≪1≫実証システム「エネルギーデータ見える化システム」を構築
記者会見を行う
「東大グリーンICTプロジェクト」代表
江崎 浩氏(東京大学大学院教授)
今回、新しく東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)で構築されたこの東大第二本部棟空調管理制御の実証システム「エネルギーデータ見える化システム」(図1)は、改正省エネ法に対応するため、複数ビルの消費エネルギーを、インターネットを活用して一括管理するシステムである。その構築はGUTP(Green Unversity of Tokyo Project)のメンバーであるダイキン工業(株)と(株)ユビテックが開発を担当、ビル設備系のネットワークと情報系ネットワークの統合を実現した。
また、東大の全学の空調関係等の省エネルギー化や省CO2を推進している東大サステイナブルキャンパスプロジェクト(TSCP:Todai Sustainable Campus Project)の協力を得て、構築したシステムにおいて収集したデータを活用し、システム運用上の課題の抽出やCO2削減モデルの実証も行われてきた。
この実験システムでは、図1に示すように、ビルに設置された空調システム(ダイキン工業製)の運用状態やエネルギー消費を計測し、そのデータをBX-Office(インターネットと設備制御の統合ゲートウェイ)経由でキャンパス外のインターネット上のデータサーバ(ユビテック製)に収集することによって、従来セキュリティ上の課題から構築が難しかったB・OA(ボア)ネットワーク統合を達成した。
このシステムに使用されている「BX-Office」は、オフィスの照明設備や監視設備(警備システムやセキュリティ・システムなど)といった複数の設備制御システムを連携可能とし、「BX-Office」を1台設置するだけで、ネットワークと設備制御が1つの社内システムとして運用できるようになる。また、B・OA(ボア)とは、これまで個別に構築されていたBA(Building Automation、ビル管理システム)とOA(Office Automation、情報システム)のネットワークをIPで統合することによって、ビルにおけるインフラの初期コストを低減し、さらに利用者のサービスの向上を実現する技術である。
≪2≫前「グリーン東大工学部プロジェクト」の成果
2年前の2008年6月スタートしたグリーン東大工学部プロジェクトは、家電企業から、情報関連企業、制御関連企業、建築企業、学会・大学に至るまで幅広い45組織(32企業、非営利組織13団体)が参加し、活動を展開し大きな成果を上げてきた。とくに、この期間は、国際的な環境・エネルギー問題やスマートグリッドに対する社会的な関心の高まりを反映して、参加企業の意識も大きく変化した。このような変化に加えて、従来クローズドに作られてきたシステムを、IP技術などの導入によりオープン化することによって、新しいビジネスの可能性と方向性が見えてきたことなど、プロジェクトの成果が評価され、ほとんどの参加企業から次のステップへ進むことに賛同を得ることができた。このため、組織をリニューアルしてこのほど「東大グリーンICTプロジェクト」(GUTP)として、新しく展開されることとなった。
当初、「グリーン東大工学部プロジェクト」として発足(2008年6月)した組織は、図2に示すような①~⑩項目のゴールを目指して活動してきた。ここでいくつかの具体的成果の例を簡単に紹介する。
まず、具体的な数値として、2012年までに20%の省エネ効果を目標としていたが、すでに20%という数字は少なくともこの2号館の設備ではほぼ実現できた。快適で効率的な環境を構築するという目標について、江崎教授は「当プロジェクトの会員であるコクヨさんでは、品川研究所に実験的に、我々のプロジェクトの成果の一部が導入されました。」と述べ、このプロジェクトの成果が具体的なビジネスの場で実証され始めていることをアピールした。
また、東大のTSCP室とグリーン東大が共同で、第二本部棟(東大総長室があるビルの隣のビル)で、このプロジェクトの技術を使って工学部2号館以外のビルから、エアコンの遠隔監視・制御を行うことに初めて成功したが、これは、同プロジェクトの2年間の目標の一つでもあり地道ではあるが大きな成果であった。
新しい利用法とビジネス、産業の創成については、すでにいわゆる「押し付けられる省エネではない形」でのファシリティネットワークの展開が見えてきた。スマートグリッドもこれと関係してきているが、このような新しい取り組みによって、会員企業などで新しいアプリケーションの開発や新しいビジネスの開発、新しい商品の開発が進められるところまで来ている。
