3.11の東日本大震災が与えたインパクト
江崎:村上さんは、これまで霞が関でのお仕事が、ほぼITかエネルギー環境のいずれかだったという、まさに日本のスマートグリッドのためにいらっしゃるのではないかとも言われる課長です。
3.11の東日本大震災における福島第一原子力発電所の事故は、日本のエネルギー政策に大きな影響を与え、原子力発電をめぐって再稼働か脱原発かの論議が活発化しています。私は、当面は原発を稼働させながらも最終的になくすにしても、一気に原発をなくすというのは非現実的なので、きちんとしたリスク管理を負う形で稼働させるのが現実的だと思っています。
このあたりは多分、村上さんは立場上お話ししにくいと思いますが、いかがでしょうか。
村上:そうですね。様々な局面の問題が絡んでいるので、なかなか一概には断言できません。ただし自分から最低限、皆さんにお願いをしたいのは、当面、原発の再稼働をどうするかという問題と、最終的に原子力をどうするかという問題は、別の問題としてきちんと議論してほしいと思います。
江崎:3.11はエネルギー問題に関してネガティブな面ばかりが強調されていますが、冷静に、かつ長期的な視点で考えると、ポジティブな変革を実現する機会を与えていただいたと捉えることもできるように思えます。
村上:3.11という大変深刻な経験を経て、今、我々は、国民一人一人がエネルギー問題を自分の事として考えるきっかけをもちました。車に乗ってガソリンスタンドに行けば必ずガソリンがあって、家庭でスイッチを押せば必ず電気がつく。あとは自分が料金を払うか払わないかだけだというのは、ある種とても幸せな状況だったということを、いろいろな方が改めて感じているのではないでしょうか。
日本の電力・エネルギーの自給率はわずか4%
江崎:ところで、このような事態を迎えて、現在、日本のエネルギーの自給率はどの程度なのでしょうか。
村上:国際的によく取り上げられる原子力も準国産エネルギーと見なすという考え方で、主要各国のエネルギー自給率を比較すると、図1に示すように、日本のエネルギー自給率は、原子力が稼働しているうちは、まだかろうじて20%程度ありましたが、今は、名実ともに4〜5%まで落ちてしまっています。これは、主要先進国注1や中国、インド、韓国といった国々と比べてもなお、異常に低い数字です。これは、大変危険な状態です。
図1 エネルギー自給率の国際比較
〔出所 IEA、「Energy Balance of OECD, Non-OECD Countries 2011」〕
江崎:エネルギー自給率は、まさに深刻な事態を迎えていますね。
村上:3.11という経験を経て、こうした事態について、国民一人一人が非常に実感をもつような時代になった。エネルギーの「自分事化」が進んだという意味で、3.11以降、エネルギー政策を巡る状況は大きく変わったのではないかと思っています。
江崎:確かに、日本のエネルギー自給率を高めていくことを最重要課題として、強力に取り組まなくてはならないことだと思います。そのためには、ビジネスベースに乗るような、本当に真面目な研究開発や製品開発を、産業界が責任をもって取り組んでいく必要があるように思います。
ただそこには、景気を向上させる政策の一環として、太陽光発電(PV)などの再生可能エネルギーに関しては図2のような曲線で導入量が推移していますが、実際には国家的な投資に期待するというような、受け身の雰囲気が強い面があるように感じます。
図2 余剰買取制度の導入と太陽光発電の導入量の推移
〔出所 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの固定価格買取制度について」、2012(平成24)年10月〕
▼ 注1
ロシア、カナダ、英国、米国、ドイツ、イタリア、フランス等