準化や普及を行う業界団体 。

さらに、SIP it、SIMPLEt、IMTC(※2)、IMS Forumなどのイベントにも積極的に参加し、相互接続ための実証実験に参加し相互接続の向上に努めてきています。また、米マイクロソフト、シスコシステムズなどの重要ベンダならびに主要なキャリア向け通信機器ベンダーとの個別テストを数多く実践し、製品間の相互接続性の実現に積極的に取り組んできています。

※2 用語解説
SIPit:Session Initiation Protocol Interoperability Tests、SIP Forumによって、SIPを実装したネットワーク機器間における相互接続性の実現を目的とした国際的な相互接続イベント(年2回開催)
SIMPLEt:SIP for Instant Messaging and Presence Leveraging Extensions testing、インスタントメッセージとプレゼンスの相互接続イベント
IMTC:IMTC:International Multimedia Teleconferencing Consortium、国際標準に基づいて相互接続可能なマルチメディア会議システムを開発したり、実装したりすることを目的とする国際的な組織。

■具体的なパートナーシップや国際的なビジネス展開の状況はいかがでしょうか?

中山 当社は、米マイクロソフト、シスコシステムズや主要なキャリア向け通信機器ベンダーはもちろんのこと、組込み端末開発ベンダー、チップベンダー、OSベンダーなどと積極的に提携して、これらの企業にRADVISIONが開発した標準プロトコルを提供し、マイクロソフトのLCS(※3)やシスコシステムズのテレビ会議アプライアンス(特定用途向けの専用装置)ならびに各ベンダーの機器を構成する製品を提供します。

※3 用語解説
LCS:Live Communications Server、業務アプリケーションなどと連携させることができるリアルタイムコ通信ようのプラットフォーム。SIP(Session Initiation Protocol、セッション開始プロトコル)やSIMPLE(SIP for Instant Messaging and Presence Leveraging Extensions、インスタントメッセージとプレゼンスサービスを実現するためにSIPを拡張したプロトコル)を基盤としている。

また、英国BT、仏国フランス・テレコム(FT)、米国スプリント(Sprint)など、そして日本のNTT、KDDI各社に納品する通信機器メーカーに、RADVISIONのSIPテクノロジが採用されており、NGN対応SIPソリューションが高く評価されています。さらに、相互接続に関しては、SIPサーバの分野でも、国際標準化機関への提案や、キャリア(通信事業者)への提案する仕様も含めて、豊富な実績をもっています。

〔2〕洗練されたAPIと豊富なサンプルソースコードの提供

■ずいぶん多彩な国際ビジネス活動を展開されていますね。ところで、御社の製品の具体的な特徴は?

中山 そうですね。RADVISIONは、お客様が開発する製品の多様性を考慮して、多くの洗練されたAPI(Application Programming Interface、アプリケーションプログラミングインタフェース)を用意して、お客様の特色ある製品開発を可能にしています。また、サンプルソースコード(見本のソフトウェア)も豊富に用意して、アプリケーションの開発期間ができるだけ短縮するようにできています。

また、デバック〔プログラムの誤り(バグ)を見つけ、取り除くこと〕時のバグの発見に有効な、ログ(記録)の機能の充実を図っています。その結果、デバッグ時間を大幅に削減できるような環境を用意しています。

さらに、当社は、マーケットで使用されている大部分のOS上で実行可能なソフトウェアツールキットを提供しています。また、開発初期時はLinux、Windowsといった汎用OS上で開発し、ターゲットハードが仕上がった後に組込みOSに移植するということが可能なアーキテクチャとなっており、お客様の要望される開発手法にも柔軟に対応できるようになっています。また、サポートしていないOSに対して、その対応をお客様から求められた場合には、2ヵ月以内に対応できるようにしています。

≪2≫RADVISIONのソフトウェアツールキットの種類

■御社が得意とするソフトウェアツールキットには、どのような製品があるのでしょうか。

中山 図1(略語は表1参照)に示しますように、RADVISIONの開発者向けソフトウェアツールキットの主なものは、SIP関連の製品を開発するためのSIPミドルウェアです。このSIPミドルウェアには、クライアント用とサーバ用の2種類が用意されています。クライアント用のミドルウェアは図1に示すのUE(User Equipment、ユーザー側端末装置)に実装されるもので、NGNネットワークに接続される端末がP-CSCF(プロキシーCSCF)とセッションネゴシエート(接続に関する交渉)する時に必要なSIPプロトコルです。

サーバ用のミドルウェアは、図1に示すAS、P-CSCF、I-CSCF、S-CSCFに実装されるもので、NGNネットワークのサービス制御機能の重要な役割を果たすSIPミドルウェアです。


