[視点]

スマートメーターの電力情報は誰のものか

─今問われる「データの一次/二次利用と著作権」─
2013/01/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

個人情報保護法における「個人情報の定義」

では、スマートメーターで取得されたデータ(情報)は、個人情報に該当するのだろうか。個人情報の定義について述べると、個人情報保護法注4第二条に、以下の記述がある。

<個人情報の定義>

生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)をいう。

より平たく言えば、「特定の個人を特定できそうなデータはすべて個人情報」であり、スマートグリッドで取得される個人情報は、上記の定義の例にある「氏名」「生年月日」が含まれていれば当然ながら該当する注5

したがって、電力会社とはいえ、基本的には無断で顧客の電力利用履歴を取得できない。そのため、明確な契約をして個人情報を取得することとなる。また、その際には必ず利用目的を明らかにし、公開する場合はその公開の目的と範囲を明らかにしなければならない。

一方、人口や個人を特定できない全体での合算消費電力量の履歴や、全体の売り上げ、全体での電気機器利用台数、アンケート回答者数や質問の回答比率は個人情報にならない。ただし、台数など計数結果が「1」である場合、あるいは解答比率が極めて小さい場合などは、個人が特定できるともいえるためグレーゾーンといえるであろう。

仮に個人情報が含まれているデータであっても、それらを最低限の数だけ束ねて個人が特定できないデータを生成する仕組みの構築が研究されている。その代表が、PPDP注6における一般化手法である。この一般化手法には、表1に示した3つの値(k, l, t)を指定して評価するものがある。

表1 3つの値(k, l, t)を指定して評価する匿名化の手法

表1  3つの値(k, l, t)を指定して評価する匿名化の手法

余談ではあるが、PPDPによる一般化は、この議論に従えば個人が特定できないともいえるが、機械的変換注7では、記述内容の意味情報を確認することができないため、問題となる可能性がある。例えば、データの公開される項目に、公開するべきではない名前が誤って記入された場合や、特殊な電力需要をする家庭、例えば「毎日午前3時42分に大量の電力を使うため、合算しても明確にピークとして表れて個人を特定できる」などが存在した場合、個人情報が流出したと判断される可能性がある。

どのように判断しても「個人が特定できないことを示すこと」は技術的にも大変難しく、同様にグレーゾーンであると考えられる。さらなる技術進歩と、一般化注8技術を利用したデータ公開が拓くサービス展開はすそ野が広く、今後期待される分野であるといえる。

スマートメーターによって生成されるデータは個人情報である

今回東京電力が検討しているスマートメーターはユニバーサルデザインであるため、実際にデータが取得される先は、取り付ける通信モジュールによって自由に選択できる。

例えば、居住者の宅内にあるデータ可視化端末(見える化端末)にデータを表示する場合は、居住者は利用に際して特に許諾なく使うことができる。電力会社やサービス提供会社がそのデータを一次利用する場合や、さらに進んで二次利用を想定する場合は、その通信モジュールと合わせて、取り交わす契約に記載されたデータ利用に関する取り決め事項にサインすることで、該当するデータの利用について許諾を与えることとなる。

さらに、将来、1つの契約の形態として、「○○町△人家族でエネファームを利用」といった形で電力利用状況の公開を許可することで、その対価を得ることも考えられる。このように電力供給サービスが自由化されれば、データの公開度合いによって、居住者に「個人情報」の提供に対する対価を支払うといった、新しい電力利用サービスも展開できると考えられる。


▼ 注4
個人情報保護法:2003年5月23日成立、2005年4月1日全面施行。

▼ 注5
その他収集の可能性があるデータとしては、住所や戸籍、電話番号やメッセージングサービス、SNS、電話会議システムのID、メールアドレス、エネルギー利用履歴、システム利用履歴、電気自動車の給電履歴、システムのメンテナンス履歴、電力利用形態、家電など電気消費機器一覧、家庭内の生活映像などがある。

▼ 注6
PPDP:Privacy Preserving Data Publishing、プライバシ保護データ公開

▼ 注7
機械的変換:機械的にプログラムなどで自動で匿名化する手段。例えば、住所を匿名化する場合、機械的に行うと、「1丁目2番地」という場合と「1-2」と表記する場合があり、両者は完全に同じ住所を表しているが、機械的にはその意味が判断できないため、別と判断する。そうすると、これらは別々の住所となり、匿名化の対象となってしまう。つまり、この場合は情報損失度が高くなる(匿名化をやりすぎてしまう)ことになる。

▼ 注8
一般化:情報が漏れても個人を特定できないように、情報を曖昧にすること。

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