[特集]

弘前市長 葛西憲之氏に聞く 東北地方で初の「スマートシティ」の実現へ

― 世界一快適な雪国の誕生へ ―
2013/06/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

【インプレスSmartGridニューズレター 2013年6月号掲載記事】「創」「誠意」「同意」を座右の銘とし、特に「市民や職員と対話をしっかり行い、議論をしたうえで物事を進めることを大事にしている」という弘前市の葛西(かさい)市長。2013年3月27日に答申された「弘前型スマートシティ構想」について、どのように考えられているのか、率直にお聞きした。(聞き手:本誌編集部)

弘前藩の城下町として栄えた歴史と文化が薫る弘前市

─弘前市の特徴について教えていただけますか? また、青森県における弘前市の位置づけは?

葛西:弘前市は、弘前藩(藩主:津軽氏)の城下町として栄えた町で、古くから世界遺産白神山地に源を発する豊かな自然環境に恵まれてきた、津軽の中心地であり、世界自然遺産「白神山地」の玄関口でもあります。

東に奥羽山脈の八甲田連峰を臨み、西に青森県最高峰の秀峰「岩木山」があり、南には「白神山地」、山々に抱かれた平野部においては、県内最大流域面積の「岩木川」が流れています。

また青森県内屈指の穀倉地帯でもあり、青森県の基幹農産物であるりんごの約4割を生産するりんごの一大生産地です。

四季のまつりとして、春には、日本一の桜の名所である弘前公園で開催される「さくらまつり」、夏には「ねぷたまつり」、秋には「弘前城菊と紅葉まつり」、そして冬には「弘前城雪燈籠まつり」があり、多くの観光客で賑わう観光都市です。

さらに、藩政時代のたたずまいを残す寺院街や伝統的建造物、明治・大正期の洋風建築、建築家「前川國男」の近代建築などの歴史的文化財もあり、近年は、新しい観光スタイルといえる、街歩き観光の人気スポットとなっています。このように、歴史と文化が薫るすばらしい町です。

─弘前市の現状と課題を教えてください。

葛西:平成22(2010)年4月の市長選挙において、『子ども達の笑顔あふれる弘前づくり』に向け掲げた、「7つの約束」と「103の施策」のマニフェストを迅速かつ着実に実行するため、市の計画として『弘前市アクションプラン』注1 を策定し、PDCAサイクル注2により毎年度、進行状況の評価・点検を行いながら、政策を実現してきました。

しかし、超少子高齢化の進展や2年連続の豪雪で、2012(平成24〜25)年度の冬期間は、観測史上最大積雪深153㎝を記録しました。この経験により、「子育て」「健康」「雪対策」が市の最重要課題であると考えています。そこで、中長期的・戦略的な展望をもって課題の克服にチャレンジするため、「エボリューション3(3つの日本一を目指した取り組み)」として位置づけ、それぞれの施策について日本一を目指した取り組みを進めることとしました。

市民生活が危ぶまれた東日本大震災の影響と先進型の第2の公共事業のスタート

Noriyuki Kasai

─東日本大震災において、弘前市にはどのような影響があったのでしょうか?

葛西:地震による直接的な被害はありませんでしたが、3月というまだまだ気温が低く、暖房が欠かせない状況下で、一般家庭の電気が2日間ほど停電し、ガソリンや灯油などの石油製品の供給が制限されるといった事態が生じ、その対応に奔走しました。

また、風評被害によって、りんごの輸出や販売に影響が生じたり、東北新幹線が東京駅−新青森駅間で全線開業(2010年12月4日)後初めての「さくらまつり」を迎えようとしていましたが、当初見込んでいた新幹線効果による観光客が得られませんでした。

─市長ご自身が石油製品の供給のために直接交渉されたとお聞きしましたが?

葛西:ガソリン、灯油、軽油、重油、すべて途絶えたわけですよ。これは大変だという思いがありましたね。そのときはもう青森市や八戸市など、青森県内のほとんどの公共交通機関が半減したのです。でも、弘前の弘南バスだけ(これは民間の公共交通機関ですが)、私はそこへ油を供給し続けたのです。それは、私はこの公共交通が止まれば、弘前市の社会生活機能がすべてが止まるのだという意識が、市民に芽生えてしまうと思ったからです。それを恐れたのです。

そのときはもうガソリンを入れるために、どこのスタンドも長蛇の列でいろいろな弊害が起こりました。それで、いつ油が供給されるのかさえもわからない状況の中で、最初に東日本、特に北日本や日本海側のガソリンが途絶えてしまいました。ですからあのとき、私の思いとして一番大きかったのは、「何で太平洋ベルト地帯や太平洋側だけに、エネルギー基地や発電所があり、日本海側にないのだ」と。

それで、「いつまでにどのぐらいの油が必要か」を全部計算して、何月何日までにガソリンを供給してほしいと、関係機関に電話やFAX、時には直接出向いてお願いしました。

そのような経緯もあって、こういう思いはもう二度としたくない。このエネルギーの自律(自給自足)ということだけは考えなくてはならない。自律の「律」は律する、自分を律するという意味ですが、自律ということだけは考えなくてはならないと。

これだけが弘前では実現できてない。そこで、何もないところから始めなくてはならないということもあって、この問題に対しては一から始めなきゃならない、そういう思いで「弘前型スマートシティ構想」につながっていったのです。

─震災以降、市民の電気やガス、水道などのエネルギーに対する意識には変化がありましたか?

葛西:震災直後は、全国的に大規模停電等を回避するため、市として「弘前市節電等対策基本方針」を決め、市が率先して需要抑制対策を行い、全市的な節電対策を展開しました。これに連動するような形で、市民も節電・省エネに意識が動き、節電の行動につながったと思っています。

また、例えば、住宅を建てるにあたっては、オール電化住宅から電気とガス併用のハイブリッド型が増えてきたり、太陽光発電を導入する方も増えてきたりしたように、複数のエネルギー利用やエネルギーの自給といった、災害時にも最低限のエネルギーを確保することが必要だという意識が高まってきました。

─「弘前型スマートシティ構想」についての市民の反響はありましたか?

葛西:青森県内では初めての取り組みであり、スマートシティという新しい街づくりへの取り組みということで、市民はもとより、商工業者や土木建設業、金融業、いろいろな人たちがもう期待感いっぱいだと聞いています。これはやはり第2の公共事業なのです。

今までの公共事業は、ただ道路や橋、トンネルをつくったり、川を整備したりするというものでした。しかし、これはまったく新しい投資の仕方、公共投資の仕方になると思っています。先進型の新しいこれからの世の中をつくっていくための第2の公共事業だとういう捉え方が非常に浸透してきていると思います。それに対応する業界の人たちの反応というのは、これはものすごく敏感です。スマートシティ構想についての説明会を行った際には、説明会場は100名以上の参加者で満杯でした。


▼ 注1
http://www.city.hirosaki.aomori.jp/gyosei/keikaku/soukei/soukei.html

▼ 注2
PDCAサイクル:①Plan(業務計画を作成)し、②Do(計画を実施・実行)する。③Check(業務の実施が計画に沿っているかどうかを点検・評価)し、④Act(実施が計画に沿っていない部分を調べて処置・改善)する、の4段階を1サイクルとした業務改善サイクルのこと。

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