[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪前編≫

― 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る―
2015/01/29
(木)

再エネ導入の課題と日本と欧米との違い

〔1〕なぜ、日本の電力供給の信頼度は高いのか?

─舟橋:次に、再エネを導入したグリッド(電力網)における課題について、日本と欧米との違いをお聞きしたいのですが。

 まず、フランス帰りの辻先生、いかがですか。

:欧米と日本の違い、特に風力を中心に言いますと、もう圧倒的に進展の度合いが違います。

 私の思うことを1つだけお話しますと、そもそもの電力システムの特徴として、「供給の信頼度が違う」ということがあります。

─舟橋:電力供給の信頼度は、欧米に比べて日本のほうが高いという意味ですか。

:はい。日本のほうが信頼度は高く停電の頻度が少ない。場所にもよりますが、海外のほうが一般的には停電が多いといわれています。その大きな原因の1つは、家庭や企業に近い、末端の配電システムの管理をどのようにしているかという、配電システムの自動化の影響が大きいと思います。

─舟橋:その通りだと思います。欧州は自動化されていない。

:ですから、いったん末端のほうで停電が起こると、主にマンパワーで復旧することになるため、長い時間がかかるのです。これに対して日本の場合には、時限式の事故捜査方式がしっかりしているので、復旧は早いのです。

─舟橋:辻先生は、フランスでも実際に停電などを経験されましたか。

:そうですね。滞在期間中に、4時間くらいの停電が深夜に起こったりしました。また、生活の実感として、交通なども含めた社会インフラ全体の信頼度が低いような印象ももちました。

─舟橋:特に配電のところですね。

:電力に関してはそうだと思います。ただ、気をつけないといけないのは、基幹となる電力系統の信頼度とは、区別する必要があることです。再エネである風力が系統に入ってきた際に、その影響でもう少し電力の信頼度が低くなるのではないか、という懸念についてよく言われていました。

 しかし、実際のデータを見ると、必ずしもそうではなくて、風力がたくさん導入されてきても停電が増えているという、確たるデータはあるわけではないのです。

〔2〕停電はローカルな電力網管理の問題

─舟橋:それは配電が自動化されていないことが、電力システムの妨げにはなっていないということでしょうか?

:配電システムと、風力が導入されてきたから停電することとは、本質的に別の話だと思います。どちらかというと、配電システムについては、局所的な電力網管理の問題です。風力が導入されて危ないと言われるのは、もう少し広域的な全体管理の問題だと思います。

 例えば、風力発電の出力変動に対応して需要と供給のバランスを維持する問題、これは典型的な電力系統全体での問題です。

 ただ、そうは言うものの、もともとフランスの人々の意識として、停電がある程度起こると思われている地域の場合は、そのリスクに対する考え方がある程度寛容な印象はありました。

─舟橋:そういう雰囲気でしたか。

:はい。停電が起こりやすいので、設備ごとに自衛のバッテリーをもっていたり、個別の対策がある程度はできていたりするので、社会的に見たときの停電のダメージは小さくなるわけです。そのようなことを考えてみると、ある程度リスクを受け入れやすい環境がフランスのほうにはあるのかなと思いました。

 日本と欧州の風力の導入の進み具合の差は、その点も念頭に置く必要がある気がしますね。

Yoh Yasuda

〔3〕停電に関する意識の相違

─舟橋:今のお話は、日本の場合は、「停電は絶対に困る」という意識があって、それが風力など再エネの導入の妨げになっているのではないかということでしょうか。辻:妨げというよりも、むしろ風力を導入するに当たって、慎重過ぎるというような印象でしょうか。ですから、日本と欧州それぞれに、良い面と悪い面の両方があり比較は難しいのですが、このような意識の違いが、まず土台としてあると思います。

─舟橋:フランスで生活された実感ですね。私もイタリアに出張した際に停電が起きました。しかし、周りはそんなに困った様子ではなくて、バルでコーヒーを飲んだりして、のんびり過ごしていましたので、同じような感想をもちました。

 安田先生は、いかがでしょうか。

安田:おっしゃるとおりだと思いますね。実際、辻先生のお話の停電に対する心構えやリスクに対する考え方は、結局、社会コストに直結するのです。つまり、「停電が起きたときに大変なことにならないように」というのが最終目的なのに、日本では「停電が起きないように」というようにすり替わっているのです。

