[視点]

スマートメーターの電力情報は誰のものか

─今問われる「データの一次/二次利用と著作権」─
2013/01/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

電力会社やエネルギープロバイダによるデータの一次利用、二次利用

太陽光パネルなどで発電した電力の売買が行われ、例えば、電力取引において、太陽光で発電された電力であることに対して付加価値を与える場合、電力売買契約時に、どの程度太陽光で発電したのかといった電力発電履歴データが必要となると考えられる。このようなデータは、一次利用、二次利用を問わず、契約において明確にその利用の範囲と公開の範囲を定めるべきであろう。

一次利用であれば、契約した電力会社やエネルギープロバイダ内でのみデータが利用されるため、データの利用形態が変わることで契約更新を行うケースは少ないといえる。

〔1〕二次利用を想定する場合

二次利用を想定する場合はさまざまなケースが考えられる。ユーザー(顧客)に最も理解されやすいのが、データの公開範囲を明確にする際に、二次利用先とその利用目的を特定して、ユーザーからデータを公開する許諾を得ることである。これによって、データ提供者は安心してデータを公開できるようになる。

しかし、例えば電力会社やエネルギープロバイダなどの「データを利用する側」は、新たにデータの二次利用先を増やす、もしくは減らす場合に、その都度データ提供者(顧客)との許諾契約の更新が必要となるため、煩雑になる可能性がある。

オンラインショッピング、例えばiTunesの利用者は、しばしば利用規約が更新されて、明確に「承認する」ボタンを押さなければ利用を継続できないといった操作に出合うが、このような明確な確認作業を利用者はデータ提供者から得なければならない。オンライン契約であればそれほど煩雑ではないが、紙の契約であれば、契約を依頼する側も契約を受ける側も、負担が増大すると考えられる。

〔2〕包括的な契約では二次利用できない

「データの利用先を変更するたびに契約更新が伴う」煩雑さを回避するために、より包括的な、例えば「取得したスマートメーターのデータは、今後より良いサービスの提供と、効率の良い電力利用の調査のために利用されます」といった内容だけを記載した、公開の範囲を限定せず、第三者に提供するのかしないのかについても明記されていない契約を結ぶことが想定される。

しかし、この契約では、データを二次利用することはできない。二次利用を想定する場合、個人情報保護法第二十三条に照らし合わせると、第三者へのデータの提供を利用目的とすることをあらかじめ明記する必要がある。すなわち、「なお、この目的のため電力利用データによる毎分の合算データについては第三者に提供できるものとします。」といった内容を含む契約を事前に交わす必要がある。

例えば、スマートフォンを使って何かしらの可視化(見える化)サービスを利用している場合、そのアプリケーションが利用者の許諾なく、GPS情報を取得してサービスの利用状況を秘密裏に取得すると、明確な個人情報保護法違反となる注9

まとめ:新しいビジネスの創出を目指して

近年、サービス企業間でのデータ連携が進んでおり、今後サービスの高度化、高品質化、複雑化、低価格化などの観点から、さらに加速すると考えられる。その根底となるのがデータの二次利用である。ここでは、総務省より発行された社会資本データの利用におけるガイドライン注10を基に、著者の見解ではあるが、スマートグリッドで扱われるデータの一次利用・二次利用で留意すべき点を述べた。

私たちの身の回りには、例えば地図情報や医療情報などのさまざまな種類のデータが扱われている。それぞれの観点でより詳細なガイドラインが示されるべきであり、場合によっては法的制限を定めると同時に、これまでの法的制限を緩和することも必要である。

また、1つのデータが見方によっては、異なるガイドラインに従う場合も想定される。例えば、居住空間の快適性指標を測定したデータは、医療データともスマートグリッドに関するデータともみなすことができる。

私たちは、この厄介なデータの取り扱いに、十分な注意を払わなければならないことは間違いない。しかし、そこだけに踏みとどまらず、良い社会を実現するため、今後のサービス展開を想定したデータの二次利用について、その効果と問題点を正しく見定めて、新しいビジネスを創出する観点から、定めるべき規制や緩和策を打ち出していく必要がある。


▼ 注9
しかし多くの場合はそうではなく、当該アプリケーションを購入する際、もしくは利用する際に、GPS情報を取得していることがアプリケーションから通知され、それに対して許諾を与える(ボタンを押す)といった操作が伴う。この場合、「データ公開の契約を行った」という判断がなされ、契約に記載の利用範囲において正しく利用されている場合は、個人情報保護法違反の扱いにはなりにくい。データ提供者は、契約内容を正しく把握・確認し、サービスの契約時に利用や公開の範囲をしっかりと確認することが求められる。

▼ 注10
詳細は総務省発行の「ASP・SaaS・クラウドの普及拡大に向けたガイドの公表」を参照されたい。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000045.html

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