[特集]

日本版次世代工場「Industry 4.1J」の実証実験開始へ ≪前編≫

― 2016年3月に向けてセキュアなプライベートクラウドで構築 ―
2015/07/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

Industrie 4.0のコンセプトと歴史的経緯

表2 ドイツ政府が推進する「Industrie 4.0」のコンセプト

表2 ドイツ政府が推進する「Industrie 4.0」のコンセプト

〔出所 内閣府配布資料・基-1「新ハイテク戦略 Innovations for Germany」、2015年1月29日をもとに編集部作成、 http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20150129/siryo1.pdf http://www.jsme.or.jp/msd/html/92/msd_seminar_140724_speaker02.pdf

〔1〕Industrie 4.0とそのコンセプト

 ここで、Industry 4.1Jの説明に入る前に、Industrie 4.0について簡単に整理しておこう。

 先に述べたように、Industrie 4.0とは、ドイツ政府が2020年に向けて策定した「ハイテク戦略2020行動計画」(2012年3月)注6に基づく、国家戦略プロジェクトのひとつ(表2)であり、後述する「CPSプラットフォーム」(後述)をベースにネットワーク化された「考える工場」(スマートファクトリー)などを実現するプロジェクトである。これによって、製造業における生産のあり方を大きくパラダイムシフトさせ、第4次産業革命(Industrie 4.0)を達成する。

 すなわち、Industrie 4.0は、

(1)第1次産業革命(蒸気機関を活用する生産システム:1784年〜)

(2)第2次産業革命(電力活用を活用する大量生産システム:1870年〜)

(3)第3次産業革命(エレクトロニクスとITを活用する自動化生産システム:1969年〜)に次ぐ、

(4) 第4次産業革命(CPSを活用する新生産システム:2011年〜)

として位置づけられており、CPSをベースに製造業の変革を実現し、第3次産業革命を上回る、生産の効率化と高度化を製造業にもたらそうとしているのである。

 表3に、これまでのIndustrie 4.0の歴史的経緯と、関連する主な動きを示す。

表3 Industrie 4.0の歴史的経緯とそれに関連する主な動き

表3 Industrie 4.0の歴史的経緯とそれに関連する主な動き

〔出所 内閣府配布資料・基-1「新ハイテク戦略 Innovations for Germany」、2015年1月29日をもとに 編集部作成、 http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20150129/siryo1.pdf http://www.jsme.or.jp/msd/html/92/msd_seminar_140724_speaker02.pdf

〔2〕Industrie 4.0を実現するCPSプラットフォーム

 前述したように、この第4次産業革命「Industrie 4.0」を実現する核となるのが、CPS(Cyber Physical System、サイバーフィジカルシステム)による新しい生産システムである。

 具体的には、インターネット上〔サイバー(Cyber)空間:クラウド〕のコンピューティング能力(IoT)と、センサーネットワークのようなリアルな通信技術〔フィジカル(Physical)、例:M2Mネットワーク〕とを連携させた新生産システムである。このためCPSとは、現在、急速に普及し始めた、まさに「M2M/IoT」を適用した生産システムとも言われている。

 このCPSは、IT利用形態の進化・発展と社会への適用レベルの視点から見ると、パソコンなどを独立して使用するスタンドアロン型(①)からネットワーク化(②)へ、さらにクラウド化(③)へと進展し、今後は、CPS(Cyber Physical System、一部AIを取り込む:④)の段階に至り、このCPSプラットフォーム上でIndustrie 4.0を実現する。今後は、さらに進化するAI(Artificial Intelligence、人工知能:⑤)を全面的に取り込みながら発展していくものと見られている。

〔3〕「Industrie 4.0」の実現に関する勧告

 「Industrie 4.0」については、具体的には、すでにドイツ科学技術アカデミー(acatech注7)とドイツの産官学の有識者で構成されるIndustrie 4.0ワーキンググループ(2012年1月に発足)によって、『戦略的政策「Industrie 4.0」の実現に関する勧告(Industrie 4.0ワーキンググループの最終報告)』(2013年4月注8)が策定されている。

 同勧告では、図5に示すように、CPSプラットフォームを中核にして、

(1)IoP:Internet of People、人々を結ぶインターネット

(2)IoT:Internet of Things、モノを結ぶインターネット

(3)IoS:Internet of Services、サービスを結ぶインターネット

の3つを統合して実現する、Industrie 4.0の幅広いコンセプトが打ち出されている。

図5 CPSプラットフォームを中核として実現するIndustrie 4.0

図5 CPSプラットフォームを中核として実現するIndustrie 4.0

〔出所 Communication Promoters Group of the Industry-Science Research Alliance , acatech , Figure 4, “Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0 Final report of the Industrie 4.0 Working Group“, Apr. 2013〕

 現在、一般にIoT(モノのインターネット)として、センサーなどを内蔵した電力、家電、医療、空調、工場生産設備など各種機器を相互接続して実現する、スマートグリッドやスマートファクトリー、スマートビルディング、スマートホーム(スマートハウス)などが前面に打ち出されている。

 しかし、CPSプラットフォームでは、このようなモノ(IoT)だけではなく、スマートフォンやタブレットを駆使する人間同士のコミュニケーション活動(IoP)や、FacebookやTwitter、Google+などのソーシャルWebやビジネスWebを含む各種サービス(IoS)との連携、すなわち「人とモノとサービスを結ぶインターネット」(Internet of People、Things、Services)をトータルに連携するシステムになっている点が注目される。

〔4〕「Industrie 4.0プラットフォーム」の設立

 『戦略的政策「Industrie 4.0」の実現に関する勧告』の発表と同時に、Industrie 4.0を推進する組織として「Industrie 4.0プラットフォーム」という産官学の戦略策定委員会が設立された(2013年4月、本部:フランクフルト)。その事務局にはドイツで影響力の強い産業系のBITOKOM(ビットコム)、VDMA、ZVEIの3団体が務めている(表4)。

表4 「Industrie 4.0プラットフォーム」の事務局を構成する3団体

表4 「Industrie 4.0プラットフォーム」の事務局を構成する3団体

〔出所 各種資料をもとに編集部作成〕


▼ 注6
High-Tech Strategy 2020 Action Plan、http://www.gtai.de/GTAI/Navigation/EN/Invest/Industries/Smarter-business/smart-solutions-changing-world,did=575914.html

▼ 注7
acatech:National Academy of Science and Engineering、ドイツ科学技術アカデミー。ドイツの科学技術界の利益を代表する独立した非営利団体として2008年に発足。大学や研究機関など専門家による技術的な評価や将来を見通した提案により、政策を立案する人々や社会を支援している。http://www.acatech.de/uk/home-uk/organisation/members.html

▼ 注8
Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0、http://www.acatech.de/fileadmin/user_upload/Baumstruktur_nach_Website/Acatech/root/de/Material_fuer_Sonderseiten/Industrie_4.0/Final_report__Industrie_4.0_accessible.pdf

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