データセンターのカーボンニュートラル化
〔1〕法的に定められたPUE1.4以下
日本政府のグリーン成長戦略における、「2040年までにデータセンターのカーボンニュートラル化」に加えて、デジタル田園都市国家構想注4においても、データセンターは、デジタルインフラの重要な構成要素の1つとして位置づけられ、地方への分散配備への支援が行われている。その中で、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用することも求められている。
また、省エネ法の改正によって、データセンター事業者は、ベンチマークとして、データセンターの省エネ指標である「PUE」注5を報告することとなり、ここで目指すべき水準として「PUE1.4以下」が法的に定められた注6。
これら一連の動向を背景に、データセンターの省エネと再エネの利用を推進する必要がでてきた。
〔2〕TCFDの提言に基づいた情報開示
2022年6月末、IIJはカーボンニュートラルへの取り組みに関して、TCFDの提言に基づいた情報開示をした注7。
温暖温暖化、温室効果ガス排出などに関連する様々な法律が整備されていく中で、上場企業は、このような情報開示が必要になってきているのだ。
〔3〕室効果ガス排出実績
公表された、IIJ単体を算定範囲とした温室効果ガス排出量の2020年度実績[単位:t-CO2]は図1のようになっている。
図1 IIJの温室効果ガス排出量の実績
出所 株式会社インターネットイニシアティブ、「TCFD提言に基づく情報開示」より
自社の排出を算定するScope1とScope2においては、自社データセンターの電力消費(Scope2排出量)が98%を占めていることがわかる。
一方、サプライチェーンの上流および下流の間接的な温室効果ガスの排出量を算定するScope3においては、①IIJのシステムインテグレーションの提供時の機器などの仕入とその販売、②購入した製品・サービス、③販売した製品の使用とサービス設備等に利用される機器等の購入などの「資本財」の割合が大きく、これら排出量の98%を占めている。
カーボンニュートラル実現への取り組み施策
〔1〕再エネの利用
TCFDの提言に基づいた情報開示の中で、IIJは、2030年度におけるデータセンターの消費電力の再エネ利用率を、85%まで引き上げることを目標に置いている(図2)。
図2 カーボンニュートラル実現への取り組み施策(1):再生可能エネルギー※の利用
※ 非化石証書活用による実質再エネを含む。
出所 株式会社インターネットイニシアティブ、「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」(2022年7月28日)、オンラインで説明会資料より
同社のほとんどの温室効果ガス排出量はデータセンターの電力から生まれているため、再エネの利用率を高めて解決していくということだ。
再エネ利用率は85%の理由について、IIJの常務執行役員 基盤エンジニアリング本部長 山井 美和 氏は、「仮に、他社から借りてるデータセンターの消費電力が再エネ率0%であったとしても、IIJ自身がもつデータセンターが再エネ100%を達成すると、これが全体の約85%になるということで、この数値目標にしています。しかし、自社においては、再エネ100%を目指すということには変わりありません」と述べた。
〔2〕エネルギー効率の向上
もう1つは、エネルギー効率の向上である(図3)。
図3 カーボンニュートラル実現への取り組み施策(2):エネルギー効率の向上
出所 株式会社インターネットイニシアティブ、「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」(2022年7月28日)、オンラインで説明会資料より
IIJでは、データセンターのPUEについては、「業界の最高水準を目指す」とともに「業界の最高水準の数値以下を目指す」ことを掲げている。
省エネ法等の改正などの法律的な改正もあるが、ベンチマークの指標としてPUE 1.4が定められているので、同社では、それを上回る数値を目指していくということである。
同社の白井データセンターキャンパス(千葉県白井市、以下、白井DCC)は、2019年に稼動し始め、年間の平均PUEは2000年がPUE 1.5、2021年はPUE 1.4であったが、今年(2022)度はPUE 1.3になる見込みを示している。
その理由としては、サーバの稼働率が上がるとともに、AI制御も本格的に稼働し始めることから、PUE 1.3になる見込みとしている。
同じく同社の松江データセンター(以下、松江DC)については2017年以降、ほぼPUE 1.2であり、今年度もPUE 1.2台を維持できるとしている。
TCFDの2030年度の「エネルギー効率の向上」目標は、2030年度を待たずして、現状でも業界最高水準を達成できている状況である。
〔3〕データセンターの省エネ化の指標における経済性
ここで、改めて、省エネ法で定められたPUE1.4について見ていこう。
図4に示すように、PUEは、
「空調等の消費電力+IT機器の消費電力」÷「IT機器の消費電力」
で算出する(図4上部)。
図4 データセンターの省エネ化の指標
出所 株式会社インターネットイニシアティブ、「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」(2022年7月28日)、オンラインで説明会資料より
IIJの基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部長 久保 力 氏は、「従来型のデータセンターでは、おおむねPUE 2(PUE2.0)です。PUE 2.0とPUE 1.4は、経済的にどのくらいの差があるのかを見てみると、例えば250ラック規模のPUE 2のデータセンターの電気代が、約2億6,280万円、これがPUE 1.4になると約1億5,768万円となり、1億円ほどの年間の電気代が削減できるいうことになります」と、PUEを改善することによって経済的にも大きな効果が見込めるということを述べた(図4参照)。
▼ 注1
グリーン成長戦略:[2020年12月]
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html[2021年6月(最新版)]
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html
▼ 注2
VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所。企業や自治体が所有する蓄電池や小規模発電施設など、分散した電源設備を統合的に制御することで、あたかも1つの発電所のように機能させる仕組み。
▼ 注3
TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース。
TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対して「ガバナンス(Governance)」「戦略(Strategy)」「リスクマネジメント(Risk Management)」「指標と目標(Metrics and Targets)」の項目について開示することを推奨している。
2022年5月31日現在、TCFDに対して、世界全体では金融機関をはじめとする3,395の企業・機関が賛同を示し、日本では878の企業・機関が賛同の意を示している。
▼ 注4
デジタル田園都市国家構想:令和4(2022)年6月7日に基本方針が閣議決定。
▼ 注5
PUE:Power Usage Effectiveness、データセンターの電力使用効率を表す指標
▼ 注7
https://www.iij.ad.jp/sustainability/materiality01/climate/tcfd/