[特集]

スマートフォン/スマートグリッド時代と海外におけるクラウドの最新動向(第2回)

2011/06/09
(木)
SmartGridニューズレター編集部

去る2011年5月11日(水)~13日(金)に、東京ビッグサイトで開催された『Japan IT Week【春】』(主催:リード エグジビション ジャパン)には、1,241社(複数の同時開催展示会を含む)が出展、来場者数は124,056名にのぼった。また、同時に並行して行われたセミナーには、21,514名が参加するなど盛況であった。ここでは、そのうちの第2回クラウドコンピューティングEXPO【春】で開催されたセミナーから、情報通信総合研究所(ICR)副主任研究員 新井宏征氏の講演「海外におけるクラウド最新動向」の内容をレポートする。同セミナーの内容は、注目される世界のクラウドの最新動向の講演とあって、会場は満席となり、来場者から好評を博した。第2回は、世界のクラウド市場の状況やユーザーのクラウドの導入意向、世界のCIOが重視するITテクノロジーなどを中心に解説する。

スマートフォン/スマートグリッド時代と海外におけるクラウドの最新動向(第2回)
満席となった「世界のクラウドの最新動向」セミナー会場(講師:新井宏征氏)
満席となった「世界のクラウドの最新動向」セミナー会場(講師:新井宏征氏)

≪1≫世界のクラウド市場の状況;SaaSが急成長

前回説明したような、大きな動きがあるIT環境の中で、世界のクラウド市場に特化して見ますとどのような状態にあるのかを、図1(IDC調べ)に示します。

図1に示す具体的な市場規模で、アプリケーションズと書かれている黄色い部分がSaaSに相当します。そして2009年の実績を見てみますと、アプリケーションズが約半分(49%)ということで、現在、SaaSがクラウドという分野の中では一番使われているものになっています。


図1 世界のクラウド市場の状況(クリックで拡大)

図1 世界のクラウド市場の状況


次に図1の左から右を見ますと、今後の5年間の市場の変化が分かりますが、PaaSに相当する赤い部分〔図1のApp Dev/Deploy(アプリケーション ディベロップメント/デプロイメント)の部分〕が一番大きく伸びてくる分野として考えられています。その中で、それぞれのPaaSがプラットフォームとしての魅力をどれだけ訴求できていくのか、そして、後ほどご紹介しますような「オープンとの闘い」があると思いますので、そのような流れの中で各企業のPaaSがどのような展開になっていくのかということが、今後、注目すべき点だと考えています。


≪2≫IT市場全体でも、大きなクラウドの成長率

図2は、IT市場全体の中で、今後、クラウド(青の部分)がどのような成長率となるかを示したグラフです。やはり2009年と2014年で比較していますが、2009年におけるクラウド市場規模は、全体のIT市場と比べて4%(従来のIT市場の25分の1)という規模になっていますが、2014年では12%(従来のIT市場の8分の1)という大きさになると言われています。なお、図1の青い部分は、具体的にはパブリックITクラウドサービスを指していますので、プライベートクラウドのようなものは入っていません。すなわち、パブリックITクラウドサービスがIT市場の中で1割以上を占めるようになっていくというのが、今後のクラウドの市場規模の予測です。


図2 IT市場全体でもクラウドの成長率は大きい(クリックで拡大)

図2 IT市場全体でもクラウドの成長率は大きい



≪3≫ユーザーはいろいろなクラウドをどう見ているか

次に、ユーザーが実際にいろいろなクラウドをどう見ているかを示したのが図3(こちらは米国における調査)です。

まず1つ目は、今後の導入意向では、米国の中でも67%と圧倒的に多いのがプライベートクラウドとなっています。その下の仮想プライベートクラウド(例:アマゾンがやっているAmazon VPCなどを含む)が30%となっています。この傾向から、クラウドには、セキュリティにまだ何らかの懸念があるというところが、垣間見られる結果ではないかと思います。


図3 ユーザーのクラウドの導入意向(クリックで拡大)

図3 ユーザーのクラウドの導入意向



≪4≫世界のCIOが重視するITテクノロジーは?