また、国際標準については前プロジェクトから引き続き新プロジェクトでも取り組んでいるテーマもあるが、中日グリーンIT合作プロジェクトを始め、NIST B2G(Business to Grid)からIEEEP1888、IPSO(IP for Smart Object)、SBA(Smart Building Cosortium)に至るまでかなり大きな前進をし、標準化活動においても大きく国際貢献してきている。これらは引き続きが新しいプロジェクトでの一つの大きな目標ともなっている(詳細は次回にレポート)。
≪3≫新「東大グリーンICTプロジェクト」の7つの目標
工学部プロジェクトから全学プロジェクトへと昇格し、新しい「東大グリーンICTプロジェクト」となった新プロジェクトは、今後、これまで取り組んできた内容をさらに強化し、国際標準化を活動の中心の一つに据えながら、国内だけではなく、国際的なグローバルなマーケットを目指して、新しいビジネスを創生していく方針を打ち出した。また、産学連携型のコンソーシアムのあり方として、前プロジェクトに引き続き今回の新プロジェクトも「官」からの支援金はもらわない方向で運営していくことを基本方針として決定。
この新しい「東大グリーンICTプロジェクト」は具体的には、図3に示す7つ目標を立てこれに向かって活動を展開していく。さらに、産業界で新しいビジネスを立ち上げていくために、このプロジェクト以外にもテストベッドを立ち上げ、その展開を推進していく。また単なる省エネではなくて、みんなが使いたくなるような形でのアプリケーションの開発なども行っていく。まだ発表できない段階であるが、「いくつかの組織ですでに我々の成果を使って工学部2号館以外でのビジネステストベッドを動かしたいというお話をいただいている」(江崎教授)という。
新しく出発した東大グリーンICTプロジェクトは、図4に示すように50組織(36企業、14団体)でのスタートとなったが、今後さらに増えることになると予測されている。今回の新規参加企業(検討中も含めて)では、とくに東京ガス(検討中)、東京電力、日本IBM、オリックス、新菱冷熱工業、シュナイダーエレクトリックグループジャパンなど、スマートグリッドを牽引するキーカンパニーが続々と名乗りを上げていることは注目されるところである。
≪4≫学内の廊下にスマートグリッド端末を設置
記者会見の後、図5に示す具体的成果の見学会(テクニカルサイトツアー)が行われたが、次にそのうちのいくつかを紹介する。
〔1〕3階の電気系会議室のカメラ、センサーなど
東大グリーンICTプロジェクトのシステムでは、いろいろなメーカー(マルチベンダ)の機器が設置されて相互接続され、オープンな環境で動作しているのも特徴の一つである。
写真1は、2号館3階の電気系会議室に設置されたカメラ(NTSC方式)や入退室管理用センサーで、会議室にいる人数や人の動き(活動量:寝ているのか、会議しているのか)、部屋のどこに人がいるかなどの分布を遠隔から監視できる。Webカメラなども設置されている。また、ここには、写真2に示すように、室内の温度・湿度センサーや室外の温度・湿度センサーのほか、CO2センサーなどが設置されており、遠隔から空調制御等が可能となっている。
〔2〕10階の電力表示端末(統合型建物運用状況の見える化)
2号館10階の江崎研究室付近のエレベータ前に設置されている電力量表示端末(スマートグリッド端末)は、電力の管理者側という視点ではなく、利用者側に立ったインタフェースで、タッチパネルで操作ができる。写真3はスマートグリッド端末の外観、写真4は写真3の画面の拡大を示す。写真5は、現在10階が選択されていることを示す。10階を選択すると右上に管理担当者が表示され、中央に10階の今月の電力量、電気料金、CO2排出量、節約電力量などが表示される。また、各利用者を登録することが可能である。例えば、すでに登録されている江崎先生のボタンを押す(写真6)と、個別に江崎先生の部屋の空調や照明などの利用状況のグラフなどが表示される。このような人にやさしい「見える化システム」は、このプロジェクトの大きな魅力の一つともなっている。
(つづく)
関連記事
<新スマートグリッド・コンソーシアム:「東大グリーンICTプロジェクト」が新システムを構築>
新スマートグリッド・コンソーシアム:「東大グリーンICTプロジェクト」が新システムを構築(その1)
新スマートグリッド・コンソーシアム:「東大グリーンICTプロジェクト」が新システムを構築(その2)
<東大のスマートグリッドを実現するグリーン東大の実証実験を聞く!>
第1回:CO2を2030年までに50%削減することを目標
第2回:グリーン東大の目指すゴールとシステム構成
第3回:グリーン東大発のNISTやIETFなどへの標準活動