[市場動向]

スマートグリッド分野への投資額に見るスマートハウスビジネス市場

2015/05/01
(金)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

スマートグリッド分野への投資状況

 欧米において、スマートハウス向けにプラットフォームを提供している事業者は、主導権争いを進め、サービス提供事業者は利用者のニーズを探りながら、利用者に受け入れられるようなサービスの開発に注力している状況と言える。このような中で、各事業者はベンチャーキャピタル(VC)注2からの投資を受け入れたり、有望なスタートアップ企業に対してM&A(買収)を行ったりしながら、スマートハウス市場が立ち上がりつつあるこの時期に機会をつかもうと、積極的な取り組みを行っている。

 ここでは、2007年から昨年2014年までのVCによる投資状況を投資額(棒グラフで表示)とディール数(投資案件数、折れ線グラフで表示)の2つの観点から整理している注3(図1)。

図1 スマートグリッド関連のVC投資の推移

図1 スマートグリッド関連のVC投資の推移

〔出所:Mercom Capital Group,“Smart Grid Funding and M&A”Reportなどを元に著者作成〕

〔1〕2010年がスマートグリッド関連の投資額が最大

 2014年がどのような年だったのかを見てみると、この年は投資額という点から見ると約3億8,300万ドル(約459億6,000万円)と2012年からは減少傾向にあるが、ディール数(投資案件数)という点から見ると73件と、過去最高の数となっている。これが意味するものは、これまでに比べて1件あたりの投資金額が小さくなっているということである。

 2015年の傾向をこれまでの推移で見てみると、スマートグリッド関連の投資額は2010年が最も多くなっている。この年は、前年の2009年に、米国でARRA(American Recovery and Reinvestment Act of 2009、アメリカ再生・再投資法)が成立し、この法律を受けた米国のDOE(Department of Energy、エネルギー省)は、SGIG(Smart Grid Investment Grants、スマートグリッド投資補助金)とSGDP(Smart Grid Demonstration Projects、スマートグリッド・デモンストレーションプロジェクト)という大きな2つの取り組みを始めている。

 これによってまず積極的に動き出したのが、スマートメーターの導入を含むAMI(Advanced Metering Infrastructure、高度メーター基盤)の整備である。そのような大きな変化の波を受け、2010年は民間によるスマートグリッド分野の投資も積極的に動き出したと考えられる。同年には、スマートグリッド分野での過去最高の1億6,500万ドルにもおよぶVCからのディールがあった。これはスマートメーター関連の機器やサービスを提供しているLandis+Gyr(ランディス・ギア)がDLJ Merchant Banking(DLJマーチャントバンキング)から調達したもの注4である。なお、その1年後に同社は東芝によって23億ドル(約2,760億円)で買収されることになる。

〔2〕投資の質が変化した2014年

 このように大規模な動きがあった2010年に比べると、2014年はそのような大規模な動きはない年であった。これはスマートグリッド分野への市場の期待が低くなったととらえるべきなのだろうか。実際はそうではない。むしろ投資額もディール数も多かった2010年と比べて投資の質が変わったと見るのが正しい。そのような状況をよく表しているのが図2である。

図2 スマートグリッド関連のVC投資の推移(投資分野別 単位:百万ドル)

図2 スマートグリッド関連のVC投資の推移(投資分野別 単位:百万ドル)

〔出所:Mercom Capital Group,“Smart Grid Funding and M&A”Reportなどを元に著者作成〕

 図2は、積み上げ式の棒グラフになっているが、そのうち下から3番目の項目(緑色の項目)に注目していただきたい。これはAMI関連の投資に当てられた金額を示している。

 具体的な金額で見てみると、AMI分野への投資が一番多かった2010年には年間で約1億8,200万ドル(約218億4,000万円)の投資があったが、その後も、2011年には約4,000万ドル(約48億円)、2012年には約6,300万ドル(約75億6,000万ドル)、2013年には約3200万ドル(約38億4,000万ドル)とAMI分野への投資が一定以上あったが、2014年はほとんど行われていないことがわかる。


▼ 注2
ベンチャーキャピタルとは、「高い成長性が見込まれる未上場企業に対し、成長のための資金をエクイティ(株式)投資の形で提供」(http://www.jafco.co.jp/inv_act/overview/about/)する投資会社のことを指す。

▼ 注3
ここでは、スマートグリッド関連の最新動向に関する調査で評判が高いMercom Capital Groupが発表しているレポートの内容なども参考にしている。

▼ 注4
Landis+Gyr Raises US$165 Million From DLJ Merchant Banking Partners and Global Shareholder Base(http://www.prnewswire.com/news-releases/landisgyr-raises-us165-million-from-dlj-merchant-banking-partners-and-global-shareholder-base-90082222.html)参照

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