≪1≫新しい戦略的なSIP関連製品を続々と発表
■ 最近、簡易で低コストなNGNアプリケーション開発用のツール・キットや業界初のアンドロイド対応のSIPなど、新しい戦略的なSIP関連製品を続々と発表されていますね。
佐藤 はい。1つは次世代ネットワーク「NGN」(Next Generation Network)に対応した機能をアプリケーションやシステムに簡単に組み入れることが可能なツール、「SUPREE Vision Premier(スプリー・ビジョン・プレミア)」という製品(2009年5月29日発表)です。これはNTT東西の「フレッツ 光ネクスト」(NGNのサービス名)と「ひかり電話」に対応しており、当社のWebサイトから無償でダウンロードできます(図1、表1)。
もう一つは、当社のSIPをアンドロイドのプラットフォームに対応させたSIPモジュールと、通信アプリケーションの「SIPダイアラ」です。これは、昨今、話題となっているアンドロイド携帯電話だけでなく、さまざまな組込み機器でも使えように開発したものです。具体的には業界でも初めてSIPの機能をアンドロイド上で動かし双方向のVoIP(IP電話)を実現しました。これはすでに、スマートフォン開発で国際的な先進的な企業である台湾のHTC社のスマートフォンで動作検証済みです。
≪2≫NGN対応アプリケーション開発キット「SUPREE Vision Premier」
佐藤和紀氏
(ソフトフロント
取締役)
■ それでは、まず、NGN対応アプリケーション開発キット「SUPREE Vision Premier」(スプリー・ビジョン・プレミア)から簡単にお話しいただけますか。
佐藤 SUPREE Vision Premier(スプリー・ビジョン・プレミア)のSUPREEというのは「Supreme」(至上の、最高の)と言う意味をもつ造語ですが、これは、高い品質を実現するNGNサービスやビジネスを、短期間に低コストでしかも容易に実現できるようにする目的で開発された、NGN対応のツール・キットです。NGNのアプリケーションというと、現在は、非常に限られたものしかありません。なぜ限られているのかというと、現状ではNGN対応のアプリケーションを開発しようとすると、いろいろと難しい技術的な仕様などを習得する必要があるからです。
■ 具体的にはどのようなことでしょうか
佐藤 例えば、NGNに関するユーザー端末とNGN網の間のインタフェースであるUNI(注1 ユーザー・網インタフェース)の仕様を理解する必要があるのです。
(注1).UNI: User Network Interface の略。NTTが公開しているNGNのUNIに関する仕様の例として下記があげられる。
例:「音声利用IP通信網サービス(第2種サービスタイプ2)のインタフェース)
(http://www.ntt-east.co.jp/ngn/business/pdf/hikari_tel_2_01.pdf)
≪3≫NGNアプリケーションを誰でも短期間で容易に開発できるSUPREE Vision Premier
■ なるほど。このインタフェース仕様を理解するにはかなり深い専門知識が必要ですね。
佐藤 そうですね。このような仕様のほかに、音声やテレビ会議などのリアルタイムのメディア通信をしようとすると、RTP/RTCP(注2)などのプロトコルを使用したリアルタイム制御をどうするのか、音声や映像データの圧縮に関するコーデック(符号化/復号装置)をどうするのかなど、開発するためにいろいろな専門知識や調査が必要になります。このような背景から、中小のICT(情報技術)ベンダーさんがNGNに関するアプリケーションを開発したいと思っても、ハードルが高くてなかなか進んでいかないのが現状だと思います。
注2 RTP/RTCP:
RTP:Real-time Transport Protocol、リアルタイム・データ転送プロトコル
RTCP:RTP Control Protocol、リアルタイム・データ転送制御プロトコル
そこで、何とかNGNに関するアプリケーションを誰でも短期間で容易に、しかも低コストで開発し、そのすそ野を広げていって、NGNビジネスの対象範囲(全体のパイ)をどんどん大きくしていきたいという願いから、SUPREE Vision Premierという製品を開発しました。この製品の内容は、SIPを用いたテレビ電話などの機能を、パソコンのWindows XPとVista上で簡単に開発・支援するためのツール・キットになっています(図2)。
■ もう少し具体的に説明していただけますか。
佐藤 はい。このSUPREE Vision Premierは、NGNのUNI仕様に準拠しておりまして、具体的には音声通話やテレビ電話の開発を対象にしています。SUPREE Vision Premierを使えば、電話サービスの知識がなくても、15個のAPI(表2)を制御するだけで、どなたでも簡単にNGN対応の高品質テレビ電話機能を備えたアプリケーションを開発できるようになっています。
