≪4≫地域WiMAXを実現するための機器の現状
■現在、地域WiMAXを実現するための対応機器にはどのようなものがあるのですか。
荻野氏 今、実際に困っているのは、WiMAX向け製品としては、全国バンドの大手キャリア用のものしか出てきていないことです。このため、地域でのサービスを考えている事業者は悩まれていると思います。地域WiMAXが普及するためには、WiMAX用の基地局と端末がセットである必要があるからです。
ただし、WiMAXは独自規格ではなく、無線LAN(Wi-Fi)のようにオープンな国際標準の規格です。したがって、各国でWiMAXに割り当てられる周波数の違いはあるものの、端末でも基地局でも、基本的には全世界共通に使用することができます。今回、日本で地域WiMAXの制度が始まり、ビジネスの市場が見えてきましたので、内外を問わずメーカーも機器の開発に力を入れ始めています。
真野浩氏
(ルート 代表取締役)
真野氏 そうですね。WiMAXで使われる周波数は、国によって違います。ただ、規格は同じなので、最後のRF(Radio Frequency、無線周波数)部分、すなわち電波の出口(送信部)と入り口(受信部)が問題なだけなのです。これはゆくゆく技術が解決する問題です。たとえば、従来、周波数ごとに専用のチップが必要だったのですが、最近はソフトウェアで周波数を変えるSDR(ソフトウェア無線 ※)もできるようになってきました。例えば、ベースバンドのICは1個だけで、ケータイだけでなく、Wi-FiやCDMAも利用できる、オールインワンのサービスもできるようになってきました。
ただ、アンテナについては、物理層に乗っているものなので、さすがにどの周波数でも対応させるというわけにはいきません。例えば、無線LANは2.4Gと5Gの2つありますが、1つのアンテナが、2.4GHzと5GHzの2つ(デュアル)の決められた帯域のみをサポートしています。
※SDR:Software Defined Radio、ソフトウェア無線。携帯電話、PHS、無線LANなど、周波数や帯域幅、変調方式などが異なる無線通信を、ハードウェアを変更することなく、ソフトウェアを書き換えることで対応させる技術
■WiMAXの機器は、日本ではなかなかできなくて、海外のものが多いと聞きますが、実態はどうなのでしょうか。
荻野氏 現在、全世界で数十社がWiMAXの機器を作っています。日本のメーカーも数社あります。
真野氏 要はマーケットの規模が問題なのです。日本は、ようやく制度ができたところなのですが、外国では、固定無線系に関しては802.16d(※)のような固定WiMAXなどが、一時かなり普及しました。WiMAX関係の機器では、イスラエルや米国のメーカーがやはり強く、端末に関しては、国策でWiMAXについて力を入れている台湾ベンダが強いところがあります。韓国では2006年からWiBro(※)というサービスが提供されています。また、WiMAX用のチップセットとしては、インテルや富士通から提供されています。
このような背景から、現在、全国バンド向けのWiMAX機器については、世界中からいろいろな製品(WiMAX用カードなど)が、提供されるようになってきていて、地域WiMAX向けに使用できる機器も揃いつつあります。ただし、国々の規格や制度が異なりますので、単純に海外製品を輸入して販売するという対応では、不十分な点が多々あります。
※802.16d:FWA(Fixed Wireless Access:固定無線アクセス)
※WiBro:Wireless Broadband。IEEE 802.16標準である802.16e-2005に準拠する韓国のモバイルWiMAXの呼称
荻野氏 現在、WiMAXは、アジアでも広がろうとしており、日本の大手通信機器メーカーも海外で活躍しているところが多くなってきています。日本でこれから売り出されるWiMAX製品は、日本のマーケットだけではなく、アジアも視野に入れています。日本で鍛えられた製品は、アジアで大変評判がよいところがありますので、今後輸出なども含めて、広いマーケットでビジネスが展開されていくと思います。
>>「第4回」へつづく
プロフィール
真野 浩(まの ひろし)
現職:ルート株式会社 代表取締役
1960年東京都生まれ。1993年にルート(株)を設立。デジタル無線通信機器の開発を行いアナログとデジタルの融合技術によるネットワークのトータルソリューションを提唱。無線IPルータを開発し、全国150以上の市町村や学校等の地域情報化を促進。無線利用、地域情報化の為の各種審議会、研究開発事業にも多数参画。
2005年ルート(株)はアライドテレシスホールディングス(株)との経営統合によりアライドテレシスグループの子会社となる。その他、山梨県上野原市に第3セクタ方式により設立された(株)上野原ブロードバンドコミュニケーションズの取締役として、FTTHによるCTAV、ブロードバンドサービス事業も推進している。
公職:電気通信技術審議会、5GHz帯無線アクセスシステム委員会分科会委員、ワイヤレスブロードバンド推進研究会委員、モバイルブロードバンド協会理事 他
荻野 司(おぎの つかさ)
現職:株式会社ユビテック 代表取締役社長
1961年大阪府生まれ。1986年キヤノン(株)入社。中央研究所を経て、ISP事業開始のため1996年ファストネット(株)へ出向。1999年同社取締役に就任。
2000年(株)インターネット総合研究所 技術戦略担当執行役員に就任、2002年には同社の研究開発担当 取締役に就任し、ユビキタス時代におけるネットワーク、コンピュータとの融合技術を中心とした研究・開発組織、ユビキタス研究所を設立。
2003年には(株)ユビテック代表取締役に就任し、2005年6月には同社の上場を果たす(大証ヘラクレス 証券コード6662)。
同時に、2000年より3年間、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)のIP担当理事を務め、日本におけるインターネットの普及基盤整備に尽力。また、IPv6普及・高度化推進協議会には設立時より参画。2007年2月まで常務理事を務めIPv6普及の啓蒙活動に注力した。
現在では、ワイヤレスブロードバンド推進協議会の発起人も務め、WiMAXを中心とする次世代インターネット技術の普及や啓蒙活動に力を入れている。静岡大学 客員教授も務める。
関連記事
【アライドテレシス】
地域通信事業者に向けたWiMAX製品の販売を開始
http://www.allied-telesis.co.jp/info/news/2008/nr080401.html
【ルート】
日本で最初の地域WiMAX用基地局の技術基準適合証明を取得
http://www.root-hq.com/newsrelease/news080407.html
【東北インテリジェント通信】
デジタル・デバイド解消のためWiMAXの無線局免許を申請
http://www.tohknet.co.jp/p_mod/news/getnewsext.php?n_id=83
【総務省】
地域WiMAXに係る無線局免許の申請状況について
http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/080411_4.html
【WBB Forum過去記事】
2.5GHz帯のWiMAX(FWA)で地方のブロードバンドを実現!
http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20070123/375
モバイルWiMAXがIMT-2000の新・標準インタフェースに!
http://wbb.forum.impressrd.jp/report/20070911/460
モバイルWiMAXのサービス会社、本稼働へ!
http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20080307/560
慶應大、オープン無線プラットフォーム・ラボ =2.5GHz帯のWiMAXの実証実験をスタート=!
http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20071228/518
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