≪2≫固定通信と移動通信、そして放送の融合をモバイルから目指すFMBC戦略
■それでは、移動通信系ネットワークのIP化についてはいかがでしょうか。
安田 豊氏
(KDDI 執行役員 コア技術統括本部長)
安田 当社の移動通信網の場合、IP化の目標としては、すでに発表しているウルトラ3G構想を推進する中で具体化していきます。
ただし、IP化にもいろいろなレベルがありますが、本当にオールIP化といえるのは、固定電話でも携帯電話でもすべてVoIP(Voice over IP、IP電話)サービスを実現できた時点ということになります。ところが、電話は通常はアナログ信号をデジタル化し、しかも実時間(リアルタイム)で行う必要があります。そのような特性を持つ既存(レガシー)の電話をすべてVoIPにするとなると、遅延や信頼性の課題など、まだいくつか克服しなければならないテーマがあり、それは固定通信よりも移動通信の方がさらに厳しい条件となります。
ですから、海外のモバイル・キャリアも、いずれはオールIP化すると言ってはいますが、レガシーな電話まで含めてすべて完全にIP化するには、時間がかかると思います。
KDDIとしては、ひかりone(FTTH)とかメタルプラス(KDDI直収の固定電話サービス)などのアクセス系と接続する、コアのネットワークから順次IP化を進めています。移動通信のほうもIP化できるところは、どんどん進めています。例えば、2006年にサービスを開始したauのテレビ電話システムなどでは、音声をIP化したVoIPの技術が使われています。
このように移動通信のIP化でも、固定通信の場合と同様に、お客様に迷惑をかけないことを前提に、より便利な新しいサービスを提供できるように、さらにコストの面でもバランスをとれるように、いくつかの要因をセットで考えながら進めているという状況です。
■KDDIが進めるウルトラ3Gについて具体的に説明していただけますか。
安田 当社は、固定通信も移動通信もすべて提供している会社なので、ウルトラ3G構想は移動通信のことだけを指すのではありません。図2に示すように、移動通信をベースにして、これに固定通信のサービスやネットワークを融合していこうというのがウルトラ3Gです。この構想は、当社ではFMBC(Fixed Mobile and Broadcast Convergence)と称しています。FMC(Fixed Mobile Convergence、移動通信と固定通信の融合)に近い考えですが、現在は通信と放送の融合が目前という時代を迎え、ケータイでもテレビ(ワンセグ)などの映像系のサービスが利用できるようになってきていることもあり、FMCにブロードキャスト(Broadcast、放送)の意味も含めたFMBCを使っています。
■FMBCという用語は、これまではウルトラ3Gの陰に隠れていたという印象がありますが?
安田 次世代の構想を発表した当初はウルトラ3Gを前面に出していましたが、最近では映像系や放送系のサービスを、現在よりもさらに多く提供できるように目指したいという戦略から、FMBCを重視するようになっています。
■KDDIは、NGNという用語よりもFMBCという表現を使っているように思いますが、両者の意味する内容は違うのでしょうか。
安田 NGNもFMBCも意味としては同じものです。会社としての統一的なコンセンサスではないのですが、NGNは次世代の通信インフラを重視したネーミングで、次世代のサービスを重視したネーミングがFMBCととらえています。FMBCは、英語の略語なので分かりにくいところもありますが、意味としては固定通信と移動通信と放送が結びついた次世代のサービスやネットワークだということです。
今後はユーザーからみても、KDDIのFMBCとはこういうものだというわかりやすい形にできるように、順番に実現していきます。現時点では、ネットワーク側の構築から進めており、2008年以降に、具体的な次世代サービスとしてFMBCサービスを順次発表していく予定です。
プロフィール
安田 豊(やすだ ゆたか)
現職:KDDI(株) 執行役員 コア技術統括本部長
1975年 3月 京都大学大学院 工学研究科修了(電気系)
1975年 4月 国際電信電話(株)(KDD)入社 研究所 衛星通信研究室勤務
1984年 6月 インマルサット(本部:ロンドン)出向
1990年 7月 KDD本社 事業開発本部 移動通信室長
1994年11月 アステル東京出向(サービス開発部長など)
1998年 4月 KDD 本社 IMT-2000推進室長
2000年10月 KDDI(株)理事 移動体技術本部 モバイルIT部長
2001年 6月 同 技術開発本部 ITS推進部長
2002年 6月 同 au事業企画本部 サービス開発部長
2003年 4月 同 執行役員 au事業本部 au技術本部長
2005年12月 同 技術統轄本部長
2007年 4月 同 コア技術統括本部長