同イベントの今年のテーマは「An Orchestra of Utilities」で、今後、エネルギーインフラにおいて、電気事業者やアグリゲータ、ICTソリューション企業の連携によって行われるデマンドレスポンスなどの電力需給調整や、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの系統への導入、また消費者によるエネルギー管理など、エネルギーに関係するあらゆる動きが融合していく将来を予測する、ということがテーマとなっている。
写真1 European Utility Week 2014の会場風景
2014年のEuropean Utility Weekは、「The Grid & Renewables Integration」「Smart Homes and End User Engagement」「Energy Storage」「ICT & Data Management」「Smart Water」「Gas Metering」「Smart Metering」「Smart Cities」などの分野に分かれ、エネルギーに関係するデバイスベンダやソリューションベンダなど、350以上の企業が出展している。
同イベントの今年のスポンサーは、ダイアモンドスポンサーがシーメンス、プラチナスポンサーがアクセンチュア、ランディスギア、東芝となっている。
ここでは、開催初日に行われたオープニングセッションの内容についてダイジェストをお届けする。
写真2 European Utility Week 2014のスポンサー企業の一覧
写真3 展示会場内の様子
オープニングセッションの冒頭に、まず、主催者であるEuropean Utility Weekのディレクターであるパディ・ヤング(Paddy Young)氏がスピーチした。
同氏によると、現在、ヨーロッパの電力業界は、従来の電力事業者が、電力を一方的に消費者に売る時代から、消費者によって電力のコントロールを行う時代へと大きなパラダイムシフトが起こっているという。
European Utility Week 2014は、この新しい電力ビジネスが生まれようとしている現在、企業同士が連携してよりよいエコシステムを作れるよう、参加者同士の関係作りに役立ててほしいと述べた。
写真4 冒頭でスピーチするパディ・ヤング氏(European Utility Weekディレクター)
次に、キーノートセッションとして、Royal Society of Artの最高責任者であるマシュー・テイラー(Matthew Taylor)氏より、“How New Capabilities and Expectations can Transform the Business Model of the Energy Sector”(エネルギー消費者の新たな要求が起こすエネルギー産業の変化(あるい変革または革命))というテーマで講演が行われた。
同氏によると、消費者は、今後、自分たちが利用しているエネルギーをより自由に、独自にコントロール(選択し制御して)していくことを要求するようになるという。
そのため、エネルギー供給を行っている電力事業者などは、現在のように、消費者に単純に電気を売るだけではなく、消費者が、それぞれの希望や環境に合わせて利用するエネルギーをコントロールできるようなソリューションやサービスを提供していくべきであると述べた。
写真5 マシュー・テイラー氏(Royal Society of Art最高責任者)
続いて登壇したSSE社の前最高経営責任者であり、現在はEnergy Instituteの最高責任者を務めるイアン・マーチャント(Ian Marchant)氏は、“Switching on the Consumer:The Democratisation of Energy”(消費者への転換:エネルギーの民主化)と題して講演を行った。
同氏は、再生可能エネルギーやマイクログリッドなどの導入が進み、同時に、これらのグリーンエネルギーが求められていくエネルギー業界では、今後は、消費者が主導権を握るようになると述べた。
例えば、今後は、消費者は、電気料金について、実際に発電にかかったコストをもとにより厳しく判断するであろうし、エネルギーの融通がデジタル化されることで、これまで電力事業者から消費者に一方的に提供されていた電気が、消費者間でも融通されるようになるという。
このような状況になってくると、特に、今後は、電力事業者や関連企業以外の、例えばNest Labs(後述)などのIT企業が、次々と消費者へ向けたサービスを提供していくため、電力事業者も、消費者からの要求を満たすようなサービスを提供することが重要であると述べた。
写真6 イアン・マーチャント氏(Energy Institute最高責任者)
次に講演を行ったのは、本誌2014年10月号でも掲載した、Googleに買収されたことで話題を集めたNest Labsの創設者でありCEOであるトニー・ファデル(Tony Fadell)氏である。
Nest Labsは、北米を中心に、冷暖房設備を管理するサーモスタットなどを開発している企業であるが、このサーモスタットは、ユーザーが、同製品を使用して温度調節すると、何曜日の何時にどの温度がその家庭にとって最適かを学習し、自動的に最適な温度に調節してくれるようになるという製品である。
また、モーションセンサーも搭載しており、例えば、冬場に家の中に人がいないときは、暖房を弱めるといったことでエネルギーの削減を実現する。
同氏は、講演の冒頭に、Nest Labsは2014年1月にGoogleに買収され、パートナーとして取り組みを行っているが、同社が開発しているサーモスタットから得られた各家庭の情報などについてはGoogleと共有しておらず、Nest Labsの中だけで利用していることを強調した。
また、現在のエネルギー事情は、消費者にとっては、「なぜ電気代が上がったのか?」などの分析が非常に難しい状況であると述べ、同社のサーモスタットを利用することで、消費者にわかりやすくエネルギーの利用量が下がることを見せることで月々の支払い金額も下がっていくことを見せていくというサービスを、今後もシンプルに行っていくとした。
写真7 トニー・フェデル氏(Nest Labs 創設者、CEO)
続いて登壇したのは、シーメンスのエネルギー管理部門のCTO(Chief Technology Officer)であるマイケル・ウェインホールド(Michael Weinhold)氏である。
同氏は、電力の供給において、電力事業者による発電と、再生可能エネルギー、マイクログリッドなどが融合する時代を「Utility 2.0」と提唱した。
同氏によると、Utility 2.0では、コミュニティや大学のキャンパス、工場などは、「エネルギーセル」(Energy Cell)と呼ばれる小規模なエネルギーのエコサイクルになり、これらが次々と登場すると述べた。このエネルギーセルは、従来の大規模な電力網(スーパーグリッド)と連携しており、同時に、エネルギーセル同士でもエネルギーのやりとりを行えるようになる。
さらに、ICTによるエネルギー管理や、エネルギー融通のデジタル化が、エネルギー業界に新たなビジネスモデルをもたらすと述べた。
写真8 マイケル・ウェインホールド氏(シーメンス エネルギー管理部門CTO)
写真9 エネルギーセルの概念図
オープニングセッションの最後には、すでに登壇したイアン・マーチャント氏、マイケル・ウェインホールド氏に加えて、ENTSO-E(European Network of Transmission System Operators for Electricity)の最高責任者であるニック・ウィンザー(Nick Winser)氏、オランダのエネルギー事業者であるEssent社のCEOであるアーウィン・ファン・レサム(Erwin van Laethem)氏、ポルトガルやスペインで配電事業を行っているEDP Distribution社のジャオ・トレス(Joao Torres)氏、オランダで電力供給網、ガスの供給網を構築しているStedin社のジョープ・ワーツ(Joep Weerts)氏が登壇し、“Switching on the Consumer”をテーマに、パネルセッションが行われた。
写真10 パネルディスカッションの登壇者
これらの詳しい内容については、『インプレスSmartGridニューズレター』2014年12月号(2014年11月30日発売)に掲載予定である。
ぜひ本誌をご覧いただきたい。
『インプレスSmartGridニューズレター』のご購読はこちらから