[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪前編≫

― 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る―
2015/01/29
(木)

全体の社会コストをミニマムにする「全体最適化」が重要

Takao Tsuji

─舟橋:私も同感です。冒頭で電力コストがますます重視されると申しましたけれども、この場合の電力コストとは、全体の社会コストのようなものであって、個々の、例えばある事業者が得するか、損するかという仕組みではもうだめだと思っています。全体の社会コストをミニマムにする最適化で、いろいろな対策を講じていくべきだと思います。

:それは先ほどの議論の通り、再エネが自らの影響を補償するための連系コストもそうですし、アンシラリーサービス注5の分担方法にもつながりますよね。

─舟橋:そうですね。そのほかに、今までは電力会社が一手に担っていた電源計画や送電線計画などの全体のコストを最適化するという観点から、長期的な視点をもつべきだということです。しかし、最適化の手法はなかなか難しいところがあります。

 そこでインテリジェントな手法が、脚光を浴びているのではないかと思いますが。

安田:そうですね。それが本当の意味でのスマートグリッドということでしょうね。日本のスマートグリッドは小さくまとまりすぎています。

:私もそう思います。

〔1〕インテリジェントな手法が必要

─舟橋:インテリジェントとは“知的な”ということで、スマートと同じように、“賢い解き方”のことです。単純な手法ではなくて、メタヒューリスティクス注6のような手法があって、一時期、電力系統にそのような考え方を応用するという動きが強かった時期もありました。

 私の感触では、最近下火になってきましたが、現在のように複雑な時代になってくると、そのような手法が必要になってくるのではないかと思います。

:全体最適のために、インテリジェントな最適化手法は確かに重要です。最近では、どちらかというとリアリスティック(現実的)な考え方が主流で、複雑化に対応するためには、分散的に対処する発想が強いように感じます。

 具体的には、インテリジェントな方法では、ある程度広い範囲の情報を集める必要があるのに対して、個々の装置が監視できる近隣の情報に基づいた動作を積み上げていくイメージですね。

 しかし、スマートメーターの普及に見られるように、徐々に広い情報を収集する素地が強くなってきているような印象はあります。ですから、それを活かさないという手はないのかなと思います。

〔2〕ローカルミニマムと全体最適

安田:日本人は、モノづくりが得意ですから要素技術を積み上げるのが好きなのです。ですから、システムを分散化したときに、個々の分野でこういうことができる、あれもできる、ということがたくさんあるのですが、それを積み上げてもローカルミニマムにしかならない可能性が高いのです。

 しかし、舟橋先生のおっしゃる全体最適というのは、結局「仕組みづくり」なので、日本人はこの領域は苦手なのだと思います。ですからせっかくいいモノづくりができても、仕組みづくりができず、結局、諸外国に規格や市場をもっていかれたりしています。

 したがって、スマート化して、やはり賢くならないといけないと思います。


▼ 注5
アンシラリーサービス:送電網を通して需要家に供給する電気の品質を維持するために実施されるサービス。具体例としては、無効電力補償、周波数制御、予備力供給、電圧制御、ブラックスタート(停電状態からの立ち上げ)などが挙げられる。

▼ 注6
メタヒューリスティクス:Metaheuristics。逆問題や最適化問題などで解析的に解を求めようとした場合、局所最適値(ローカルミニマム)という誤った解に収束してしまう場合がある。それを回避するために開発された計算機アルゴリズムが、「ヒューリスティクス」手法であり、必ずしも厳密な最適解が得られるわけではないが、多くの場合、ローカルミニマムを回避してある程度のレベルの近似解を得ることができる。「メタヒューリスティクス」とは、特定の計算問題に依存しない汎用性のあるヒューリスティクス手法であり、例として、遺伝的アルゴリズム、シミュレーティド・アニーリング(焼きなまし法)、進化戦略などがある。

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