[特別レポート]

ジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略(前編)

=仮想化技術をベースに『シンプル、省電力、簡易操作』を目指す=
2008/10/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

国際的なネットワーク関連機器のリーディング企業であるジュニパーネットワークスは、革新的なエッジ・ルータやコア・ルータおよび仮想化技術をベースにした製品や、新しいアーキテクチャなどを相次いで発表している。このほど新製品『「SRX」ダイナミック・サービス・ゲートウェイ』の発表に当たって、プレス・セミナーを開催(2008年9月13日)。動画配信時代に急増するインターネットのトラフィックに対し、プロバイダはどうネットワークの価値を引き出し、どう収益を向上させるか。あるいはNGN(次世代ネットワーク)や間近に迫った本格的なモバイル・ブロードバンド時代にどう対処すべきか。トラフィックが急増するアジア太平洋地域(APAC)でのビジネス展開を紹介しながら、同社の講師陣がジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略を熱く語った。
前編では、4つの講演のうち、〔講演1〕ネットワークがもつ価値をどのように引き出すかと、〔講演2〕オープン・ガーデン・フレーム・サービス=重要なサービス指向型アーキテクチャ(SOA)とIPsphere=、を中心にレポートする。

ジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略(前編) =仮想化技術をベースに『シンプル、省電力、簡易操作』を目指す=
写真1 マット・コロン氏(ジュニパーネットワークス アジア太平洋地域CTO)
写真1 マット・コロン氏
(ジュニパーネットワークス
アジア太平洋地域CTO)

講演1 ネットワークがもつ価値をどのように引き出すか?
ジュニパーネットワークス アジア太平洋地域CTO
マット・コロン(Matt Kolon)

本セミナーの最初に講演したアジア太平洋地域 CTO マット・コロン氏は、図1を示しながら、同氏が担当しているアジア太平洋地域(APAC:Asia Pacific)の通信トラフィックのウェイトが高くなってきている特長を分析。さらにジュニパーネットワークスが、サービス・プロバイダイダのネットワークの価値を引き出すために、どのようなツールを提供できるかを中心に話した。


図1 全世界におけるAPACのGDPとネットワーク・ユーザー数(クリックで拡大)


≪1≫アジア太平洋地域(APAC)のトラフィック急増の3つの理由

APACにおける通信トラフィックのウェイトが高くなってきている理由は3つある。

第1の理由は、APACが世界全体のGDP(国内総生産)に占める割合が図1(青:2000年の状況、赤:2007年の状況)に示すように(人口の増加および経済の発展を含めて)、世界の中でAPACの占める割合がますます高くなっていること。これは、例えば、図1の下に示すインターネット・ユーザー数(全世界で13億人:2007年)、携帯電話の加入者(全世界で33億人:2007年)にも反映し、図1下の紫の部分に占めるように、APACは世界の各地域に比べて大きな割合を占めるようになってきている。

第2の理由は、こうした中で、ネットワークを利用するユーザーは、企業向けユーザーはもちろんのこと、個人(コンシューマ)向けユーザーの利用(トラフィック)が増大してきていること(図2)である。そのため、当社のような通信機器ベンダは単に企業のCIOの方に満足をしてもらうだけでなく、CIOがサービスを提供している数多くの企業ユーザーにも満足度を与えることが重要になってきている。


図2 増大するコンシューマのトラフィック(クリックで拡大)


第3の理由は、モバイルの利用が増大し重要性を増してきていることである。現在、携帯やパソコンなどのデバイスが3Gネットワーク上で利用され、さらに、今後WiMAXやLTE(Long Term Evolution、3.9世代)上で展開されることになる。このため、今後は、通信事業者の売り上げは、音声通信よりもデータ通信のほうの比重が大きくなる。このような背景の中で、身の回りのコンシューマ・エレクトロニクス製品の状況は大きく変わってきており、無線用のモデムが内蔵される機器が急増してきている。

