[特別レポート]

欧州最大「オーストリアのバイオマス発電」の実態と関連技術 ― バイオマス発電事業で成功したギュッシングとウィーン ―

2015/08/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

ウィーン市立バイオマス発電所

〔1〕欧州最大のバイオマス発電所

 ウィーン市立発電所は、火力発電所とバイオマス発電所を併設し、ウィーンエナジー(株)が運営して、電気、ガス、熱、冷熱の供給をウィーン市の200万家庭に対して行っている。オーナーはウィーン市である。

 写真3は、2006年に建設された火力発電所の中に併設されたバイオマス発電所で、欧州最大の市立木質バイオマス発電所である。バイオマスだけでウィーン市の4万8,000世帯に電気を送り、1万2,000世帯に暖房給湯用の熱を供給している。

写真3 ウィーン市立バイオマス発電所の外観

写真3 ウィーン市立バイオマス発電所の外観

〔写真提供 2点とも岡村久和氏〕

 環境問題やイメージ戦略の課題もあって政府の補助(5,200万ユーロ投資は、再生可能エネルギー利用促進によるCO2排出の削減をめざした)を受けて建設されている。したがって同一区域内で伐採された木材を燃料にして再び植林することで、バイオマス発電所で発生したCO2は差し引かれ、ゼロ以下と計算される。そのため、この発電所ではウィーン市内の街路樹も1つのエネルギー源として完璧に伐採し、その他の森林については半径100キロメートル以内の地域に伐採が制限されている。同発電所の収入源はFITであり、1kWの販売額は10セント(約14円)で、期間は13年間となっている。これは通常の電力卸買取価格の4倍である。消費者価格は、1kW当たり20セント(約28円)程度となっている。

 現時点では、ウィーン市の総電力使用量全体の3%をバイオマス発電で行っているに過ぎないが、それでも同バイオマス発電所は、欧州最大である。

〔2〕特定施設を結んだ地域冷暖房で自然との共存を実現

 ウィーン市立バイオマス発電所では、周辺100キロ圏内の木材を使って、電気や熱を作っている。夏季には冷熱を作り供給しているが、主に特定の施設を結んだ地域冷暖房であり、ドナウ川の水で熱の配給や、夏季には余剰排熱を行っており、自然との共存を実現している(図5)。

図5 ウィーン市立バイオマス発電所の構成

図5 ウィーン市立バイオマス発電所の構成

〔出所 http://www.wienenergie.at/media/img/2014/image_7280_c55,38,1622,1105_s800,600.jpg

 また企業としてのウィーンエナジー社は、電気自動車充填スタンドの設置も広く行っている。市営バスは基本的に電気自動車であり、充填スタンドは数多くあるというが、電気自動車は企業の利用が多く、個人利用はそれほどではない。その理由は、企業であれば充電中でも他の車を使えるからということである。燃料電池自動車については、まだプロジェクトとしてほとんど進んでいない。

日本でバイオマス発電導入への成功の道はあるか

 ギュッシングとウィーン市立のバイオマス発電所において最も重要と感じさせる点は、人の生活、自然、最新技術を調和させたシステムとして設計されていることの重要さである。

 もともと、オーストリアにはインフラ面で、蒸気や熱の地域供給、関連パイプライン、林道の整備などの歴史に加えて、熱を熱として使うという発想が根本にあること、また、国民の深層心理にある、森林への愛情を強く感じさせる場面が各所にある。

 また、バイオマスや森林に関する教育も盛んで、森林関連の大学の人気も高い。マイスター制度(職能訓練制度)があるうえ日本でいう国家公務員試験1級や2級のような森林関連事業に関する厳しい資格制度もある。木の伐採に関しても職業従事者は多いという。

 日本においては、これらの木質バイオマス関連に関して、オーストリアやドイツ、フィンランド、イタリアなどにさまざまな分野のメーカーが多くあることや、技術、法律、関係機関の存在がほとんど報じられていない。そのため、日本でのバイオマスの導入は、木材の安定供給、調達に加えて、木材に関連する業界全体の産業としての連携がほとんどできていないことが大きなボトルネックになると考えられる。また日本では、海外国籍の従業員が林業に従事できないことや、木の伐採、山からの運搬、セリや市場、製材所など、多くの異なった業種で大量の売買行為が発生した結果、木材の末端価格が伐採に比べて20倍ほどに跳ね上がる場合もある。

 このような林業を取り巻く環境に加え、木材チップの含水率の数値やサイズなど、(技術的な裏づけのない)不確実な情報が流布しているという現状もある。一方、欧州やカナダなどのメーカーは、ボイラーや関連商品が基本的に船の貿易に向かない商品であるために、日本市場への参画に消極的であることも事実である。

 バイオマス発電の健全な市場を構築するためには、FITを前提としたバイオマスエネルギー事業参入に対する抑制や、中小規模の発電がしやすくするような規制改革、情報のオープン化などが重要な課題となる。

◎取材協力

岡村 久和(おかむら ひさかず)

電現ソリューション株式会社 取締役

 

1982年、日本IBM入社。環境ビジネスを立ち上げ、スマートシティ事業を牽引。
2015年より現職。
2016年4月より亜細亜大学都市創造学部(現在新設作業中)教授就任予定(兼務)

 

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