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Daimler、乗用車向けに新たに開発した燃料電池をデータセンターで利用する試験を実施

2017/11/13
(月)
SmartGridニューズレター編集部

Daimlerは、同社が開発した乗用車向け燃料電池をデータセンターの電源として使用する試験を実施すると発表した。

Daimlerは2017年11月10日(ドイツ時間)、同社が開発した乗用車向け燃料電池をデータセンターの電源として使用する試験を実施すると発表した。試験にはDaimlerの100%子会社で燃料電池を研究開発しているドイツNuCellSys社と、Mercedes-Benzの北米研究所、Daimlerで新規事業の研究と立ち上げを担当している「Lab1886」も参加する。そして、データセンター機器での検証のために、アメリカHewlett Packard Enterpriseと、データセンター向けの電力設備を開発販売しているアメリカPower Innovations International社の協力を得る。さらに、アメリカエネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory:NREL)も協力する。

試験では、Daimlerが開発中の燃料電池車(FCV)「Mercedes-Benz GLC F-CELL」に搭載する燃料電池を使用する。Daimlerはこの車両の量産前試作車を2017年9月のフランクフルトモーターショーで披露しており、これが世界初公開となっている(参考記事)。この車両が搭載する燃料電池は新開発のもので、従来のものよりも体積を30%縮小しながら、出力を40%向上させている。さらに、水素を反応させる触媒となるプラチナ(Pt、白金)の使用量を90%削減削減することに成功しているという。

図 Daimlerが、9月のフランクフルトモーターショーで公開した燃料電池車「Mercedes-Benz GLC F-CELL」

図 Daimlerが、9月のフランクフルトモーターショーで公開した燃料電池車「Mercedes-Benz GLC F-CELL」

出所 Daimler

今回の試験では、Daimlerの燃料電池をデータセンター内に持ち込み、サーバーやストレージ機器、ネットワークスイッチなどを収めたラックのそばに設置して、バックアップ用電源と、主電源として使ってみてその性能や運用コストなどを検証する。

図 データセンターのラックの隣に設置した、Daimlerの燃料電池

図 データセンターのラックの隣に設置した、Daimlerの燃料電池

出所 Daimler

クラウドサービスの普及により、データセンターは世界の産業の中でも最も電力を消費するものの1つになっている。アメリカでは2020年までに全土のデータセンターが年間に消費する電力量の総量が140TWh(1400億kWh)に達するという予測もある。これは、だいたい50の発電所が発電する電力量に相当するという。そして、その電力を作るには年間で1億トンのCO2を排出することになる。Daimlerは、増大する一方のデータセンターの電力需要は、再生可能エネルギーなど、地球環境に悪影響を与えない方法で満たすしかないとしている。

その点、燃料電池は理想的な電源だ。水素を供給すれば電力を発生させ、その結果排出するものは水(H2O)だけだ。自動車での稼働実績を見れば、燃料電池という機器と、それが供給する電力の信頼性は十分なものと考えられる。さらに、データセンターに使用するときは必要に応じて燃料電池の台数を増やしていくことでほぼ無限に拡張していける。動作に伴う騒音はほとんどなく、メンテナンスもそれほど頻繁に実施する必要なないという。

またDaimlerはこの実験で、再生可能エネルギー由来の電力で水素を発生させ、その水素で燃料電池を動作させることも計画している。実現すればCO2排出量がほぼゼロの発電施設になる。そのために、風力発電設備と太陽光発電システムを設置する。発電した電気で電気分解装置を動作させて水から水素(H2)を取り出し、タンクに蓄積しておく。気候や時間帯の問題で風力発電や太陽光発電が動作しないときは、タンクに貯めた水素を使って発電を続ける。

この方式を利用することで、データセンターの建設コストを大きく削減できるという効果もあるという。データセンターでは、商用電源の停電に備えて、ディーゼルエンジンの発電機や、大型のUPS(Uninterruptible Power Supply;無停電電源装置)を備えている。水素をタンクに貯めながら電力を供給する燃料電池を使えば、停電対策の機器は必要なくなる。また、何台もの燃料電池を用意して、ラックのすぐそばにせっちするため、配電設備や各機器に電力を届ける長い銅配線なども不要になる。その結果、データセンターの建設コストを30~40%削減できるという。

Hewlett Packard Enterpriseの副社長で、High-Performance Computing事業と、AI(Artificial Intelligence:人工知能)事業を統括するBill Mannel氏は「急速に膨れ上がっているデータセンターの電力需要は、既存の送配電網に大きな負担をかけている。Daimlerの燃料電池なら、長く使え、低コストで運用でき、導入も簡単だ。これでデータセンター業者の電力需要に応えることができるだろう」と語っている。Hewlett Packard Enterpriseは、今回の試験のために同社の大型サーバー「HPE Apollo 6000 Gen10」「HPE SGI 8600」などを提供するという。

Daimlerは、小規模の試作施設での試験はすでに済ませており、その検証結果は2017年11月から13日に開催予定の「SuperComputing 2017」(コロラド州デンバー)で発表する。2018年にはより大きな規模の試験施設を構築して、試験を開始する予定だ。


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Daimler

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