バイオマス発電所で再生したギュッシングのバイオマス発電所
〔1〕オーストリアで最も貧しい町といわれたギュッシング
ギュッシング(Güssing)は、人口3,000人で産業は古城の観光収入程度で、オーストリアで最も貧しいといわれていた町だ。ハンガリー国境の近くに位置しているため(前出の図1参照)、人種や文化的にも難しさを抱えていたが、町づくりのため当時就任したペーター・バダシュ町長が1992年に、その莫大な森林資源を原動力にして、化石燃料から100%脱却しようという提案を行い、技術に強い町議会議員と一緒にプロジェクトを起こし、さらに2名の技術者を招聘した。国の補助を含め1,000万円ユーロ(約14億円)を集め、1996年には欧州再生可能エネルギーセンターが設立され、2001年にバイオマスガス化発電所が建設された(写真2)。
Repotec(リポテック)社注6はこの事業主体である。
〔2〕ギュッシング・バイオマス発電所による地域活性化
同発電所の基本システムは、周辺森林の木材を7〜15センチ程度の大きさのチップにして、それを砂(熱移動媒体)と高温燃焼させてガス化する。これによって熱や電気を作っている。発生した熱は、蒸気で町に供給している(図4)。
図4 ギュッシングのバイオマスガス化発電所のシステム構成
〔出所 http://www.repotec.at/index.php/biomass-gasification-steam-fluidized-bed.html〕
現在ギュッシングは、このバイオマス発電事業の成功でオーストリア国内にさらに2カ所のバイオマス発電所を所有し、外国への事業展開に政府と合同でオットー社注7を設立し、日本にも支店を作っている。
人口3,000名の町であったが、この発電所施設によって新たに1,000名の雇用が生まれ、多くの企業が生まれた。毎年数万人の見学者があり施設の案内ビジネスも成り立っている。さらに、ホテルも建設され、町が再生されている。
町民は、この事業による雇用が活性化したことによって、ウィーンではなく地元雇用や電気や熱の地域への安定供給に対して大きく賛同し、協力している。現在はウィーン工科大学(AIT)が工場にオンラインで接続され、運用の情報や統計、緊急時の情報提供や指示を行い、さらにAITから研究者も常駐して無人運転や効率向上の実験を継続している。
▼ 注6
リポテック社:リポテック社はGüssing発電プラントのすべての技術開発と建設を担当し、完成後は運用会社に発電所を移管した形になっている。
▼ 注7
オットー社:Repotec社の技術や建設ノウハウをビジネス化するために設立された会社。