Audiは2017年3月7日(ドイツ時間)、同社が開発販売している天然ガス車をヨーロッパで購入すると、無償で人工ガスを3年間供給すると発表した。このガスの供給を受けて自動車を走らせることで、ガソリン車と比べてCO2排出量を80%抑えることができるという。
対象となる車種は「Audi A3 Sportback g-tron」。2018年5月31日までに対象車種を注文すると、人工ガスの供給を受けられる。Audi A3 Sportback g-tronは燃料として圧縮天然ガスとガソリンを利用する自動車。通常時は天然ガスを燃料として走行するが、ガスが残り少なくなり、エンジンに十分な圧力でガスを供給できなくなると、ガソリンを燃料として走行する。天然ガスでおよそ400km、ガソリンでおよそ900km、合計で1300km連続で走行できる。搭載するエンジンは過給機(ターボチャージャー)付き直噴4気筒エンジン「TFSI」。排気量は1.4リットルで、出力は最大で81kWになる。
図 Audi A3 Sportback g-tron。天然ガスを燃料としておよそ400km走行する
出所 Audi
天然ガスはガソリンに比べればCO2排出量が少ない燃料だが、ガソリンに比べて排出量が80%低いということは考えられない。それを可能にするのがAudiが開発した人工ガス「Audi e-gas」だ。
Audi e-gasの製造方法は2通りある。1つ目は、藁や草などの有機性の廃棄物を発酵させる方式だ。この方式は日本のバイオマス発電所でも採用している例がある。廃棄物を発酵させることで得られるガスを「バイオガス」と呼ぶ。その成分はほとんどがメタン(CH4)やCO2だ。このうちメタンが自動車を走らせる燃料、つまりAudi e-gasとなる。
もう1つの方式が、水を酸素と水素に電気分解して、水素をCO2と反応させてメタンを得る方式だ。化学式にすると「CO2+4H2→CH4+2H2O」となる。Audiはドイツのニーダーザクセン州ヴェルルテの工場で、この方法を利用してAudi e-gasを作り出している。水を電気分解するときに使用する電力は再生可能エネルギーから得ているという。
図 Audi e-gasの製造工場
出所 Audi
2つの方式のうち、注目すべきは2つ目の方式だ。CO2を取り込んでメタンを得ている。世界中でCO2排出量を何とか抑えようと、さまざまな手段を講じているが、Audiは燃料の原料としてCO2を取り込んでいる。
Audiは生産したAudi e-gasを、ヨーロッパを網羅している天然ガス網に流し込む。自動車の利用者が燃料として消費した天然ガスの量をAudiが計算し、相当する量のAudi e-gasを天然ガス網に流し込むことで、CO2排出量削減と同じ効果が得られるという仕組みだ。Audiは個々の車両を識別するデータや、サービスを受けた履歴などのデータを収集し、ガス消費量を正確に計算し、Audi e-gasを天然ガス網に供給するという。
Audiは天然ガス車のラインナップを拡大する計画も明らかにした。初夏には「Audi A4 Avant g-tron」と「Audi A5 Sportback g-tron」の注文受付を開始する予定。どちらの車種も排気量2リットル、4気筒のTFSIエンジンを搭載する。エンジンの出力は最大で125kW。天然ガスだけでおよそ500km走行可能で、ガソリンも使うと合計で950kmの走行が可能だ。これら新たに投入する2車種も、Audi e-gas供給サービスの対象となる。
図 Audi A4 Avant g-tron(左)とAudi A5 Sportback g-tron(右)
出所 Audi
地球上の皆が排出を抑えようと苦心しているCO2を、燃料の原料として利用するこの取り組みは注目に値するものだ。水を電気分解して得た水素をそのまま使わずに、反応させてメタンにしてから利用するという点も、水素の有効活用という観点から注目すべきと言える。天然ガスもAudi e-gasも、ガソリンエンジンに改良を加えるだけで燃料として利用できる。「ゼロエミッション車」とは言えないが、次世代の自動車の候補として挙げても良いのではないだろうか。
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