[特別レポート]

ルートとユビテックによる地域WiMAX戦略(3):地域WiMAXで提供されるサービス

2008/05/16
(金)
SmartGridニューズレター編集部

≪2≫地域WiMAXで有効なサービスとは

■地域WiMAXを使ったサービスとして、どのようなものが考えられますか。どんな使い方が有効ですか。

真野氏 まずデジタル・デバイドという観点でみますと、単純に、今ISDNしかない地域にブロードバンドの回線サービスを提供しましたということになります。

そのような使い方よりも、例えばBタイプやCタイプのような周辺に電波を飛ばして、ノマディック的な利用もできるようにするほうが大事です。ただ、その場合、全国バンドがあるので、地域バンドはいらないのではないかという意見もありますが、それは違います。

■それはどういうことでしょうか。

真野氏 日本でも世界でもそうですが、通信には、2つあります。ひとつは事業者通信といわれていて、通信事業者と契約することで利用できるようになる電話などの通信サービス。もうひとつは、自営通信です。

自営通信は、トランシーバーのように自らの網の範囲のなかでやり取りする形です。消防通信や地域の防災情報のような、要するに通信事業者に毎月お金を払うのではなく、自ら無線設備を設置して自ら運営する形態です。

こうした自営通信は、ニーズはありますがマーケットが小さいので、通信事業者がサービスを提供しても利益をえることができないため、事業として成り立ちにくい状況にあります。

とはいえ、音声だけでなく、画像や動画、メールなどさまざまなものを送信できる高度な自営通信の需要は確実にあります。こうしたものは、公共サービスとしてあっていいものです。

例えば、介護支援という使い方もあります。デイケアの人が、お年寄りの家に行き、ケアして事務所に戻ってから、書類をたくさん書かなければいけません。もし、地域WiMAXのネットワークが、訪問先の家庭にあれば、それを利用して書類を作成してしまえば、事務所に戻ってからの処理作業を軽減することができます。

また、農業のためのデータ収集や水防監視などの使い方も有効です。

■地域WiMAXは、自治体が100%出資してやる制度なのでしょうか。

荻野司氏(ユビテック 代表取締役社長)
荻野司氏
(ユビテック 代表取締役社長)

荻野氏 この地域WiMAXの制度は、電気通信事業者に地域の公共の福祉増進を目的として免許を与えるものです。電気通信事業者には、自治体や第3セクターでもなれますし、地域のISP、CATVなどいろいろな事業者が参画できます。

■積極的に参入しようとしている事業者は具体的にどのような事業者ですか。

荻野氏 地域の場合は、やはりCATV事業者ですね。おそらく、CATV事業者は、これまで地方自治体や地域の人々と密接に結びついてきて、災害情報や、町の重要なインフォメーションなど、地域の公共情報を提供してきた実績があります。そうするとこのWiMAXは、そういう目的には使いやすいメディアなので、すでに実績のあるCATV事業者は参入しやすいでしょう。

真野氏 この制度では、比較審査して事業者を決定する際に、自治体に意見を聞くということになっています。自治体として、今後の自治体の行政にとって利があるのはどの事業者か、という意見を出すのが大前提なのです。そういう意味で、これまで自治体と密な連携があって、地域の中でも貢献してきたCATVは、ひとつの大きなポイントとなります。

≪3≫地域WiMAXのビジネスは10万世帯がターゲット

■地域WiMAXのサービスの料金はどうなりますか。

真野氏 それは、事業者によっても違うと思いますが、例えば、先ほど挙げた秋田の例では、ADSL相当のサービスが提供できますので、料金もそのぐらいだと考えています。提供できるサービスと市場価格とのバランスで決まるでしょう。

このとき、もし、重厚長大な全国サービスのための設備を持とうとして、100世帯程度のところに、3000万円の設備を置いてしまったら、それはペイしないわけです。どんなに設備投資がかかろうと、参入コストは、市場価格に転嫁できませんからね。

■こうした設備の場合は、どのくらいの年月でコストを回収するのですか。

荻野氏 業者によって違います。インターネット的に考えると、5年ぐらいです。さらに、通信事業者のARPU(※)は下げる方向にきています。家計費に占める通信費の割合もこれ以上増やせません。ですから100世帯とか300世帯とかを対象にする地域に設置する設備は、インターネット的に、5年で回収できるサイズのものでないと、コストを回収できません。

ARPU:Average Revenue Per User、契約者1人あたりの月額売上げ

■2011年までに全国のブロードバンド過疎地をなくすといったときに、そのビジネスのサイズはどのくらいあるのか。試算されていますか。

真野氏 総務省の資料によると、2007年9月末時点でブロードバンド・ゼロ地域として残っているのは約200万世帯です。仮にワイヤレスで提供できる可能性が5%とすると10万世帯程度です。これは、あくまでも仮であり、かつ最大規模の話です。

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