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東工大とブリヂストンの研究チームが油圧駆動の人工筋肉を開発、災害現場向けロボットへの応用も

2017/01/26
(木)
SmartGridニューズレター編集部

東京工業大学の鈴森康一教授とブリヂストンの櫻井良フェローが率いる研究チームは、油圧で駆動し、大きな力を発揮する人工筋肉の開発に成功したと発表した。

東京工業大学の鈴森康一教授とブリヂストンの櫻井良フェローが率いる研究チームは2017年1月26日、油圧で駆動し、大きな力を発揮する人工筋肉の開発に成功したと発表した。内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「タフ・ロボティクス・チャレンジ」の一環として研究していたものが成果となった形だ。新開発の人工筋肉は、自重が軽くて大きな力を発揮でき、丈夫で壊れにくく、弱い力で優しく作業することも可能という特徴を兼ね備えたものだという。

現在、実用になっているロボットは電気モーターで駆動するものが多いが、電気モーターには発生する力をモーターの自重で割った値である「力/自重 比」が低いという問題がある。言い換えれば、電気モーターは自重が重い割には力が弱いということだ。さらに、外部からの衝撃や振動に弱く、壊れやすい。大きな力は出せるが、弱い力で優しい作業ができないという問題もある。

そこで東京工業大学とブリヂストンの研究チームは、大きな力を発揮する能力と、弱い力で優しい作業ができる能力を兼ね備えた人間の筋肉に注目し、さらに人間では不可能なレベルの大きな力を出すことを目標として、2014年から「ハイパワー人工筋肉」の研究開発に取り組んできた。

今回、東京工業大学とブリヂストンの研究チームが開発に成功したのは「マッキベン(Mckibben)型」と呼ぶ人工筋肉。マッキベン型の人工筋肉はゴムチューブを繊維を織ったスリーブで包んだ構造となっている。スリーブはゴムチューブが軸方向に伸びるのを抑える役目を果たす。この人工筋肉のゴムチューブに空気圧を加えると、繊維スリーブの働きで軸方向には伸びず、チューブの半径方向に膨張して、軸方向には収縮する。この収縮する動きを動力として利用する。

図 マッキベン型人工筋肉の構造

図 マッキベン型人工筋肉の構造

出所 東京工業大学

従来のマッキベン型人工筋肉は0.3~0.6MPaの空気圧で動作するが、それほど大きな力を発揮できるものではない。今回研究チームが開発した人工筋肉では、5MPaの油圧で駆動することを可能とし、従来のマッキベン型人工筋肉よりもはるかに大きな力を発生させることに成功した。従来の電気モーターや油圧シリンダーに比べると、「力/自重 比」が約5倍~10倍になるという。

この人工筋肉を実現するために、重点的に開発に取り組んだ点は3点。1点目は油に強く、柔軟に変形するゴム素材の開発。2点目はスリーブとなる高張力の人工繊維の編み方の工夫。3点目はチューブ端末の締め付け技術の開発。油圧による高い圧力に耐えるものの開発に取り組んだ。

図 今回開発した油圧人工筋肉。油圧をかけると上の写真ように伸び切った状態から、下の写真のように収縮する

図 今回開発した油圧人工筋肉。油圧をかけると上の写真ように伸び切った状態から、下の写真のように収縮する

出所 ブリヂストン

完成した人工筋肉は最大で7kN(700kgf)の力を発揮するものになった。また、主たる部分をゴムチューブと人工繊維で構成しているため、自重が軽く、外部からの激しい衝撃や強い力にも十分耐えるものになったとしている。従来の電気モーターで駆動するロボットでは難しかった、激しい衝撃を受ける作業にも利用できるという。研究チームはその例として、インパクトドリルを人工筋肉で動かして、コンクリート片を砕く様子を動画で公開してる。動画では、6本の人工筋肉を動かして、ドライバーを細かく動かす様子も見せている。弱い力で優しい作業もできるということが分かる。

油圧人工筋肉が動くところ

出所 Suzumori Endo Robotics Laboratory

研究チームは今後、この人工筋肉を使って厳しい環境で動作する頑健なロボットの開発、実用化を目指すとしている。さらなる高性能化も進め、産業用、家庭用ロボットのアクチュエーターとして普及させることも目指すという。


■リンク
東京工業大学
ブリヂストン
国立研究開発法人 科学技術振興機構

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