エンド・ツー・エンドソリューションとグリッドデータ解析システム
─編集部:スマートハウス(ホーム側)に関しての取り組みはありますか。
ブッカ:アルカテル・ルーセントが構築するネットワークでは、スマートメーターまでをカバーしています。我々はスマートメーターの製造は行っていませんが、スマートメーターの多くが採用している技術の開発に関わり、そのスマートメーターをネットワークにつなぎ込んでいます。
「ラスト1マイル」(アクセス網)とよく言われますが、国によって使われる技術が異なります。例えば、欧州ではPLC(電力線通信)が主流ですが、PLC装置からデータ収集装置であるコレクター(コンセントレータとも言われる)に情報を集めて課金データを貯め、電力事業者などの運用管理センターへ送ります。我々はこのコレクターからセンターへのネットワーク技術も提供しています。
このようにPLC装置などの製造メーカーと協業してエンド・ツー・エンドのネットワークソリューションを提供しています。このソリューションによって、ネットワーク上のすべてのトラフィックの整合性が取れるようにしているのです。
─編集部:ところでベル研では、スマートグリッドに関する研究開発はどのようなことを行っていますか。
ブッカ:ベル研においても、この分野の研究開発に積極的に取り組んでいます。主に次の4分野に注力しています。
- 新しいセキュリティや通信プロトコルの開発
- EV(電気自動車)に対応した新しいプロトコルの開発
- 電力事業者が既存ネットワークからスマートグリッド対応のネットワークへの移行を図る際のコンサルティングサービス
- スマートグリッドのデータ分析
─編集部:スマートグリッドのデータ分析については、日本でも注目されていますが、この点について少しお話いただけますか?
ブッカ:最近、注目を集め活発に利用されているビッグデータの解析、あるいはスマートグリッドデータの分析は、今後のネットワークを考えるうえで必要不可欠な分野だと思っています。
ベル研のデータ解析システム(図4)を使ったあるプロジェクトの例をお話しましょう。
図4 ベル研の電力網(グリッド)データ解析システム
〔出所 アルカテル・ルーセント資料より〕
ある電力会社は、17万3,000件の顧客(家庭)のすべてのメーターデータを抽出し、SCADAのデータや地域内に設置された温度計のデータも収集しました。これらのデータをもとに、各家庭の1日の消費電力量を正確に予測し、また統計学的な処理を行い、使われた消費電力が「冷房によるもの」か「暖房によるものか」ということまで識別しました。これらのデータをもとに、デマンドレスポンス(電力の需要対応)に活用したのです。
─編集部:他の活用例はありますか。
ブッカ:ある配電会社での例です。電柱上に設置されているトランスフォーマー(変圧器。以下トランスという)の測定はなかなか難しいことから、メーターデータを活用して特定のスマートメーターにつながっているトランスを識別し、どれだけの電力が流れているかということを検知しました。トランスは高温になり過ぎると壊れてしまうので、(数学的なモデルを使って)トランスの発熱温度を割り出し、その情報をもとに近い将来壊れる可能性の高いトランスのリストを作成し、配電会社に渡したのです。すると実際に壊れたのは、確かにこのリストに載っていたトランスだったということです。
このように、データ解析の技術を使って、これまで考えもつかなかったことができるようになってきており、この分野は大きな可能性を秘めていると思っています。