世界のモノづくり(製造業)をリードしてきた日本でも、VEC(Virtual Engineering Community)とNTTコミュニケーションズが中心となって、次世代工場に向けた新戦略「Industry 4.1J 実証実験プロジェクト」をスタートさせた。この「Industry 4.1J」は、サイバー攻撃に強いセキュアな「プライベートクラウド」でシステムの構築を目指しているところから、Industrie 4.0(パブリッククラウドを使用)の進化版ともいわれている。そこで本誌では、前後編でこれらの最新動向を解説する。
前編では、国際競争力が低下し始めた欧州と日本の製造業の動向を見ながら、Industrie 4.0の歴史的経緯を整理し、シーメンスの工場に見るIndustrie 4.0(CPS)の事例を紹介する。その後、Industry 4.1J 実証実験プロジェクトの基本的な概要について解説する。
なお、本記事は、VEC 事務局長 村上 正志(むらかみ まさし)氏、NTTコミュニケーションズ株式会社 技術開発部 担当課長 境野 哲(さかいの あきら)氏、および同社技術開発部 堀越崇(ほりこし たかし)氏への取材をもとにレポートする。
国際競争力が低下し始めた欧州と日本の製造業
日本と欧州の製造業は、図1に示すように、1990年代後半から韓国、中国、台湾、インドなどのアジア勢の急速な台頭によって、国際的な競争力が相対的に低下してきている。このため、急速に普及してきた、モノやサービスをつなげるインターネット「IoT」(Internet of Things)/「IoS」(Internet of Services)を、どう活用し製造業にイノベーションを起こしていくかが、今後の日欧の命運を分ける時代に突入してきている。
図1 産業競争力の国際比較:日本・欧州の競争力の低下とアジア勢の台頭
〔出所 経済産業省 2014年版ものづくり白書、http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2014/pdf/gaiyou.pdf〕
このような凋落傾向のなかで、図2に示す調査結果を見ると、近年のIoT(IT)への投資の目的は、「業務コストの削減」や「プロセスの効率化」が重視されるようになり、IoTを次世代のビジネスとして積極的に利用し「付加価値の高い製品をつくり活用する意識」が相対的に低下している傾向にある。
図2 IoT(IT)投資の目的
〔出所 経済産業省 2014年版ものづくり白書、http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2014/pdf/gaiyou.pdf〕
このような課題を解決するには、IoTを活用して、製品の開発・製造から販売・サービスに至るまでのバリューチェーンのイノベーションを実現するインフラの整備が急務となってきている。
日本と同様に中小企業が多い製造業分野で、国際競争力が長期低落傾向となっている欧州(特にドイツ)では、国際競争力の強化を目指して、国を挙げて第4次産業革命として位置づけた「Industrie 4.0」プロジェクトをダイナミックに推進している。例えば、2015年4月13〜17日に開催され、Industrie 4.0が中心テーマとなったドイツ・ハノーバー国際見本市(HANNOVER MESSE 2015)には、来場者は22万人を超え、そのうちドイツ国外から史上最多となる7万人が来場した。さらに、同見本市の戦略的なパートナーカントリーとしてインドを迎え、400社を超えるインド企業が出展し、製品やサービスなどが展示され、世界最大級の巨大市場をもつインドとの協力関係をアピールした。