インフレ抑制法成立にあたってのバイデン大統領のコメント
2022年8月16日、米国で「インフレ抑制法」(The Inflation Reduction Act of 2022)が成立した。米国のバイデン大統領は、自身のTwitterで「インフレ抑制法は、われわれの歴史上、気候(変動)に関する最大の前進である」と投稿した(図1)。
図1 米国バイデン大統領によるインフレ抑制法についての投稿
気候変動対策に注力するインフレ抑制法
「インフレ抑制法」という名称からは、それが気候変動に対応する法律であることが想像しにくいが、内訳を見ると、バイデン大統領が気候変動に関する最大の前進だと強調する理由がよくわかる。
後ほど詳しく紹介するが、インフレ抑制法によって決まった歳出4,370億ドル(約59兆4,320億円。1ドル136円換算)のうち、8割以上を占める3,690億ドル(約50兆1,840億円)が「エネルギー安全保障および気候変動」(Energy security and Climate Change)という項目に割り当てられている注1。この金額だけを見ても、この法律が、米国における気候変動対策において重要な役割を果たすものだと見てとれる。
インフレ抑制法について、バイデン大統領が「(大統領選)出馬時に掲げた気候変動に関する目標の達成に向けて、さらなる一歩を大胆に踏み出すことができるようになる」と述べたと伝えられている注2ことからも、この法律は大統領にとって強い思いがあるものなのだろう。
インフレ抑制法成立までの経緯
バイデン大統領が、ここまでの思い入れをもってインフレ抑制法について語っている背景には、この法律が成立するまでの長い経緯がある。
大統領選出馬当時から気候変動対策を重視していたバイデン氏は、気候変動対策や医療・介護、教育などの分野への取り組みとして、当初は3兆5,000億ドル(約476兆円)規模の投資を予定していた。しかし、同じ民主党のジョー・マンチン上院議員の反対によって、いったんは1兆7,500万ドル(約238兆円)へと規模を半減させ、2021年10月28日にビルド・バック・ベター法(Build Back Better Framework、よりよい復興枠組み)注3として発表した。
その後、2021年12月19日に、ジョー・マンチン上院議員が同法への反対を表明注4したことを受け、実質的に同法は廃案となった。その後も、引き続き民主党内での調整を続け(調整には気候変動対策への投資も積極的に行っているマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も加わったとされている注5)、今回のインフレ抑制法の成立につながった。
インフレ抑制法に署名をした後のスピーチの冒頭、バイデン大統領は、“Joe, I never had a doubt.”〔ジョー(ジョー・マンチン上院議員のこと)、私は疑いをもったことはなかったよ〕と述べて笑いを誘ったが、その背景には前述のような経緯があったのだ。
▼ 注1
SUMMARY: THE INFLATION REDUCTION ACT OF 2022
▼ 注2
Biggest step forward on climate ever’: Biden signs Democrats’ landmark bill
▼ 注3
Build Back Better Framework - The White House
▼ 注4
Manchin Statement On Build Back Better Act | U.S. Senator Joe Manchin of West Virginia
▼ 注5
Bill Gates and the Secret Push to Save Biden’s Climate Bill