韓国のDMB(携帯向けデジタル放送)とは?
【1】地上波DMBと衛星DMBがある
DMB(Digital Multimedia Broadcasting、携帯向けデジタル放送)は、歩行中や車内のように、移動中にも携帯端末などを通してきれいな画質の テレビ放送、CD級音質のラジオ放送、交通、天気、株式など多様な情報を提供するデータ放送が可能な「携帯向けデジタル放送」です。
DMBという名称は、欧州のデジタル・ラジオ放送規格であるDAB(Digital Audio Broadcasting、デジタル・オーディオ放送)がラジオ放送と簡単なデータ放送だけできる規格であることに対して、「テレビ放送などマルチメディア放送が可能である」という側面を強調するために韓国の情報通信部は「DMB」という用語を使い始めました。
韓国が使い始めたDMBという用語は、 世界で韓国が開発したMobile Broadcasting(携帯向け放送)として知られるようになりました。とりわけ、地上波DMBは欧州で「Korean DMB」(韓国DMB)またはTerrestrial DMB(地上波DMB)などと呼ばれています。
2004年度に改定された放送法では、DMBを「移動マルチメディア放送」と定義しましたが、一般的にはDMBという愛称が広く使われています。
DMBは、送信方法によって、
(1)人工衛星を利用する衛星DMB
(2)地上の送信局を利用する地上波DMB
があります(図1)。韓国では現在、衛星DMB サービスおよび地上波DMBサービスの両方のサービスが提供されています。
【2】DMBサービスの特徴
地上波DMBは、既存の地上波テレビのように地域別に放送が成り立つ仕組み、すなわち圏域(けんいき)別放送です(図2)。また、無料で放送することによって, 端末さえ購入すれば誰でも視聴できます。このように、地上波DMB 事業者は視聴者から視聴料を受け取らず、広告を通じて収入を確保します。また、多様な付加サービスを提供することによって収入を追加することもできます。
これに対して、衛星DMBは地上波DMBと異なり、全国的に同一のサービスを提供する全国放送で、 加入費(2万ウォン。約2000円)と視聴料(月1万3千ウォン。約1300円)を支払う有料サービスです。
【3】DMBサービスの品質
DMBのオーディオ・サービスはCD級のステレオ方式で、ビデオ・サービスは VCD(ビデオCD)級の画質、FMラジオ級の音質を提供します。データ・サービスはテキストとグラフィックを用いてオーディオ・サービスとの連動も可能です。
地上波DMBの政策と普及動向
【1】地上波DMBの標準化政策
韓国 情報通信部は、2001年から欧州のデジタル・ラジオ方式であるDABをベースにして、地上波DMBの技術開発に取り組みました。その後、2003年6月に技術基準を決め、 2003年10月には送受信整合標準を決定しました。
一方、韓国は、この地上波DMBの国際標準化を推進しました。その結果、2004年12月にWorld DABフォーラムの標準になり、2005年7月には欧州の公式標準化機関であるETSI(欧州電気通信標準化機構)の標準として採択されました。韓国生まれの技術が欧州標準に採択されたことは韓国歴史上初めてのことです。
地上波DMBの規格の詳細としては、
(1)映像圧縮はH.264/AVC(Advanced Video Coding)のベースライン(基本)・プロファイル、
(2)オーディオ圧縮は MPEG-4 BSAC(Bit Sliced Arithmetic Coding、ビット・スライス算術符号化)、
(3)データ圧縮は MPEG-4 Systems Core profile(MPE-4システム・コア・ファイル)を使用しています。
【2】DMB用の周波数政策
地上波DMB用の周波数として、回折性(ビルなどの裏側に回り込む性質)が強いVHF帯を割り当てました(図3)。首都圏では、チャネル8(CH8)とチャネル12(CH12)の放送局を許可しました。地方では、周波数が相対的に逼迫している状況であるため、まず地域別に1つのチャネルを今年(2006年)中に割り当てる予定です。
【3】DMB サービスの事業許可に関する政策
韓国情報通信部と放送委員会は、DMB導入のための制度整備を共同で推進してきました。まず、2003年3月に放送法を改正してDMBの概念を定義するなど、DMB サービス導入の法的根拠を用意しました。
2003年9月には、放送法施行令を改正してDMB チャンネルの構成や、チャンネル運営などのサービス導入に必要な制度を用意しました。2004年 9月には、電波法を改正して、DMB放送局の許可手続きを簡素化させ、サービスが迅速に導入できるようにしました。
このような制度整備が完了してから放送委員会は、2003年3月に首都圏の地上波DMB事業者としてKBS(韓国放送公社)、SBS(ソウル放送)、MBC(文化放送)など3社の既存地上波テレビ放送局と、YTN(Yonhap Television News、聯合テレビジョン・ニュース)、U1メディア(ユウワン・メディア。旧KMMB)、韓国DMBなど3社の新規事業者を推薦しました。
これを受けて、情報通信部は推薦された事業者に対して2005年7月に放送局を許可しました。 日本のワンセグ放送は、制度的な制限から地上波デジタル・テレビの再送信だけしていますが、韓国では地上波テレビ放送局以外にも、新規事業者の参入によって、モバイル・ライフ・スタイルに適した新しい番組を提供し、マーケットの需要を高めています。
また、首都圏を除いた地方の事業者の選定に関しては、放送委員会が今年(2006年)3月31日に単一圏域にすることを決めました。つまり、首都圏以外の地方をひとつの圏域として見なして事業者選定をすることです。これによって、地方での地上波DMB事業性の向上が期待されます。今年中には、全国で本放送ができるように事業者選定などの政策を推進しています。
従来のFMラジオなどでは、1つの免許に対して、1つのチャネルを割り当てましたが、今度の地上波DMBでは1つの免許で複数のチャネルが運用できるような新しいアプローチをしました。
また、(図4)に示すように、テレビの1チャネル(6MHz)帯域を、1.54MHz幅の3つのブロックに分けて、1つのブロックごとに放送局を許可しました。したがって、事業者ごとに1~2個のテレビ・チャンネル、2~3個のオーディオ・チャンネル、 1~2個のデータ・チャンネルが運用できるようになっています。
【4】韓国内の地上波DMBの普及動向
韓国の地上波DMB (T-DMB)の本放送は、2005年12月、首都圏から始まりました。それ以前の今年(2006年)5月には、ワールドカップ試合の視聴を可能にするため、首都圏地下街の中継施設の整備を完了し、プサン、光州(クワンジュー)、春川(チュンチョン)、濟州(ジェジュー)などで実験放送を開始しました。地上波DMB端末は、携帯電話型と車両搭載型が主流で、PMP(Portable Multimedia Player)型など多様な種類の端末がマーケットに出ています。
地上波DMB端末(図5)は、ワールドカップ試合をきっかけとして、1日平均1万台が販売されるほど好調な動きとなっています。2006年7月30日時点で、地上波DMB端末普及台数が142万台を突破しました。端末普及の内訳は、携帯電話型端末が51万9,000台、 ナビゲーション結合型端末、専用端末などが90万9,000台となっています。
KTF、LGテレコムが携帯電話型端末でマーケットを引っ張り、衛星DMBを押し進んでいるSKテレコムも、今年(2006年)5月から地上波DMB端末流通に乗り出しました。さらにKTFは、双方向データ・サービスのためのポータル・サービスの開発を推進し、KTとKBSは地上波DMBとWiBro(Wireless Broadband、韓国版モバイルWiMAX)との連動サービスを推進しています。また、今年末から首都圏以外の地域で本放送が開始されると、地上波DMBの普及が加速されると見込まれています。
(つづく)