≪1≫シスコシステムズが提供するNGNの価値とは
■御社が考えるNGNの価値とは、具体的にどのようなものですか。
篠浦 文彦氏
(シスコシステムズ合同会社)
篠浦 従来のように大型のルータであるCRSやエッジ製品(ユーザーに最も近い通信事業者のルータなど)といった機器を通信事業者に大量に納入して終わりという形から、NGNを使ってユーザーは何ができるのか、過去のネットワークと比べて何がよくなるのかということを示すということです。
例えば大手町のNGNのショールームNOTE(※)で体験できるテレプレゼンスは、人とのコミュニケーション、コラボレーションの仕方をまったく変えてしまうものです。例えばテレビ会議システムなどは、ハイビジョンで等身大のバーチャル・リアリティを実現できるようになるからです。テレプレゼンスのようなサービスは、画面がきっちり出ないといけないので、ブロードバンドでしかもQoS(Quality of Service、サービス品質)が考慮されているNGNがあればこそ提供できるサービスです。
CRSが何十台入ったとかいうのは実は価値ではなくて、テレプレゼンスのシステムのように、ビジネスのスピードが早くなったりとかコラボレーションの方法が大きく変わったりというように、そのサービスを使うことによって、これまでと比べてよい方向にビジネスが変わるということがNGNの本当の価値です。NGNでは、そういったサービスがいくつも出てくると思います。
※NOTE(NGN Open Trial Exhibition):NOTEとはNTTグループと国内外の事業者によるNGNの実験展示場。2008年2月25日閉鎖。http://www.ngn-note.jp/
NOTEの関連記事:NTTがNGNフィールドトライアルの「NOTE」をリニューアルオープンへ! http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20070725/443
■そうすると、NGNなどの新しいシステムが構築されていく中で、通信事業者側の変化に対応して、ユーザーのITシステムが変わる必要がありますね。
篠浦 その通りです。各企業における社内の情報システム部門でも、単に通信事業者から提供される新しいNGNサービスに対応するだけではなく、NGNという新しいネットワークを使って、ITという情報通信のインフラの面から企業におけるビジネス・プロセスの変革を支援していく必要があると思います。
図1は、ビジネスで便利なアプリケーションと、利用するために必要な帯域幅を示したものです。左端の電子メールから上へいくほど高度化していき、それに伴って必要とされる帯域も大きくなっていきます。右端のテレプレゼンス(テレビ会議)は、NGNらしいサービスの一例です。
■一般ユーザーに対するサービスについてはどのように考えますか。
篠浦 一般ユーザーに対しても、当社から新しいサービスを提案するというスタンスは同じです。NGN対応製品として、通信事業者のUNI(ユーザー・網インタフェース)の仕様を満たすだけの製品が少なくありませんが、それでは従来と使い方があまり変わらないので、通信事業者もユーザーもメリットがありません。そうではなくて、NGNならではの新しいサービスを提供することが必要なのです。
■新しいサービスを提供するためには、どういうことが必要だとお考えですか。
NGNでは、アプリケーションとか、サーバのインタフェースが用意されています。こうしたものを利用すると、NTTがNOTEで展示している医療向けサービスやVoD(Video On Demand)など放送も含めて、コンシューマに対して、いろいろなサービスができます。
また、ビジネス向けには、NGNのセキュリティやQoSのよさを利用して、ASP(Application Service Provider)やSaaS(※)を利用するモデルで、業務アプリケーションを提供するサービスも考えられます。こうしたサービスがあれば、自分のところで情報システムをなかなか持てないSOHO(小規模オフィス)ユーザーにはとても便利になります。
このように新しいサービスや価値を提供することが、本当のNGNの姿だと思うのです。
※SaaS(software as a service、サース):SaaSとはソフトウェアをパッケージとしてではなく、ユーザー(企業)が必要とする機能だけを、サービスとしてネットワークを経由で配布し利用できるようにした仕組み。
■NGNのサービスを充実させるためにはどうすればいいと考えますか。
篠浦 NGNのサービスを充実させるためには、アプリケーション・ベンダの関わりが欠かせません。しかし、NGNの仕様書は専門的すぎて、通信分野になじみのないアプリケーション・ベンダにとってはわかりにくい部分があります。アプリケーション・ベンダは、SIPと言われてもよくわからない。さらにSIPがシグナリング(通信の接続を確立したり、切断したりする信号の手順)でやりとりしないけないということを理解するのは、かなりハードルが高いところがあります。しかしサービスの部分では、Web2.0の考え方をそのまま生かせるような自由度を持たせれば、アプリケーション・ベンダも参入しやすくなり、新しいサービスも生まれやすくなります。
現在、ITU-T(国際電気通信連合-電気通信標準化部門)などでNGNの標準化が進められていますが、細かい部分まで仕様を決めすぎている印象があります。重要なのは、NGNの特性を生かした新しいサービスが生まれやすくなるような仕様にすることです。
例えばNGNにおいて、どのようなサービス品質(QoS)を提供するかという部分は、今後のサービス・プロバイダーの新しい付加価値的なサービスにもなります。