オーストリアの主要エネルギー消費量
オーストリアにおける1955〜2010年の主要エネルギーの消費は、図3のように推移している。再生可能エネルギーの中でもバイオマスは、1970年以降、順調にその利用量を増やし、2010年時点では、水力を抜いて一番の利用量となっている注4。
図3 オーストリアの主要エネルギー消費量の推移(1955〜2010年)
〔出所 “Austrian Energy Story”, Graz Energy Agency, 2014.10〕
2012年の同国の再生可能エネルギーの総消費量を電源別に見ると注5、バイオマスが57.7%、水力が36.6%、風力が2.1%、太陽光が1.7%の順になっている。
このようにバイオマス技術が発展している背景には、オーストリアの地形の特徴とともに、もともと蒸気や熱の地域供給、関連パイプライン、林道の整備などの歴史がある。また、熱を電気に変えると発想する日本と違い、オーストリアでは日常生活で熱を熱として使うことが多く、木材を燃やして暖を取ることが常識となっている。そのためバイオマスを利用した熱供給や発電が進んできたと考えられる。
木材の流通革命とバイオマス関連機器の発達
〔1〕改革された木材の流通
それでは、オーストリアにおいて、チッパーや、チップを運びそのまま発電所に入れるコンベア付きトラック、コンテナ型バイオマス発電装置などの機器が多く流通している理由は何だろうか。ここで、木材の流通(物流)の仕組みを見てみる。
表1は、日本における標準的なバイオマス利用とオーストリアで実際に利用されている木質バイオマス関連物流の違いを見たものである。
表1 木質バイオマス関連の物流の違い
〔出所 岡村久和氏作成資料より〕
表1に示す(1)森林・輸入、(2)材木輸送、(3)製材所までの工程を見ると、オーストリアの木質バイオマスの物流では、森林での木材伐採の直後に、前出のチッパーなどの機器を使って、そのままチップを作っている。同時にそのチップの大きさは15㎝程度ものでも許容されている施設が多い。ここまでの工程で、伐採から製材所への受け渡し、加工などのたびに必要な多様な産業の数が減り、輸送やチップ化へのコストが大幅に削減できることがわかる。
〔2〕自然と地域、最新技術を調和させたシステム
特に現状の日本などにおいては、チップの含水率は一般的に14%以下に乾燥させないとバイオマス発電ができないとされているが、オーストリアでは含水率が40%(自然乾燥)かつチップの大きさも7〜8センチから最大15センチ程度でも燃焼可能(800〜900℃あるいは、1,300〜1,800℃の高温処理)なボイラーが数多く存在している。また、10MWh程度の超大型ボイラー設備でも分解してコンテナ12個に格納できるというものもある。
含水率14%以下にするためには、乾燥のためのコストが多くかかるが、40%の含水率(自然乾燥)のチップのままで燃焼できれば、コストは低く抑えられる。
このように、多種のボイラーが各企業から販売されていることと、バイオマスボイラーの手前のチップ製造や格納、その後処理でボイラーから出た熱を電気に変える仕組みについても、全工程をセットにして組み合わせシステム化することが可能となっている。
オーストリアでは地域内に熱利用先が存在するため、チップの燃焼と新たな植林を同じ地域で実施できている。つまり、地産地消型(マイクログリッド)のエネルギーの活用が実現されているのである。
▼ 注4
再生可能エネルギーの消費がほとんどのようにいわれているが、実際には、国外から50%の電気を輸入していることに注意。そのため、当然国外からの輸入する電力の中には原子力発電による電力も含まれている可能性があることに注意。
▼ 注5
“Country Report Austria”, JOANNEUM RESEARCH RESOURCES, http://www.iea-bioenergy.task42-biorefineries.com/upload_mm/d/6/5/324edb7f-b84a-4877-b66d-a53ab63821e9_Austrian%20Country%20Reports%20IEA%20Bioenergy%20Task42%2020141119%20FINAL.pdf