IEEE 802.15.3c 第8回会合
IEEE 802.15ワーキング・グループの第43回会合は、2006年7月16日~22日、米国サン・ディエゴで開催された。この中で、TG3cの第8回会合では、18日に3スロット、19日に2スロット、20日に4スロットの計9スロット、18時間の討議が行われた(1スロットは2時間の会議)。
今回の会合では、各スロットに50〜60名が出席し、これまでの会合に比べて大幅に参加者が増え(前回は35〜40名)、ミリ波WPANへの関心の高まりが感じられた。
今回の討議内容
【1】チャネル・モデル編成作業
今会合では、オフィス、住宅、会議室など屋内の6つの環境と、 LOS(Line of Site、見通し内通信) と NLOS(Non Line of Site、見通し外通信) の条件を組み合わせた計10個の60GHz帯屋内チャネル・モデルが提示される予定であった。
しかし、実際には4個のチャネル・モデルだけが完成間近なものの、他は未完成であった。このため、残り作業の進捗状況を考慮して、60GHz帯屋内チャネル・モデルは、次回9月のメルボルン会合で採択される予定となった。
なお、チャネル・モデルのシミュレーション用ツールのプログラム・ファイルは9月末に発行される予定である。今回チャネル・モデル関連のプレゼンテーションは、計9件(06/037r3, 06/307r1, 06/316r0, 06/317r0, 06/318r0, 06/326r0, 06/297r2, 06/302r2, 06/348r1)であった。
マメ知識
IEEEの文書番号表記法について
IEEEの文書番号は、例えば「15-06-0307-01-003c」 のような形式で表記されます。これを略す場合は、06/307r1 となります。表記のルールは次のようになっています。
aa-bb-cccc-dd-eeeeの場合
aa:WG15、bb:year2006、cccc:文書連番, dd:改版(初版は00)、eeee: TG3c、となります。
【2】利用モデルの提案は4件
WPAN製品を同時に使用した場合の複合的利用形態を想定した利用モデル(UM:Usage Model)の提案4件がプレゼンテーションされた。
フィリップス社とETRIは、主にPCとポータブルAV機器間のファイル転送やビデオ・ストリーミングを組み合わせた提案を行った(06/282r0, 06/281r3)。
情報通信研究機構(NICT)とNTTは、ダウンロード・キヨスクを想定した、とくにショート・レンジでの高速ファイル転送と複数PCによるアドホック会議用途などを共同提案した(06/291r2)。
沖電気工業は、マルチ・チャネルでマルチホップ中継ネットワークを構成するホーム・ビデオ・ストリーミングを提案した(06/286r3)。
これらの提案をベースに、シミュレーションを行うための具体的な利用モデル候補の自由討論が、アドホック(臨時)・ミーティング形式で行われた。ビデオ・ストリーミング用ポイント・ツー・ポイントや、ポイント・ツー・マルチポイント通信モデルなど数件が議論されている。
今後、電話会議によって継続して検討され、次回の会合で利用モデル文書(UMD:Usage Model Document)を採択することが予定されている。
【3】システム要求ドキュメント編成作業
チャネル化に関する議論があり新提案がなされた。従来の検討案では、米国あるいは日本で認可されているそれぞれの帯域内(7GHz幅)で4チャネルを任意の方法で多重化することになっていた。
しかし、4チャネルの技術的根拠について多数の意見・質問が寄せられ、システム構成上最低2チャネルは必要であるが、将来のさらなる高速化を狙うには4チャネルでは制約が大きいこと、日本の法令規定では最大占有帯域幅が2.5GHzに制限されていることなど考慮し、新提案がなされた(06/325r0)。
この新提案は、57〜66GHzの9GHz帯域を4分割する方式である。日本の占有帯域幅制限2.5GHzを考慮して、1チャネルの帯域幅を2.225GHz幅とし、日米の共通認可帯域である59〜64GHz内(5GHz幅)に2チャネルを割り当てる配置となっており、日米夫々の帯域内(7GHz幅)では3チャネルが使用できることになる。
この提案に対し、多重化方式は周波数多重に限らないので、帯域分割方法やチャネル数の指定は方式提案者に任せるべきとの意見があり、結論は次回9月会合に持ち越しとなった。
【4】60GHz帯の各国法制化状況について
韓国からは、北米と同様の周波数割り当てである57〜64GHzを検討中との報告があった(06/330r0)。欧州では、59〜66GHzで無線LANの申請が受理され、審議中である(06/308r0)。なお、日本は59〜66GHzが認可されている(詳しくは前回のレポートを参照 )。
ミリ波実用化コンソーシアム結成の紹介
情報通信研究機構(NICT)が、ミリ波におけるLOS(見通し内通信)環境の重要性と実現性に関するプレゼンテーションを行った。その中で、LOS環境主体のシンプルな構成で製品仕様の標準化を目指す「ミリ波実用化コンソーシアム」の結成が紹介された(06/327r0)。現在、日本の企業など19機関が参加しており、さらに外国機関の加盟も呼びかけていくという。
このほか、以下の具体的なデバイス、システム紹介のプレゼンも行われた。
(1)IBM社が 4Gbps対応可能なMSK変副調方式を持つ60GHz送受信部、および電力増幅部デバイスの性能を紹介(06/306r1)
(2)IHP社 が250nm 60GHz SiGe BiCMOS MMICを使用したOFDM方式のデモンストレーション・システム(256サブキャリア、帯域幅500MHz、720Mbps、16QAM変調)の紹介(06/320r0)
計画スケジュールの変更
次回の9月会合で、ミリ波WPANに関する方式提案の募集(CFP:Call For Proposals)、関連ドキュメントの完成、および発行の予定となった (05/311r8)。それ以降のスケジュールは従来のまま変更はなかった。
CFPの締め切りは、2007年1月会合(英国ロンドン)の1週間前と決まり、1月会合で全応募提案が発表される。それを受け、2007年3月(米国オーランド)に提案の絞り込みプロセスに移行し、標準化完了は2008年1月を予定している(図1)。
図1 802.15.3cの標準化作業スケジュール
なお、次回の会合は9月17-22日、オーストラリア・メルボルンで開催される。
関連リンク
今回紹介した文書資料は、以下のURLからダウンロード可能。
http://www.802wirelessworld.com/index.jsp (要メンバー登録:無料)
http://www.ieee802.org/15/pub/TG3c.html (登録不要)