川重冷熱工業と川崎重工業は2018年5月14日、水素のみを燃料としながらも、窒素酸化物(NOx)排出量を世界最低レベルまで抑えた工業用バーナーを開発したと発表した。2018年3月から川重冷熱工業の滋賀工場で、貫流ボイラーに組み込んで燃焼試験を実施して、NOx排出量の少なさを確認したという。
図 右側の写真が燃焼試験に使用した貫流ボイラーの実機、左側は内部模式図
出所 川重冷熱工業
水素は燃焼時にCO2を排出しないことから、ガスに代わる燃料として注目が集まっている。しかし、燃焼時に発生する火炎の温度が天然ガスなどに比べて高いため、NOx排出量が大きいという問題がある。その量は天然ガスのおよそ3倍にもなる。
そのため、既存の水素専焼バーナーでは燃焼室に蒸気を噴霧し、排ガスの一部を燃焼室に再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)させて、火炎の温度を下げてNOx排出量を抑えている。しかし、追加の機器が必要になる上、NOx抑制効果にも限界があった。
今回開発したバーナーは、川崎重工業の水素焚きガスタービンの開発で得たノウハウを活かし、水素と空気を混合する独自開発の方式を採用した。ボイラーの実運転で必要な「低空気比(燃料に混合する空気が少ない状態)」の運転でも、NOx排出量は天然ガスを燃料としたボイラーとほぼ変わらないという。
貫流ボイラーは高熱の蒸気や熱水を作り出す装置で、化学工場や製鉄所で使う例が多い。その燃料として水素を利用できれば、工場が排出するCO2とNOxの量を大きく引き下げることが可能だ。川重冷熱工業は、石油化学プラントや製鉄所、苛性ソーダの生産工程で発生する水素の注目し、これらの未利用の水素を貫流ボイラで利用できれば、工場の燃料コストを大きく下げることも可能だと考えている。そして、2019年には水素のみを燃料とした貫流ボイラーの完成を目指すとしている。将来は吸収冷熱機などの機器にも水素を応用し、水素で動作する機器のラインナップを拡張していく姿勢を見せている。