図1:RADVISION のソフトウェアツールキットの種類(クリックで拡大)
略語 フルスペル 内容
UE User Equipment ユーザー端末装置
IMS IP Multimedia Subsystem IPマルチメディア・サブシステム。SIPを使用して、映像や音声などのリアルタイム・アプリケーションを、IPベースのパケット網上でも提供できるようにするために、3GPPで標準化されたNGNの中核的な仕組み。
3GPP Third Generation Partnership Project 第3世代パートナーシップ・プロジェクト。W-CDMAと呼ばれている第3世代(3G)移動通信システムの標準化作業等を行う組織。IMSの標準化も行っている。
IMMGW IMS Media Gateway IMSメディア・ゲートウェイ。回線交換網(例:電話網)とIP網の相互接続や中継ルーティングを行うほか、回線交換網のデータとIP網のデータを変換する機能。
CSCF Call Session Control Function 呼セッション制御機能。CSCFは、IMSにおけるSIPサーバの呼称(SIPサーバ:IP網上でSIPによってセッション制御を行うサーバ)。CSCFは、網内の役割に応じて、P-CSCF、I-CSCF、S-CSCFの3つのCSCFがある
I-CSCF Interrogating-CSCF インテロゲーティングCSCF。インテロゲートとは、「問い合わせる」と言う意味がある。他の通信事業者のIMS網から受信したSIPメッセージを、宛先情報等から自網内に設置されている適切なS-CSCF(中心的なSIPサーバ)へ処理を依頼するサーバ機能。
S-CSCF Serving-CSCF サービングCSCF。サービングとは、「サービスを実行する」と言う意味。実際にサービスを実行したり、セッション制御を行う中心的なSIPサーバ機能。
P-CSCF Proxy-CSCF プロキシーCSCF。プロキシーとは、「代理」と言う意味。ユーザー端末(SIP端末)から最初にSIPメッセージを受け取るSIPサーバ(事前に割り当てられている)。P-CSCFは、端末から受信したSIPメッセージをS-CSCFへ送り、実行する。
AS Application Server IMSに接続されるアプリケーション・サーバ。このASは、S-CSCFに接続されて、アプリケーション・サービスを提供する。
HSS Home Subscriber Server ホーム加入者情報サーバ。ユーザー名や端末位置情報などユーザー情報を一元管理するデータベース。
SLF Subscription Locator Function 加入者ロケータ機能。1つの網に複数のHSSがある場合に、そのユーザーがどのHSSに割り当てられているかを見つけ出すためのデータベース。
PDF Policy Decision Function ポリシー決定機能。サービスのQoS要求条件等を含むポリシー(ビットレート等)を決定する機能。
MGCF Media Gateway Control Function メディア・ゲートウェイ制御機能。SIPと電話網の制御信号(ISUP)の変換等を行う機能。
BGCF Breakout Gateway Control Function ブレークアウト・ゲートウェイ制御機能。IMSと相互接続する電話網の選択等を行う機能。
UPSF User Profile Service Function ユーザー・プロファイル・サービス機能。IMSへの加入ユーザーに関する情報(プロファイル)のデータベース(TISPAN標準)。3GPPのHSSに相当する機能。
MGCF Media Gateway Control Function メディア・ゲートウェイ制御機能。IMS網と電話網を相互接続する際のゲートウェイ(相互接続装置)。
SGW Signaling Gateway シグナリング・ゲートウェイ。SIPと電話網の呼制御信号を変換する装置。
MRF Multimedia Resource Function マルチメディア・リソース機能。音声や映像などの通信メディアに、サービスを提供するために必要な処理を行う機能。例:画像の符号変換処理等。
MRFC Multimedia Resource Function Controller マルチメディア・リソース機能制御部
MRFP Multimedia Resource Function Processor マルチメディア・リソース機能処理部。
GGSN Gateway GPRS Support Node パケット・データ網との相互接続装置
SGSN Serving GPRS Support Node アクセス網側のパケット交換機
RAN Radio Access Network 無線アクセス網

表1 図1の略語解説
〔参考:そこが知りたい最新技術「IMS入門」、インプレスR&D刊、2007年〕

この他に、RADVISIONは、NGN環境における典型的な情報端末であるマルチメディア端末の開発のためのミドルウェアとしてRTP/RTCPツールキットも提供しています。これはNGNやFMCネットワークのIP上で動作するVoIP(IP電話)やIPTV(IPテレビ)などのリアルタイムメディアアプリケーションの開発をサポートするツールキットです。3Gと以降の世代の携帯電話機、PDA、IPTV、ゲーム機などの開発に適用されます。

図2に、RADVISIONの開発コンポーネントスイート(開発用ソフトウェアの組み合わせ)の内容を示します。


図2:RADVISION の IMS 開発者スイートコンポーネント(クリックで拡大)

〔1〕SIPツールキット(SIPクライアント開発用ミドルウェア)

■ユーザー端末(クライアント)は、どのようなプロトコル構成で動作しているのでしょうか?