次に、もう少し別の見方として、クラウドに限らず、さまざまなITの分野で世界のCIOが2011年に重要視するテクノロジーは何かという結果を示しているのが図4です。図4では、一番左に2011年に重視するテクノロジーの上位10個を順番に並べています。その右側が2011年、2010年のそれぞれの項目のランキングになります。一番右側は日本における2011年の、日本だけのランキングで、それぞれが何位であるかを示しています。図4から、やはりクラウドコンピューティングや仮想化という技術に関心が強くなっていることがわかります。


図4 世界のCIOが重視するITテクノロジー(クリックで拡大)

図4 世界のCIOが重視するITテクノロジー


図4で、注目すべき点は、クラウドと仮想化が2010年と2011年で逆転しているということです。こちらはもちろんいろいろな理由があるかと思いますが、その理由の1つを推測するための資料が、図5に示すCIOが重視するビジネス戦略になります。


図5 CIOが2011年に重視するビジネス戦略(クリックで拡大)

図5 CIOが2011年に重視するビジネス戦略


特に世界のほうのランキングを見てみますと顕著ですが、2011年で重視している上位10個の項目が2010年ではほとんど入ってきていなかったことがわかります。2010年では4つしか入ってきておりませんし、しかもランキングもばらばらになってしまっています。

ここで、図5を少し詳しく見てみましょう。

まず、2010年では、CIOがどのようなことを注目していたのかを見てみますと、1位は2011年の5位にあるビジネスプロセスを改善するという部分です。そして2位が、今年の3位になっている企業コストを削減するということです。つまり現状を改善する、そして現状を平均の状態にまで持ってくるというところが2010年の傾向としてみられます。

これが、2011年になりますと、1位が企業成長を加速する、2位が新規顧客を獲得し維持する、3位がコストを削減するとなっています。このように、1位、2位を見ますと、新しくパイを広げていく、成長していくというところに重点が置かれていることがわかります。

このようなユーザーの意向が、前述したテクノロジーのランキングに影響しており、2010年は1位だった仮想化が2011年は2位となり、クラウドコンピューティングの具体的なサービスを使って攻めの戦略に転換していくというところからクラウドが1位になっているという点が、ユーザーの意向から出てきているのではないかと見ています。


≪6≫アプリ開発者はクラウドコンピューティングをどう見ているか

もう一つ大事な存在として、クラウドを見るときに見逃してはいけないのが開発者の存在です。開発者がいなければ当然新しいアプリケーションは開発されないわけですので、その開発者がクラウドコンピューティングを、現在どう見ているのかを図6に示します。


図6 アプリ開発者はクラウドコンピューティングをどう見ているか(クリックで拡大)

図6 アプリ開発者はクラウドコンピューティングをどう見ているか


まず、図6の上部に示すように、207名のアプリ開発者の方にどのプラットフォームを利用しますかと聞いたところ、順番に並んでいなくて少し見えにくいですが、一番下に示すアマゾンが、圧倒的に多い43.9%になっています。その次が一番上の部分にあるグーグルのアップエンジン(Google AppEngine、PaaS)が28%、そして3位が、下のほうにありますマイクロソフト・ウィンドウズ・アジュール(Windows Azure)が22.7%ということで、大手ITベンダーが上位の3位を占めていることがわかります。

もう一つ、図6の下部に示すアンケート(オライリー・リサーチ調査)の結果ですが、米国で最も求められているクラウドのスキルということで、やはりここでも一番高いのがアマゾンになっています。そして、このアマゾンを100とすると、次いで多いのがグーグルのアップエンジン、そしてウィンドウズ・アジュール、ラックスペース(Rackspace)となっており、やはり図6の上部に示すアンケートと比較的同じような傾向が出ていることがわかります。


