
≪1≫10個の技術仕様の標準化活動に取り組む
実証実験システムとして「エネルギーデータの見える化システム」を構築した、新スマートグリッド・コンソーシアム『東大グリーンICTプロジェクト』は、図1に示すように、グローバル標準への貢献を大きな目的・目標としており、標準化活動を重要なミッションと位置づけている。この背景には、これまで日本の建築関係やファシリティ関係の技術が、日本の独自技術を中心に構築されてきたことが挙げられている。
すなわち、スマートグリッド時代を迎えて、今後、日本が国際市場でビジネス展開をしていくうえで、オープンなマルチベンダ環境で関連機器やシステムを、いかに容易につなぎ活用できるようにするかが、重要な課題となってきているのである。そのため、東大グリーンICTプロジェクトでは、図1に示す10個の技術の標準化活動を中心に、積極的に展開し始めている。ここでは、このうちのいくつかのプロジェクト/標準化活動を紹介しよう。
なお、この方針のもとに、東大工学部2号館はこれらの標準仕様を動かすテストベッドともなっており、同プロジェクト会員は、世界の最先端の標準仕様を実際に体験しながら、新しい技術仕様をベースに、国際競争力のあるビジネスを創出していくことが可能になっている。
≪2≫中日緑色ITプロジェクト/IEEE P1888
東大グリーンICTプロジェクトは、図2に示すように総務省の協力を得て、中国の清華大学と「中日緑色ITプロジェクト」を展開している。清華大学側にも、グリーン東大と同じような体制が中国・北京につくられている。具体的には、中国の清華大学の先端ネットワークビルに、東大2号館と同じようにICTを使って省エネ化するシステムを2010年3月末から実際に動かしており、会場では、その連係動作のデモも行われた。
また、中日緑色ITプロジェクトでは、標準化の面からの協力も進められており、中国国内の標準化はもちろんのこと、これと関連するIEEE P1888(図3)という省エネファシリティ関係の国際標準化の活動も共同で行われている〔IEEE P1888:Standard for Ubiquitous Green Community Control Network Protocol〕。この標準化活動には、主要なメンバーとして、中国の企業および大学、およびグリーン東大の主要メンバーがコアに入って進められている。
当日、東京大学の会場を訪れた、中日緑色ITプロジェクトの中国側の責任者の一人として活躍されている清華大学 情報理工学研究科 副研究科長 ニュウ教授(牛 志升氏:Zhisheng Niu、写真1)は、「グリーン東大プロジェクトで感銘を受けているところは、ハードウェアだけでなく、FIAP(フィアップ)プロトコルやインタフェース、さらに上位のデータベースの活用にも取り組んでいるところです。また、『見える化』(図4)によって一般の学生とも触れ合えるようにしたところは、教育の面からも中国のプロジェクトより進んでいます。」と語った。
ニュウ教授が語った「FIAP」(Facility Information Access Protocol、ファシリティ情報アクセス・プロトコル)とは、グリーン東大によって開発され命名されたプロトコルであるが、これは現在IETF(インターネット技術標準化委員会)とNIST(National Institute of Standards and Technology、米国立標準技術研究所)、ASHRAE(アシュレイ。American Society of Heating, Refrigerating, and Air-Conditioning Engineers、米国暖房冷凍空調学会)に提案され、活発な標準化の活動が展開されている。図5に国際標準プロトコルFIAPに対応したスマートメーターの例を示す。
〔参照URL http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20100304/785〕
≪3≫NIST B2G/ASHRAE・BACnet標準
前述したNIST(米国国立標準技術研究所)は、米国の政府調達の技術仕様をすべて決めているところであるが、現在NISTでは、米国のスマートグリッドに関する仕様が取りまとめられている。東大グリーンICTプロジェクトでは、目下、ビルディング・オートメーションに関するスマートグリッドに取り組んでいるため、NISTのB2G(Building to Grid)というグループと連携作業に入っている(図6)。NIST自身は標準を決めるところではなく、標準の方向性をガイドする役割と、すでに存在している技術標準のうち、どの技術標準を米国の標準仕様として決めるか、という役割をもっている。
