IP/MPLSのソリューションでミッションクリティカルなネットワークをサポート
─編集部:電力事業者向けの通信ネットワークとはどのようなものでしょうか。
ブッカ:グリッドの運用・管理に必要なのはミッションクリティカルなネットワークです。ミッションクリティカルとは、各企業の基幹業務を遂行するうえで、「決して故障してはいけない」「常に稼働していなければならない」ということで、つまりどんなに短時間であれ、ダウンしてしまうとビジネスオペレーション全体に大きな損害が生じ得る、そのようなネットワークです。電力網を運用・管理し、安全で信頼性の高い電力を供給するにあたり、このネットワークの存在は不可欠です。
─編集部:スマートグリッドの導入により、電力事業者の通信ネットワークはどのように変わる必要があるのでしょうか。
ブッカ:これまで電力業界では、アプリケーションごとに、別々の独立したネットワークを構築してきました。例えば変電所をコントロールするためのもの、メーター向けのネットワーク、そしてセキュリティカメラ用にまた別のネットワークというように、縦割りでネットワークをつくっていたのです。しかし、スマートグリッドの時代が到来し、どんどんアプリケーションが追加され、しかもネットワーク上に存在するすべての機器同士が通信しなくてならない中で、このようなサイロ型のネットワークでは対応が厳しくなってきつつあるわけです。
このような背景から、我々は、すべてのアプリケーションをサポートする統合型のネットワークを提供してきました(図1)。
図1 スマートグリッドの概要とアルカテル・ルーセントのソリューション
〔出所 アルカテル・ルーセント資料より〕
このようにミッションクリティカルで統合型のネットワークを構築する際に最も基本となる技術はIP/MPLS注1です。この技術によって、先ほど申し上げた「セキュリティ」「リライアビリティ」そして「スケーラビリティ」が担保され、さらに運用や保守における効率も向上するのです。
「セキュリティ」「リライアビリティ」「スケーラビリティ」を実現するIP/MPLS技術
─編集部:そのようにミッションクリティカルな統合型のネットワークを実現する際に、なぜIP/MPLSなのでしょうか。
ブッカ:このIP/MPLS技術は、いわゆる広域網、ワイドエリアネットワークの中で動く技術です。ほとんどの電力事業者のネットワークでは、現在インターネットプロトコル(IP)化が進んでいます。その一方で、レガシー系のインタフェースを使用した、IPに対応していない古い機器もまだ多く残っています。そこで、新しい1つのネットワークでは、新しい機器だけではなく既存の古い機器もサポートできることが必要になります。IP/MPLSの技術を使うと、ネットワーク上のエッジルータに、既存のSCADA(スキャダ。管理制御システム)を直接収容することができます。そしてパケットには送信元と宛先が書き込まれており、パケットの行先がわかるようになりますので、エンド・ツー・エンドのパケット交換ネットワークを構築することができるのです(図2)。
図2 スマートグリッドにおけるエンドツーエンドのIP/MPLSソリューション
〔出所 アルカテル・ルーセント資料より〕
またIP/MPLS技術を使うことで、光回線もマイクロ回線も管理することができます。
さらにこれは電力業界では死活的なことですが、テレプロテクション(電力系統保護)などのトラフィックは、何があっても遅延なく届けられなければなりません。IP/MPLSのネットワークでは、このように最重要なアプリケーションを優先することが可能です(図3)。
図3 次世代の電力網のための統合型通信ネットワーク
〔出所 アルカテル・ルーセント資料より〕
─編集部:このIP/MPLS技術により、他にはどんなことができるのですか。
ブッカ:例えば、ネットワーク上で何か故障が起きた際には、急いでサービスを復旧する必要がありますが、IP/MPLS技術によって障害を即座に検知し、50ミリ秒以内にトラフィックを別の経路に切り替えることができます。
またネットワークでは、予測可能性というものも必要です。機器が壊れたとき、トラフィックがどこへ向かおうとしていたのかを知っていたほうが良いのです。IP/MPLS技術を使ったネットワークでは、あらかじめ、故障時のバックアップ経路(迂回路)を決めておくことができます。
─編集部:セキュリティについてはどうですか?
ブッカ:IP/MPLS技術では、トラフィックはラベルによってカプセル化されるため、暗号化してパケットを送ることができます。たとえレガシー系の古い機器で、暗号プロトコルをサポートしていない機器があったとしても、安全に通信できるのです。
電力ネットワークの機器には、暗号化の機能が備わっていないことが多々あるのですが、それらの機器をまずルータに収容し、トラフィックをラベルで暗号化してくれます。このラベル技術(IP/MPLS)はすでに成熟したもので、15年以上も前から通信事業者の間で使われています。そしてスケールメリットがあるため、これからも長く使われ続けると思います。
▼ 注1
MPLS:Muliti-protocol Label Switch、マルチプロトコルラベルスイッチング技術。複数のプロトコル(Muliti-protocol)に対応できるように、さなざまな異なるパケット(例:IPパケット、非IPパケット)の先頭に短い固定情報(ラベル:32ビット。Ethernetの場合)を付加して、パケットを高速に送受信する技術。パケットの先頭にラベルを付けてカプセル化するため、複数のプロトコルを同一のプロトコルであるかのように扱うことが可能となり、安全に送受信できるようになる。