 ですから、「停電を起こさないようにするために過剰に電力系統の設備投資をする場合」と、「停電が起きてもある程度自分自身でバッテリーを置くなどの備えをしておく場合」と、どちらの社会コストが大きいのか。これは本来でしたら、日本全体で実現可能性研究(フィージビリティスタディ)をしないといけない課題だと思います。

〔4〕停電が多いのは配電部門

─舟橋:そうですね。それこそ全体の社会コストの問題なのです。

安田:日本は、停電の原因について何が最大の要因で起きるのか、ということがよくわからないまま投資を重ねている可能性が高いと思われます。

 系統計画の担当者は自分達の供給信頼度の高さによって停電率が低いのだと言っています。また、運用担当者は、自分達がきちんと運用しているから停電率が低いのだと言い、さらに保守担当者も保守技術や人材教育も含めてすばらしいと言う。どちらも頑張っているのですが、どの部分が最もコスト効率よく停電率低減に貢献しているかが実はよくわかっていないのです。

 実際のところ、停電の多さでどこが一番きいているかといえば、配電部門なのです。しかし、一般の人にはそれがよく見えていないので、停電は怖い。だから、停電は絶対にいけないというような風潮となっています。

 風力や太陽光などは、技術的には停電とそれほど関係が深いわけではないのに、不確実性をもつ再エネが系統に導入されると停電になるからいけないと言って、神話が二重三重の伝言ゲーム的につながっているのです。

電力システムの信頼度:日本が誇るべき配電の自動化

─舟橋:電力システムの信頼度という点でいうと、本当に停電が起きたら困るところは、それなりの対策をするということですよね。 

安田:そうですね。

─舟橋:全体で見れば、たとえたまに停電が起きたとしても、社会的に大事な部分だけ守れていれば、また復旧が早ければいいのではないかということですね。

安田:はい。

─舟橋:先ほどの配電の自動化というシステムは、日本の誇るべき技術で、私が企業に所属していたときも、海外からよく視察に来られました。

 実際、配電自動化技術に関しては、日本は技術力が高く、誇るべき技術だと思うのです。今後も、その辺の技術力を高めてほしいと思っています。

〔1〕配電における停電と、大停電に対するリスクは分けるべき

:配電システムは停電の大きな要因の1つだと思いますが、一方で、大停電というリスクとは区別して考えるべきものと思います。

─舟橋:そうですね。

:大停電のリスクという意味では、風力の大量導入がある程度関連してくるかもしれないと思います。ただし、それはまだ普及が拡大し始めてから今までの歴史の中で、そういうことが顕在化していない、すごくまれ(稀頻度)な話になるのです。しかし、リスクは、目に見えないだけで、高まっているのかもしれないのです。

〔2〕風力発電の大量導入と安定度の改善

─舟橋:全体の電力システムの系統面からの欧米との違いを見たときに、クリティカル(致命的)になってくる問題は、辻先生の連載の最初のほうで説明されていましたが注7、日本の場合、専門用語で「過渡安定度」あるいは「電圧安定度」などと言われますが、この「安定度がクリティカルな問題だ」という点が日本の特徴ではないかと思います。 

:そうですね、従来から「安定度」とよく言われています。

 安定度は、一般に電力需要が大きいほど悪くなります。風力や太陽光の導入拡大が進むと、電力需要と再エネが混在した地域の見かけの需要は、再エネ出力の分だけ小さく見えますので、安定度は改善されていくという研究をよく見かけます。

─舟橋:風力発電の大量導入によって安定度が改善された、ということですか?

:はい。そのようなケースもあります。ただ、想定次第で変わってしまうことが多いのですが……。

─舟橋:想定というのはどのような意味ですか。

:想定とは、1つには、地域ごとに天候状況がどのくらい変わるかということです。例えば太陽光の場合ですと、ある一定の地域だけ雨で、他は晴れているというような状況のことです。

─舟橋:極端にあるところだけに偏って晴れているというのではなく、全体としてならしてみると晴れているようであれば、よい方向に向かうということでしょうか。

:はい。ならされているとよい方向となり、偏りがあると少し同期外れを起こしやすくなるという研究も見られます。また、他にも重要な点として、電力系統側の運用、特に見かけの電力需要が小さくなったことに対応して発電機をどの程度停止させるか、ということが関係してきます。

 発電機を多く止めるほど、一般には安定度が低下するといわれています。さらに、地域間の連系線も活用して、「広域の運用を行うか、行わないか」もまた、大事な要因になってくるのです。


▼ 注7
『インプレスSmartGridニューズレター』2014年11月号を参照のこと。

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