≪6≫「標準化」はお客様(ユーザー)が求めるもの
■ これまで全体的な流れをお話しいただいたんですけれども、次に、もう1つ、違う視点からお話をお願いしたいのですが。標準化活動というのは、企業が、語学力もあり技術力もあり、コミュニケーション力も闘争力もある貴重な人材を送り出すわけですね。費用も結構かかりますよね。すると、費用もかかり、人材もいないとなると、標準化活動に参加するよりも、標準規格を採用した他社の製品や技術を買えばいいじゃないかということもあると思います。御社の場合、標準化活動とビジネスの関係をどのように位置づけられているのでしょうか。
瀬戸康一郎氏
瀬戸 1つは、「標準化」と言うことの意味のとらえ方の問題と思います。「標準化」とというのはお客様(ユーザー)が求めるものなのです。いちメーカーの当社が、まったく独自の方式の製品を市場に出しても、そのような製品はお客様には買っていただけないのです。ですから、国際標準に基づいた製品を提供し、安心して買っていただくことが重要なわけです。国際標準に基づいた製品なので方式的にも安定していますし、万が一当社の製品に不都合が生じた場合でも、他社の製品で代替することもできます。
このように、国際標準対応というのはユーザーが求めるものであり、ユーザーがビジネス活動を安定して行ううえで必須のものなのです。
当社は、国際標準活動への参加を通じて、最新の国際標準に対応した製品をお客様にいち早く提供することや、場合によっては標準技術だけでは足りない部分をプラスワンの独自機能として提供するために役立てています。
≪7≫次世代の人々へ:レストランでビールを飲みながら
■ 最後に、標準化を目指す次の世代の若者たちに一言お願いします。
瀬戸 実際、私も若い人に言っていますが、私自身、このイーサネット分野の標準化活動を通して、それなりに成果を出している自負はありますが、自分自身が頭がいいとか、発想力が豊かとはまったく思っていないのです。ただ、IEEEなどに参加して、他国からの参加者などとも議論や意見交換することにより、社内から得られるアイデアとは全然違うアイデアや視点を得ることができました。それをどのように生かすかは自分次第ですが、そういうインプットが広く得られるというのは非常によいところだと思っています。ですから、国際標準と限らず、広く海外に出ていって見聞し、意見交換をすることできるようにし、自分が担当しているビジネスの市場や、会社の強みなどを適用していけば、新しいビジネスやいろいろないい製品を開発していけると思いますので、若い人にそのようなことを目指してほしいと思っています。
■ 読者の皆さんへの熱いアピールですね。
瀬戸 国際標準(IEEE 802標準など)の内容は、現在、Webで公開されるようになっていますので、だれでも見るとことはできます。しかし、現地へ行って、話を直接聞いて、場合によっては自分で意見も言って、それに対してフィードバックも得る。情報収集だけではなく、場合によっては夜、レストランでビールやワインでも飲みながら、世界の人々と話したり、親交を深めるということも含めて、要するに身体で空気や温度差をつかむというか、流れをつかむことも重要なことと思います。
■ ご多忙のところ、貴重なご意見をありがとうございました。
── 了 ──
NGN時代を支えるイーサネット(802.3ah)標準:その逆転のドラマ 第1回
プロフィール
瀬戸康一郎氏(せと こういちろう)
現職:日立電線株式会社 ネットワーク開発部 部長
【略 歴】
1988年 東京工業大学 工学部 電気電子工学科卒業
1988年 日立電線(株)に入社、電線研究所にてLAN機器開発に従事
1996年 Hitachi Cable America サンノゼ事務所に駐在、ネットワーク関連技術調査業務に従事
2000年 日立電線(株)情報システム事業本部 事業企画室
2002年 日立電線(株)情報システム事業本部 開発部 マネジャ
2007年 日立電線(株)ネットワーク開発部 部長
IEEE会員、IEEE 802.1 WG投票メンバ