 

中山 図3に、SIPクライアント(SIP端末)開発用ミドルウェアの構成を示しますが、RADVISIONのSIPクライアント開発用ミドルウェアは、SIPツールキットとして、アドオン(追加)モジュールと連動して全世界の通信事業者が構築するNGN網に対して、迅速に適合できるようになっています。さらに、これに加えて、独自の機能の実装も可能です。さらに、このSIPツールキットはコンパクトな組み込みデバイスからハイエンドの通信システムまで適用可能なアークテクチャを備えているため、NGN/SIPシステムを幅広く開発する場合に適した製品となっています。


図3:SIPツールキットの構成(クリックで拡大)

また、このSIPツールキットは、図3に示すように、主に、

(1)SIPスタック
(2)SDPスタック
(3)簡易RTP/RTCPスタック
(4)OS抽象化コンポーネント

 

4つのコンポーネントから構成されています。

さらに、この他にオプションとして、表2に示す6種類のアドオン(追加)モジュールが用意されています。

アドオンモジュール 内容
(1)IMS IMSアドオンモジュールは、最新の3GPPやTISPAN IMS要求などをサポート。
(2)SigComp SigComp(Signaling Compression、シグナリング圧縮)アドオンモジュールは、SIPなどのテキストベースのアプリケーションプロトコルによって生成されたメッセージを、圧縮するソリューションである。
(3)SIMPLE SIMPLE Client アドオンモジュールは、SIMPLE アプリケーション開発(プレゼンスや IM など)に必要な機能を提供します。SIP ツールキットで提供されるサブスクリプション機能(RFC3265)をより抽象化することによって、開発期間を大幅に短縮することが可能である。
(注)SIMPLE:SIP for Instant Messaging and Presence Leveraging Extensions、インスタントメッセージとプレゼンスサービスを実現するためにSIPを拡張したプロトコル。
(4)XML Schema Package XML Schema Package アドオンモジュールは、XMLスキーマ(構造を記述したもの)に従ったXML メッセージを作成・解析するためのAPIである。
(5)Microsoft CSTA XML Microsoft CSTA XMLアドオンモジュールは、Microsoft LCS(Live Communication Server)ネットワークのCSTA(Computer Supported Telephony Applications)サーバとの接続に必要とされる CSTA XML スキーマである。
(注)CSTA:ネットワークサーバと電話交換機を接続する国際標準インタフェース
(6)SCTP SCTP(Stream Control Transmission Protocol、ストリーム制御伝送プロトコル)は、IPネットワークなどの信頼性のないプロトコル上で、耐故障性に優れた通信路を提供するトランスポート層のプロトコルの一種である。

表2 SIPツールキットの6種類のアドオン(追加)モジュール(オプション)

最新のSIPツールキットバージョン5.0では、主に次のものをサポートしました。

(1) Pヘッダ(Private ヘッダ)の追加サポート
(2)ルーティング機能を強化するGlobally Routable UA URI(GRUU)
(3)Micorsoft Windows Mobile6.0とWindowsVistaの追加サポート


図4:RADVISIONの IMS クライアントの例(クリックで拡大)

このツールキットを活用して図4に示すようなNGN対応のマルチメディア端末を開発することが可能になります。プロトコルにNGN-SIPを採用することによって、アクセスライン(アクセス回線:ADSLやFTTH、CATVなどの固定網や移動網)を選ぶことなく、いつでも・どこでも・どんなサービスでもセキュア(安全)な情報にアクセスすることができ、情報の発信を行うことができます。

(つづく)

プロフィール

橋本 信氏

中山惠介(なかやま しげよし)

現職:RADVISION(ラドビジョン)ジャパン
セールス・マネージャ

1986年 ネットワンシステムズ株式会社入社。主に製造系の企業にイーサネットネットワーク、TCP/IPネットワークシステムの普及に関わる。
1999年 シスコシステムズに入社、エンタープライズの顧客に100G/1G/10Gネットワークを提案。また、VoIP/セキュリティネットワーク/無線LANの導入を導く。
2005年からRADVISION Japanにてテクニカルビジネスユニットにてプロトコルスタックを情報家電向けソリューションとして提案活動を実施。

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