そのNISTからは、東大グリーンICTプロジェクトからの提案を、空調や冷房などの標準化を行っているASHRAE(アシュレイ)という団体で標準化するようアドバイスを受けている。
このASHRAEには、日本では電気設備学会(http://www.ieiej.or.jp/)が対応しているが、ASHRAEでは、すでにBACnet(ISO/IEC)というファッシリティネットワークの技術仕様が標準化されている(図7)。このASHRAEは、米国あるいは学会系のデファクト標準から、ISO/IECのデジュール標準にもっていく標準化団体である。すなわち、NISTからASHRAEを経由してISO/IECに提案して標準化し、その標準を米国国内の仕様にしていくことになる。
〔BACnet:Building Automation and Control Networking protocol、ビルオートメーション用データ通信プロトコル。
ASHRAE:American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers 米国暖房冷凍空調学会〕
≪4≫IPSO(IPv6)との連携
民間のコンソーシアムである、IPSO(IP for Smart Object、スマートオブジェクトのためのIPプロトコル標準化団体)は、コンピュータ以外のスマートなオブジェクト(対象物)、例えばスマートグリッドを構成する機器(オブジェクト)に、どのようにIPv6(IETF)技術を適用し普及させていくかを目指しているが、グリーン東大コンソーシアムは、この組織とリエゾン(連携)関係をもって活動している。
また、データセンターのグリーン化を目指す団体であるThe Green Grid(グリーングリッド)とも協調して活動している。グリーン東大は、データセンターをもっていないが、ファシリティコントロールの中にはデータセンターを含まれているため、データセンターのファシリティ系の標準化を含めて、グリーングリッドとの協調関係を構築している。さらに、欧州との協調関係を構築するため、ETSI(European Telecommunications Standards Institute、欧州電気通信標準化機構)との議論を開始した。
≪5≫SBC(Smart Building Consortium)標準への後方支援
2008年3月に経済産業省の支援でつくられたSBC(スマートビルディングコンソーシアム)は、3万平方メートル以下のビルの省エネ市場をつくっていく協議会である。このコンソーシアムにグリーン東大も参加し、技術標準に対する後方支援を行っている(図8)が、このSBCは東京都全体のビルを含めて、日本国内のすべて中小ビルの仕様を決めている。
≪6≫先進的な標準化の情報発信基地としてのプロジェクト
以上、2回に分けて東大グリーンICTプロジェクトの活動を報告した。
当初は、東大2号館の単なる省エネを、IPを活用したオープン・システムで実現しようという目的から2008年6月に「グリーン東大工学部プロジェクト」としてスタートした。しかし、その後、「地球温暖化の気候変動の危機」「石油資源枯渇などのエネルギー危機」を柱とするグリーン・ニューディール政策を掲げた米国のオバマ大統領(2009年1月就任)が誕生し、2009年に合計45億ドル(約4,500億円)もの公的資金をスマートグリッド技術開発に投じることを決定したことを背景に、国際的に環境・エネルギー問題が一気に注目されるようになった。
このような国際的な動向を踏まえて、東大グリーンICTプロジェクトは、自らオープンでしかもマルチベンダ環境のテストベッドを構築し、地道で実践的な実証実験を積み重ねてきた。そして今や、このプロジェクトは、日本の産業を国際市場へ展開するうえで、国際競争力のある技術をつくるための、先進的な標準化の情報発信基地ともなってきた。
この東大グリーンICTプロジェクトの活動を契機に、米国、欧州そして中国などとの協力・連携関係を深めながら、日本がICT/グリーン分野においても国際競争力のある国として発展できるよう期待したい。
(おわり)
関連記事
<新スマートグリッド・コンソーシアム:「東大グリーンICTプロジェクト」が新システムを構築>
新スマートグリッド・コンソーシアム:「東大グリーンICTプロジェクト」が新システムを構築(その1)
新スマートグリッド・コンソーシアム:「東大グリーンICTプロジェクト」が新システムを構築(その2)
<東大のスマートグリッドを実現するグリーン東大の実証実験を聞く!>
第1回:CO2を2030年までに50%削減することを目標
第2回:グリーン東大の目指すゴールとシステム構成
第3回:グリーン東大発のNISTやIETFなどへの標準活動