≪7≫2011年はクラウド対応のモバイルアプリが増える

もう一つ、図7は、モバイルのアプリの開発者に対するアンケートとその結果を示しています。モバイルのアプリの開発者に、今年(2011年)どのようなアプリケーションをつくっていくのかというアンケート結果です。例えば、タブレット端末やスマートフォンなどが急増している背景もあり、クラウド対応のモバイルアプリの開発数が大幅に増えることが分かります。

詳しくは、下記URLを参照してください。

http://www.appcelerator.com/company/survey-results/mobile-developer-report-january-2011/


図7 2011年はクラウド対応のモバイルアプリが増える(クリックで拡大)

図7 2011年はクラウド対応のモバイルアプリが増える


また、図7の赤い線で表現しているのは、クラウド対応のアプリケーションはそのうち何%を占めるかというアンケートで、2010年は開発する中の6割(64%)ぐらいがクラウド対応だったものが、2011年になると9割弱(87%)という数字になっています。例えば、iPhoneのアプリの中には、iPhoneのローカルにデータを保存するアプリケーションがあります。一方、例えばグーグルのカレンダーと接続して、iPhoneからつないでもグーグルのカレンダーを閲覧でき、データを同期することができるアプリケーションもありますが、そのようなアプリのことをクラウド対応のアプリケーションと呼んでいます。今後iPhone、あるいはアンドロイド、と個別のスマートフォンだけで完結する使い方ではなく、そのようなクラウド上のアプリケーションと連携させるような利用方法が増えてくるのがここからわかるかと思います。

図8は、最後のアンケート(IBMの調査)で、2015年までの開発者の開発環境ですが、その中で、一番大きい点は、今後、モバイルプラットフォームが主流になっていくであろうという回答が多くを占めていることです。


図8 アプリ開発の対象はモバイルやクラウドへ(クリックで拡大)

図8 アプリ開発の対象はモバイルやクラウドへ

(出所:IBMプレスリリース、2010年10月13日 
http://www-06.ibm.com/jp/press/2010/10/1302.html


これ以外の項目として、IBMのプレスリリース(2010年10月13日)に詳細が出ていますが、91%の回答者が今後5年間でクラウドコンピューティングは、業務用ITコンピューティングの主流になるため、開発者はクラウドが業務用のアプリケーションでどんどん使われるようになってくると考えています。

今後、大きい動きとして、モバイルとクラウドを連携して使用することが主流となっていくことが、このアンケート結果からわかります。

(第3回に続く)



プロフィール

新井 宏征(あらい ひろゆき)氏

新井 宏征(あらい ひろゆき)氏

現職:
株式会社情報通信総合研究所
マーケティング・ソリューション研究グループ副主任研究員

【略歴】
SAPジャパンにて、主にBI(ビジネスインテリジェンス)関連のコンサルティング業務に従事した後、2007年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。マーケティング・ソリューション研究グループにて、主に法人関連分野の調査研究、コンサルティング業務に従事。注目しているテーマは、スマートグリッドのほか、クラウドコンピューティングなどがある。東京外国語大学大学院修了。主な著書に『世界のスマートグリッド政策と標準化動向2011』・『日米欧のスマートメーターとAMI・HEMS最新動向2011』・『日米欧のスマートハウスと標準プロトコル2010』(共著)・『スマートグリッド教科書』・『グーグルのグリーン戦略』(以上、インプレスR&D刊)、『情報通信アウトルック2011』・『情報通信データブック2011』(NTT出版;共著)、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』・『アップタイムマネジメント戦略的保守のすすめ』等(翔泳社)がある。ドメイン取得を好むtwitter中毒者(アカウントは@stylishidea)。

【バックナンバー】

スマートフォン/スマートグリッド時代と海外におけるクラウドの最新動向(第1回)

スマートフォン/スマートグリッド時代と海外におけるクラウドの最新動向(第2回)

スマートフォン/スマートグリッド時代と海外におけるクラウドの最新動向(第3回:最終回)

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