[特集]

日本版次世代工場「Industry 4.1J」の実証実験開始へ ≪前編≫

― 2016年3月に向けてセキュアなプライベートクラウドで構築 ―
2015/07/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

日本の新戦略:「Industry 4.1J」実証実験プロジェクトの開始

〔1〕高いセキュリティ機能を備えた「Industry 4.1J」

 このようなドイツの意欲的な取り組みに対して、日本では、製造業やビル、エネルギーおよび電力業界を対象にしたソリューション普及活動を展開している任意団体‘Virtual Engineering Community’(略称:VEC)注1が、大手通信キャリアであるNTTコミュニケーションズと16社のVEC会員の協力を得て、製造現場とクラウド(プライベートクラウド)をつないで実現する高いセキュリティ機能を備えた「Industry 4.1J」注2実証実験プロジェクトを開始した(2015年3月10日注3)。現在、150社を超える会員が参加する同団体には、

(1)制御システムセキュリティ研究分科会

(2)製造業/BAクラウド研究分科会(BA:ビルオートメーション)

の2つの分科会が設置され活動している。このうち、製造業/BAクラウド研究分科会において、Industry 4.1Jなど、新しい製造分野のイノベーションが取り組まれている。

〔2〕「Industry 4.1J」は「Industrie 4.0」の日本版

 「Industry 4.1J」とは、現在、ドイツが中心となって推進している、第4次産業革命「Industrie 4.0」(後述)の日本版の名称である。「Industry 4.1J」という名称の「4.1」は、「Industrie 4.0」と比較して、サイバー攻撃にも耐えられるように、セキュリティレベルを1段階アップさせたネットワーク環境で構築されることを意味し、「J」(Japan)は「日本発」という意味をもたせている。

 VECと共同で「Industry 4.1J」の実証を行っているNTTコミュニケーションズは、国際的には世界130拠点以上でセキュアなプライベートクラウド事業(後述)を推進し、世界188カ国で利用可能なセキュアなIP-VPN通信事業を行うなど、豊富な実績とビジネスを展開している。

 NTTコミュニケーションズは、「M2M/IoTが今年(2015年)の重要なテーマである」(2015年4月7日、有馬 彰社長)とし、図3に示すNTTコミュニケーションズのM2M/IoTソリューションに向けた展開イメージを提示した。

図3 NTTコミュニケーションズのM2M/IoTソリューションの展開イメージ

図3 NTTコミュニケーションズのM2M/IoTソリューションの展開イメージ

〔出所 NTTコミュニケーションズの資料より〕

 具体的には、図3に示す、同社が世界各地のクラウドや130以上のコロケーション注4拠点で提供しているクラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」とIP-VPNサービス「Arcstar Universal One」(表1)を連結させた「クラウドプラットフォーム」(すなわちM2M/IoTソリューション)を提供し「Industry 4.1Jプロジェクト」の実証を、支援していくことを決定した。

表1 NTTコミュニケーションが提供するクラウドプラットフォーム

表1 NTTコミュニケーションが提供するクラウドプラットフォーム

〔出所 NTTコミュニケーションズの資料をもとに編集部作成〕

〔3〕セキュリティに強い国際標準通信プロトコル「OPC UA」を採用

 「Industry 4.1Jプロジェクト」は、製造業における生産現場のセキュア(安全)なクラウド上の監視/分析システムであり、これによって生産工程における異常な振る舞いを検出し、その原因解析や復旧・改善を遠隔からサポートし、現場の負担を軽減してシステムの安全を確保することを目的としている。

 すなわち、同プロジェクトは、ドイツ発「Industrie 4.0」の日本版であり、日本独特の事情を反映した機能やセキュリティ機能などの強化を目指したプロジェクトとなっている。

 特に、図4に示すように、セキュリティ品質に優れた最新の国際標準の通信プロトコル「OPC UA」(OPC Unified Architecture、IEC 62541)注5を用いた通信によって、生産現場である工場内の各機器の制御システムのデータを集約し、分析するシステムとなっている。現場をサポートする担当者は、その解析されたデータを見て、生産現場に異常の通知や復旧支援などのメッセージを送信(フィードバック)する。

図4 VEC実証実験「Industry 4.1Jプロジェクト」のイメージ

図4 VEC実証実験「Industry 4.1Jプロジェクト」のイメージ

〔出所 NTTコミュニケーションズの資料より〕


▼ 注1
https://www.vec-community.com/

▼ 注2
Industrie 4.0:ドイツが中心となって推進しているため「Industrie 4.0」とドイツ語で表現(Industrie)しているが、日本版の「Industry 4.1Jプロジェクト」では英文表記(Industry)になっていることに注意。以降、このように使い分けて表現している。

▼ 注3
「VECとNTTコミュニケーションズ、 製造現場とクラウドをつなげた高セキュリティな「Industry 4.1J」実証実験プロジェクトを開始」、2015年3月9日
http://www.ntt.com/release/monthNEWS/detail/20150309.html

▼ 注4
コロケーション(Colocation):同じ場所に設置すること。コロケーションサービスとは、バックボーンネットワーク(基幹回線網)をもつ通信事業者が、他の通信事業者や顧客の通信機器やサーバなどの設備を自局内に設置すること。

▼ 注5
OPC UA(Unified Architecture):OPCとはOLE
for Process Controlの略で(OLEは後述)、1996年に発表されたWidows環境に限定されたプロセス制御の標準規格で、単に「OPC」という固有名詞として使用されている。産業用オートメーション分野やその他業界における、安全で信頼性あるデータ交換を目的とした相互運用を行う。現在、OPC Classicとして普及しているが、2008年にセキュリティ機能などを強化した「OPC UA」(Unified Architecture)仕様(IEC 62541)がOPC Foundationで開発され、普及し始めている。OPC UAは、オープンプラットフォーム・アーキテクチャ。
OLE(Object Linking and Embedding)とは、Windowsの機能のひとつで、アプリケーションで作成したデータを、別のアプリケーションのデータに埋め込んだり、連動させたりすることができる機能のこと。元データが変更されると、埋め込んだ先にあるデータも自動的に変更されようになる。
https://jp.opcfoundation.org/about/what-is-opc/

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