ブートストラップ・インスティチュート
エンゲルバートはマクダネル・ダグラスで、経営陣に社内ネットワークを敷設して、「オープン・ハイパードキュメント・システム(OHS)」を構築するように提案した。かれはOHSの方法論とツールを使えば、パソコンで個人の仕事を支援する段階からコンピュータ支援のコラボレーションの段階に移行して、組織内と組織間の知的労働力を束ねることにより、数多くの便益を獲得できると提唱した。
エンゲルバートは86年にリンパ腫を患い89年まで化学療法による治療を受けた。かれは89年に、娘のクリスティーナとともにブートストラップ・インスティチュートを発足させ、スタンフォード大学から18ヶ月間の助成を受け、OHSにより複雑で困難な問題に対する組織的な解決能力を引き上げる研究や企業幹部向けのセミナーを開催した。かれはブートストラップという言葉で、コンピュータ・ツールの進化とともに人間の能力を高い段階に引き上げるプロセスを表現した。
かれは90年に「知識領域における相互運用性とOHS」という論文を執筆し、組織内と組織間でOHSの利用を広げ能力を継続的に増強するには、データとソフトウェアの相互運用性が極めて重要になると指摘した。エンゲルバートの提言は、企業内の各部門の情報システムのデータを標準化して共有し、業務システムをSOA(Service Oriented Architecture)により自由に組み合わせ、全体最適に向かって各部門やパートナー企業が共進化するプロセスを予見していた。
エンゲルバートは93年に、IEEEのコンピュータ・パイオニア賞を受賞し、96年に、フリーモントのロジテック本社内に研究室を提供された。1981年にスイスで創業したロジテックは、82年にマウスを商品化し96年に1億台のマウスを出荷した。Webブラウザでハイパーテキストが現実になると、エンゲルバートの歴史的評価が高まり、97年にACMのチューリング賞を受賞した。98年12月には68年の歴史的なプレゼンテーションの30周年を祝うシンポジウムがスタンフォード大学で開催され、約1,000人が参加してエンゲルバートの業績の意義を語った。エンゲルバートは2000年に、クリントン大統領から国家技術勲章を授与された。
参考文献
John Markoff「What the Dormouse Said」Viking Press 2005:邦訳「パソコン創世"第3の神話"ーカウンターカルチャーが育んだ夢」服部 桂 訳、NTT出版、2007
Thierry Bardini「BootstrappingーDouglas Engelbert, coevolution, and the origin of personal computing」Stanford Univeersity Press 2000:邦訳「ブートストラップー人間の知的進化を目指して」森田 哲 訳、コンピュータ・エージ社 2002
「Tne Click Heard Round The World」Wired January 2001 http://www.wired.com/wired/archive/12.01/mouse.html
Douglas C. Engelbert 「Knowledge-Domain Interoperability and an Open Hyperdocument System」 June 1990 http://www.bootstrap.org/augdocs/augment-132082.htm
Douglas C. Engelbert 「AUGMENTING HUMAN INTELLECT: A Conceptual Framework」http://www.bootstrap.org/augdocs/friedewald030402/ augmentinghumanintellect/ahi62index.html
Douglas C. Engelbert 「Workstation History and the Augmented Knowledge Workshop」http://www.bootstrap.org/augdocs/augment-101931.htm