[クローズアップ]

IIJが「電力需給マッチングプラットフォーム」を構築、商用提供に向けて実証実験を開始!《その2》

― 2024年度には商用サービスを開始へ ―
2023/05/31
(水)
SmartGridニューズレター編集部

データセンター利用者は、2022年度の「省エネルギー法」(省エネ法)の改正で、エネルギー消費量の報告が新たに義務付けられ、2023年度の改正では、非化石エネルギーへの転換計画も義務付けられた。
IIJは、このような省エネ法などに伴うデータセンター利用者の脱炭素化推進を支援するため、2023年4月24日に、2つの取り組みについて発表した(<その1>を参照)注1。1つは、「IIJの再エネ利用証明(環境価値の提供方法)を含めた新しいニーズへの対応」、もう1つは、「データセンター内でブロックチェーンを活用した電力需給マッチングプラットフォームの実証実験および商用サービス開始」である。
ここでは、これら2つの取り組みについて詳しく見ていく。

1 非化石価値取引市場:2つの市場に分けてスタート

 表1の「データセンター利用者が受けられるメリット」には「FIT非化石証書」とあるが、この位置づけを理解するうえで、2021年度から開始された非化石価値取引市場について見てみよう。
 非化石価値取引市場は、需要家(例:IIJ)もJEPX(Japan Electric Power eXchange、日本卸電力取引所)と直接取引できる「再エネ価値取引市場」と、小売電気事業者(需要家は取引できない)のための「高度化法義務達成市場」の、2つの市場に分けられてスタートした(<その1>の図2を参照)。
 表2は、この「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」の違いを比較し、取引規模などを含めた非化石価値取引市場の全体像を示している。
 非化石証書取引市場は、FIT制度注2の適応の有無(FITおよび非FIT)、需要家のニーズ、市場取引運営などの観点から、次の3種類で開設されている。
(1)FIT証書(FIT非化石証書のこと)
(2)非FIT非化石証書(再エネ指定あり)
(3)非FIT非化石証書(再エネ指定なし)

表2 現時点での非化石証書の種類と入札状況(<その1>で解説した図2も参照のこと)

表2 現時点での非化石証書の種類と入札状況

出所 資源エネルギー庁「非化石価値取引について-再エネ価値取引市場を中心に-」(2023年2月9日)

2 データセンター利用者の脱炭素ニーズへのIIJの対応

〔1〕短期的に実現可能となる「再エネ利用を証明するサービス」の確立

 データセンター利用者の脱炭素ニーズは急速に高まっている。とはいえ、現状は、省エネ法を含めて法制度の改正が続いているため、それぞれの利用者の具体的な対応が定まっていないところも多い。
 そのような背景を考慮して、「IIJとしては、現時点ですべてのユーザーにマッチさせることを目指すことよりも、まずは“利用者の再エネ利用を証明するサービス”を確立させることを重要視して今回の取り組みをリリース注3した」と堤氏は説明する。そのため、今後については、データセンター利用者と具体的な協議を進めながら、より実効的なメニュー(ニーズ)にはどのようなものがあるかを検討しているところだという。

〔2〕中長期の取り組みとなる「電力需給マッチングプラットフォーム」導入の背景

 今後、データセンター利用者の脱炭素ニーズが本格的に高まると想定される中で、データセンター事業者と利用者間のエネルギー管理の高度化が求められる。その要因として、堤氏は次の内容について言及した。
 (1)1点目は、コスト拡大への影響。再エネ化のコストについて10MW程度(中規模~大規模)のデータセンターの規模で、現在の非化石証書の相場(証書2円/kWhで試算)で考えると、再エネ率10%の違いだけで年間約2,000万円程度のコスト差(コスト高)になってくる。
 (2)もう1点目は、データセンターの電源の多様化。IIJでは、すでに導入済みのオンサイト型の太陽光発電や蓄電池に加えてオフサイト型の太陽光発電の利用や、非化石証書の直接購入の利用が可能となっており、このように電源の調達方法が多様化してくると、これらをしっかりと分類して利用者に提供することが効果的となってくる。

〔3〕着目した「電力・環境価値P2Pトラッキングシステム」

 前述した課題についてIIJが着目したのが、電力業界で開発が進んでいる「電力・環境価値P2Pトラッキングシステム」である。このシステムは、関西電力が開発中のもので、電力や環境価値の情報や履歴を管理・保管できるというもの。
 「このP2Pトラッキングシステムは、電力系統の中で発電側と電気の利用者側を繋ぎ合わせる仕組みの新しい構想です。その利用技術として、P2P注4を使って当事者間(例:電力会社と需要家間)の情報共有やその管理や、ブロックチェーンを使った共有情報(記録など)の改ざんが困難という仕組みなどの特徴をもっています。この仕組みは、IIJが課題としている“データセンター事業者(IIJ)と利用者間のエネルギー管理”に、非常にマッチすると考えたのです」(堤氏)


▼ 注1
参考記事:IIJが「電力需給マッチングプラットフォーム」を構築、商用提供に向けて実証実験を開始!《その1》

▼ 注2
FIT制度: 固定価格買取制度。FITはFeed in Tariffの略。再エネ由来の電気を、「電力会社が一定価格で一定期間買い取る」ことを国が保証する制度。2012年7月、経済産業省がFIT制度を開始した。

▼ 注3
IIJプレスリリース、「データセンター利用者への環境価値付き電力の供給に向けた非化石証書の直接調達を開始」(2023年4月24日)

▼ 注4
P2P:Peer to Peer(ピア・ツー・ピア)。もともとは通信方式の1つで、サーバを介さずに個々の端末(Peer)が互いに直接かつ対等に通信を行うこと。ここではIIJと利用者間で対等な取引を行うこと。

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