佐藤和紀氏
(ソフトフロント取締役)
■ このSDKを使わずに、普通に最初から開発するとどれぐらいの期間かかるものなのですか。
佐藤 普通は、まずNGNの技術仕様を理解したり、実際にシグナリング(電話の発着信などの呼制御)の開発をしたり、さらには先ほど申し上げたメディア通信の開発をしたりしますのでかなりの時間と労力を必要とします。そして、アプリケーションを開発した後は、NGN仕様に正しく準拠しているか、詳細な検証作業が必要になります。このように新規にビジネスを展開しようとすると、さまざまなハードルがあるのです。
■ 人材を豊富にそろえている、大手ベンダー以外は参入がむずかしそうですね。
佐藤 今までは、そういう状況でもありました。しかし、当社の製品を利用したアプリケーションの場合は、NGN仕様への準拠はすべてこのSUPREE Vision Premierで検証された状態になっています(図3)。従来は、SIPの技術習得、NGNの技術仕様の理解、これに加えて、さまざまなソフトウェアやハードウェアの開発と検証というところまで含めますと、普通に開発すると最短でも8カ月ぐらいかかるのです。これに対して、このSUPREE Vision Premierを使えば、テレビ電話の部分だけでいえばほんの数日でできてしまうのです(図4)。
■ 8ヵ月かかるところが数日で済むのですか。
佐藤 SUPREE Vision Premierでは、非常に簡単に開発を可能にするということを実現できました。また、単にテレビ電話しかできないアプリケーションやサービスというのは、なかなか商品価値としても厳しいかと思うのですが、このSUPREE Vision Premierはテレビ電話機能を提供しますが、それ以外の部分に対する制約事項をほとんど設けないようにして、柔軟に連携したり、組み入れたりできるようにしています。
■ なぜでしょうか。
佐藤 はい。なぜかと言いますと、NGNでサービスを提供しビジネスを始めたいという企業(SUPREE Vision Premierを利用する対象となるお客様)がお持ちの既存のソリューション、例えば「社内の会計システム」ですとか、「グループウェア」のような、LANやインターネット上のアプリケーションの中に、気軽にNGN対応のコミュニケーション機能を組み込んでいただけるように、柔軟性を実現しています。
SUPREE Vision Premierを使って開発するアプリケーションについては、その開発言語自体も一切制限をしないようにしています。例えば、かなりプロフェッショナルの方がお使いのC/C++から、Visual Basic、Visual C#でもOKです。こうしたプログラミング言語から、インターネット・ブラウザの中にもこのSUPREE Vision Premierが組み込めるように、JavaScriptでも簡単にプログラミングできるようにもなっています(表3)。
≪4≫SUPREE Vision Premierで開発できる具体的なサービス
■ 具体的なサービスなり製品のイメージは
佐藤 安価なテレビ会議システムや、CTIシステムが実現でき、遠隔医療や在宅介護、教育や、オンライン・ショッピングなどのサービスを期待しています。
例えば、コールセンター向けの先進的なソリューションを提供しているイリイ様(注3 東京都・文京区)にて、SUPREE Vision Premierを使用して、大規模なコールセンターではなくて、小規模な、SOHOレベルで契約者の方に対してサポートされるようなコールセンターに向けたプロダクトを実際に開発していただいています。Interop2009の会場でデモを行いました(図5)。
注3 イリイ株式会社:ソリューションを通して地域社会に貢献することを経営理念とし「フロントオフィスシステムNo.1ソリューション企業」をビジョンに掲げ事業展開をしている。1998年、ナンバーディスプレイサービスが開始されたと同時にCTIアプリケーションの開発をスタート。「BIG for CTI」のブランドで国内主要通信機器メーカー、通信キャリアに対応したCTI各種パッケージとCRMの核となる顧客管理システムを市場に投入し、現在約17,000社の企業に利用されている。
URL:http://www.ilii.co.jp
--つづく--
バックナンバー
第1回:NGNの普及を加速する簡易なNGNアプリ開発キット『SUPREE Vision Premier』
第2回:SDP(サービス提供基盤)とSUPREEの違いとそのビジネス・モデル
第3回:今後有望な、アンドロイド対応SIPの組込みデバイスへの適用
プロフィール
佐藤 和紀(さとう かずのり)氏
現職:株式会社ソフトフロント 取締役 研究開発担当
【略歴】
通信機器メーカー、ソフト・メーカーを経て、
2000年:ソフトフロントに入社。SIP/VoIPミドルウェア
のOEM提供、SIP製品の開発支援に携わる。
2005年:同社取締役に就任。
2007年から研究開発担当として開発を取り仕切る。