「成長指向型カーボンプライシング」注1「サーキュラーエコノミー」の実現へ
2025年5月28日、参議院本会議で「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(通称:GX推進法)」及び「資源の有効な利用の促進に関する法律(通称:資源法)」の一部を改正する法律が、可決・成立された。
GX推進法は、脱炭素の取り組みを成長の機会と捉え、産業構造の転換を促すために2023年5月19日に施行された。また資源法は、すでに1991年に制定された「再生資源の利用の促進に関する法律」に循環型社会注2形成の理念なども取り込んで、2001年に改定され施行されている。
政府が掲げる2050年の脱炭素(カーボンニュートラル)社会の実現に向けて、その取り組みをさらに強化するために、このたび両法(GX推進法と資源法)の改正が行われた。その主なポイントは次に挙げる4点(図1参照)。
図1 「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」及び「資源の有効な利用の促進に関する法律(資源法)」の一部を改正する法律案の概要
出所 経済産業省/環境省 ニュースリリース 2025年2月25日、『「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました』関連資料(法律案概要)
〔1〕2026年度:CO2排出量取引制度に事業者参加の義務づけを開始
2026年度から、このGX推進法に基づきCO2排出量10万トン以上の事業者に対して、排出量取引制度への参加を義務づける。これによって、CO2排出量をコストとするのではなく、企業の成長に役立つ投資を引き出す「成長指向型カーボンプライシング」(図2、表1)注2の実現を目指す。
政府によって設けられた CO2排出量の枠(排出枠)の保有を事業者に義務化し、排出枠の過不足分については事業者間で取引可能な市場を整備し、価格安定化のために上下限価格を設定する。
カーボンプライシングは、すでにEU(欧州連合)や韓国、中国など多くの国々で企業の脱炭素化を進める手段として定着している。
図2 脱炭素化を進めるカーボンプライシングの分類
出所 資源エネルギー庁、『「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』、2023年5月15日
表1 GX推進戦略に基づいて導入される「排出量取引制度」と「化石燃料賦課金」
出所 METI Journal『「排出量取引制度」って何?脱炭素の切り札をQ&Aで 基礎から学ぶ』(2024年12月27日)をもとに編集部で作成
〔2〕資源循環の強化を目指す各種制度を新設
再生資源の利用義務化をはじめ、解体・分別や長寿命化など環境配慮設計に関する認定制度を創設。認定製品にはリサイクル施設投資への金融支援などの優遇措置を設ける。
またGXに必要な原材料等の回収・再資源化を促進するために、廃棄物処理法の特例などのインセンティブ(動機付け)を用意する。
さらに、リユース(再利用)品の販売やリノベーション(Renovation、大規模工事)などの「サーキュラーエコノミー(循環経済)」を促進するため、事業者のタイプや満たすべき基準を設定する。
〔3〕2028年度:化石燃料賦課金の徴収措置を開始へ
化石燃料の使用量の削減や再エネ転換を目的に、化石燃料に含まれるCO2排出量に応じた化石燃料付加金を徴収する。その対象は、化石燃料を輸入・供給する製油会社、ガス会社などの事業者を予定している。2028年度に、制度の執行を開始するために必要となる支払期限、滞納処分、国内で使用しない燃料への減免措置など、技術的事項を整備する。
〔4〕GX分野への財政支援の整備
日本政府は、GX投資を支援するため、2023年度から「脱炭素成長型経済構造移行債(GX移行債)」を発行している注3。今回の法改正では、その債券の発行収入を、GX分野における設備投資減税などの税措置の財源とすることが明記された。
脱炭素は企業努力から、実行のフェーズへ
今回の改正は、企業の環境対応を制度として明確化したもの。今後、これらの制度に則って、企業は脱炭素と資源循環を実行することが求められる。成長指向型カーボンプライシングやサーキュラーエコノミーを取り入れた経営の再構築から、それをベースとした製品やサービスの再定義や再設計、資源循環インフラの構築、ステークホルダー(利害関係者)との協働体制の最構築など、実行が求められる範囲は多岐にわたる。
注1:カーボンプライシング:Carbon Pricing。企業などが排出するCO2(炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させてCO2の排出量を削減するための手法。手法例として「炭素税」や「排出量取引」などの制度(図1参照)がある。成長指向型カーボンプライシングとは、「CO2排出量の削減」とともに「経済成長・産業競争力の強化」を両立させ推進する手法のこと。
注2:循環型社会:有限な地球上の資源を効率的に利用して、廃棄物を減らし(Reduce)、再利用(Reuse)し、再生(Recycle)することによって持続可能な社会を実現する考え方。この3つの取り組みは「3R」とも呼ばれる。資源や製品の循環を通して環境への負荷を減らす「循環型社会」に対して、広く普及している「循環経済」(Circular Economy、サーキュラーエコノミー)は、環境への負荷を減らすと同時に経済成長も実現させようという点が異なる。
注3:経済産業省「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案【GX推進法】の概要」
参考サイト
経済産業省/環境省 ニュースリリース2025年2月25日、『「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました』
経済産業省 令和5年2月、「GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~」