[連載]

欧州の風力発電最前線

─第2回 電力システム(系統)と風力をどう共存させるか─
2014/12/01
(月)

導入推進に重要なグリッドコード

〔1〕グリッドコードとは

 ここまで説明したように、風力発電は、その運用のポリシーによって、電力系統への影響を緩和したり、逆に電力系統の安定運用へ貢献する制御の実施も可能である。

 このような観点から、風力発電の導入を推進していくうえで重要なことは、「風力発電にどこまでの系統貢献を求めるか」というルールを、どのように決定するかということである。このルールは“系統連系要件”あるいは“グリッドコード”(Grid Code、系統運用規則)として規定されている(図2)。

図2 重要となる電力系統と風力発電のグリッドコード

図2 重要となる電力系統と風力発電のグリッドコード

 つまり、技術面の動向を踏まえながら、電力系統で求められるべき電力品質を見定めて、系統連系する風車に求められる仕様を明確化し、その遵守を求めるわけである。

 風力発電の進展や技術発展の状況によって、適切な“仕様”は異なると考えられるため、風力発電の導入が進展している欧州各国においても、グリッドコードの内容は、風力発電や電力系統の状況に応じて柔軟に変化していくと考えられる。

 例えば、電力系統において事故が発生し、その直後に当該の事故箇所が切り離される場合、事故地点周辺の広い範囲で瞬時的な電圧低下が生じる。風車の接続箇所において電圧が低下すると、過大な電流が流れるため、風力発電設備が損傷する可能性がある。このため、風力発電設備の所有者としては、電圧低下時には設備保護のため、できるだけ運転を停止したい事情がある。

 しかし、このような一過性の電圧低下に対しては、系統運用の視点からは風車は停止せずに運転継続する(Fault Ride Through: FRT)ことが望ましい。なぜなら、このような事故にひきずられて風車が一斉に停止すると、供給力の低下により需給バランスが大きく崩れるためである(その結果、周波数変動が問題になることは第1回で解説した通りである)。

〔2〕FRT(Fault Ride Through)要件

 この両者のバランスをとるために、電圧低下幅や持続時間の観点から、各風力発電機が運転継続すべき瞬時電圧低下が、FRT要件(事故時に運転を継続するための要件)として規定されている。ドイツにおける事例を、図3に示す。

図3 FRT要件の一例(Marcelo Gustavo Molina, et al., Technical and Regulatory Exigencies for Grid Connection of Wind Generation, Wind Farm - Technical Regulations, Potential Estimation and Stiting Assessment, chap.1, 2011)

図3 FRT要件の一例(Marcelo Gustavo Molina, et al., Technical and Regulatory Exigencies for Grid Connection of Wind Generation, Wind Farm - Technical Regulations, Potential Estimation and Stiting Assessment, chap.1, 2011)

 ここでは、図3中の太青線よりも上側の条件にあてはまる瞬時電圧低下に対しては、風力発電所は運転継続することが求められる。

 具体的には、電圧低下幅が大きいほど風車にかかる負担は大きくなるため、短い持続時間で運転停止することが許容されている。一方で、小さい電圧低下幅に対しては過電流も小さいと考えられるため、より長く運転継続できることが求められている。このような要件は、風力発電の導入容量に応じて一斉解列注3がもたらすインパクトが変わってくるため、これに応じて更新される必要がある。

 なお、要件が更新される際には、更新以前から導入されている設備への適用可否も問題となり、例えばドイツでは適用以前の設備には遡及しない予定であるのに対し、スペインでは遡り適用している。

 この“風力発電と電力系統の対話”のような作業を、根気強く進めていくことが、風力発電の導入を推進するうえでは重要である。


▼ 注3
一斉解列:電力系統で故障が発生すると瞬時的に電圧が低下するため、ある地域内の風力発電機群が、自らの設備保護のために一斉に運転を停止して電力系統から切り離される(解列する)こと。

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