≪2≫高い信頼性が求められるIPインフラ

インターネットの急速な普及を背景に、ネットワークのIP化が進められIPインフラストラクチャが社会的に重要なものとなってきた。このような中で、現在、日本のNTTをはじめ世界の通信事業者は、オールIP化による次世代ネットワーク(NGN)の構築を進めているが、この中で、IPインフラに対して従来の信頼性の高い電話交換機(例:加入者交換機。欧米ではクラス5交換機とも呼ばれる)、すなわちTDM(時分割多重)インフラと同等の信頼性が求められるようになってきている。

現在、企業のビジネス活動は、ネットワークを中心に展開されているため、ネットワークのダウンは例え数秒であっても、非常に大きな経済的損失が発生する。そこで信頼性を実現させるため、サービス・プロバイダの間で、いかにしてネットワーク機器の数を減らすか、さらにネットワークの数をも減らそうとする動きが見られるようになった。

このため、最近では、ネットワークの統合に対する期待が高まってきている。そこで、当社は、すでに図3に示すような、仮想化技術「JCS」(Juniper Control System、ジュニパー・コントロール・システム)を提供している(2008年2月発表)。このJCSは、従来はルータの内部にあった複雑な制御プレーン(制御機能)を、外部に分離独立させた新しいシステム。このシステムを導入することで、サービス・プロバイダは、制御プレーンを拡張して、品質の高いサービスの導入を加速することが可能となった。すなわち、ルータの制御系を仮想化(バーチャライゼーション)させることによって、上位層におけるアプリケーションが必要とする帯域に、柔軟に対応できる仕組みを実現したわけである。


図3 仮想化技術「JCS」(Juniper Control System)の仕組み(クリックで拡大)


これによって、いろいろなサービス(SVC:Service)を提供するコンテンツ・プロバイダ(CP)からのサービスの制御を、図3に示すように1つのフォワーディング・プレーン(転送機能)に対して行えるようになった。すなわち、このような仮想化によって、新しいサービスが導入され、ユーザー数が増大してきても、処理能力に応じた拡張性や安定性を保ちながらシステムの展開が可能になったのである。

≪3≫サービス・プロバイダにおけるビジネス・モデルの進化

また、サービス・プロバイダは、巨大な投資をし、ユーザーにアクセス網を提供しているので、それに対して、どれだけ大きな利益を生み出すかが課題である。このとき、サービス・プロバイダは単にユーザーにネットワーク接続を提供するだけでなく、いろいろな方法で収入を増やさないと単に料金競争に陥ってしまうことになる。

ここで、注目される例を挙げると、Webサイト上に広告を載せることによって、収益をあげているグーグルの場合、いつも大きな売り上げを上げている企業という面から語られることが多い。しかし、図4に示すように2007年の4Qの場合、全広告収入48億ドル(約4800億円)のうち14億ドル(約1400億円)もパートナーに支出し、同じくヤフー場合も16億ドルのうち4億2900万ドルも、パートナーに支出している。このように、サービス・プロバイダあるいはコンテンツ・プロバイダやアグリゲータなどのポータルにアクセスするユーザーを、グーグルやヤフーのサイトに誘導しビジネスを発展させるために、グーグルやヤフーは相当なお金を支出しているのである。

そこで、サービス・プロバイダは、例えば自身が持っているさまざまなユニークな情報をこのようなグーグルやヤフーあるいはコンテンツ・プロバイダに提供することによって、ネットワークの新しい価値を生み出すことができ、これによって売り上げを伸ばすことが可能となる時代を迎えている。


図4 グーグルとヤフーの収入と支出(クリックで拡大)


≪4≫「PSDP」プラットフォームでアプリケーション開発を支援

こうした背景の下にジュニパーは、さらにプロバイダが収益を増大できるよう、「JUNOS」ネットワークOSをベースに、アプリケーション開発を手助けするプラットフォーム「PSDP」(Partner Solution Development Platform)を、ライセンス契約を締結したパートナー企業に提供している。かつてのATM(Asynchronous Transfer Mode、非同期転送モード)が登場したころは、ごく限られた一部の企業が、あらゆるビジネスをコントロールしていた。しかし、現在はそのようなクローズドな環境から一変して、IPによるオープンな環境となっている。ジュニパーは可能な限りそのようなオープン化の環境の中で、プロバイダがビジネスを発展させ、成功できるように、アプリケーション開発を支援しており、今後ともその支援を強化していきたい、と締めくくった。

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