[特集]

青森県の先進都市「弘前型スマートシティ」実現へのロードマップと全体像

2013/06/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

「弘前型スマートシティ」実施スケジュールと構想実現に向けた具体的な8つのプロジェクト

〔1〕実施スケジュール

具体的な弘前型スマートシティ構想期間は図3の通りである。

図3 スマートシティ構想の期間

図3  スマートシティ構想の期間

〔出所 『弘前型スマートシティ構想』より、平成25(2013)年3」月、青森県弘前市〕

まず具体的なプロジェクトを展開する期間を、フェーズ1(2013〜2016年)、フェーズ2(2017〜2020年)として2020(平成32)年度までの計画とする。さらにフェーズ2の10年後の2030年度までを、革新的技術による高度なエネルギー利用やサービスの提供により、さらに強く魅力ある持続可能な街を実現する段階と位置づけ、フェーズ3として設定する(表3)。

表3 「弘前型スマートシティ」実現に向けたプロジェクト実施期間(3つのフェーズ)

表3  「弘前型スマートシティ」実現に向けたプロジェクト実施期間(3つのフェーズ)

この間に実施するプロジェクトの状況は、毎年「評価」「検証」を行うが、フェーズ1の終了後には、社会環境の変化や技術開発の動向を踏まえて見直しを行うとしている。

まず1つの例として、2013年度には、弘前市役所や観光館、図書館など公共施設の集中地区において、施設同士をトータルで管理するエネルギーネットワークの仕組みをつくり、例えば電力の一括受電や建物間での電気や熱エネルギーの融通など、エネルギーの受給ギャップがないよう平準化していくような事業化の調査を行う。この調査の結果次第で、翌2014年からは実証に移していく。

2013年度は、2億4000万円ほどの予算を投じてスマートシティへの取り組みを行う。

〔2〕具体的な8つのプロジェクト実現で市民生活はどう変化するか

「弘前型スマートシティ」は、先に述べた5つの方針に基づいてその実現を目指す。そのために「くらし」「エネルギー」「ICT」の3分野に合計8つのプロジェクトを設け、事業性の評価と継続的な検証を行うことで、確実かつ効率的に実施していくとしている。

「構想をつくっただけだと、ビジョンだけはあるが結局それを実行していくような原動力にならない。市民の方々にもスマートシティって何やってるの? というような話になってしまう。弘前市がスマートシティを目指していくには踏んでいくべきステップ(段階)があるはずなので、それをプロジェクトとして位置づけて着実にこなしていく。つまり、将来弘前市がスマートシティとして実現していくための、ちょうどいい道しるべになるようなプロジェクトをちりばめて、それをちょっとずつ実行していこうということです」と澤頭氏(弘前市 都市環境部長)は言う。さらに、「それを全部やり終えた頃に、ある程度効率のいい都市になっているのではないかと思う。スマートシティは20年、30年後の世界で、我々ではなくて、現在の高校生たちが働き盛りになった頃にちょうどでき上がるか、まだ途中かという街づくりで、非常に息の長い取り組みになる。その方向性を見失わないためにも、着実に上っていくステップを置いて、そのためにプロジェクトを仕掛けて、それらをこなして前に進めていく」と同氏は続けた。

具体的なプロジェクトは次のようなもので、プロジェクトの実施スケジュールは図4の内容となっている。

図4 8つのプロジェクトの実施スケジュール

図4  8つのプロジェクトの実施スケジュール

〔出所 『弘前型スマートシティ構想』 より、平成25(2013)年3」月、青森県弘前市〕

【1】くらし

  1. 融雪推進・快適外出プロジェクト
  2. 快適住環境プロジェクト
  3. 雪資源活用プロジェクト

【2】エネルギー

  1. エネルギーセキュリティ向上プロジェクト
  2. 地域主導型エネルギー供給体制構築プロジェクト

【3】ICT

  1. ICTによる情報共有プロジェクト
  2. ICTによる「地域の知と智」活用・創成プロジェクト
  3. スマート観光都市実現プロジェクト

図を見てわかるように、上記の8つのプロジェクトの中に、さらに具体的な実行プロジェクトを設定して実施スケジュールを組んでいる。「弘前型」といわれるように、融雪への対策やりんごの剪定枝注2など地域資源を利用した再生エネルギーの活用が特徴的だ。

まず、「融雪推進・快適外出プロジェクト」「快適住環境プロジェクト」では、地中熱や地下水熱、木質バイオマスなどの再生可能エネルギーによる道路融雪や冷暖房の導入を目指す。年間5万トンも出る、りんご剪定枝などの地域資源の活用による化石燃料を代替する地域産のエネルギーの生産により、エネルギー自給率が高まり、非常時にも最低限の電気や熱の供給ができ、速やかに災害復旧できる街とすることを目指す。

地産エネルギーの1つとして、岩木山麓での地熱発電可能性調査が、民間企業の共同体により行われ、市としてもベース電源となりうる地熱発電に取り組めるよう地元温泉組合などとの調整に全面的に協力してきた。

また「雪資源活用プロジェクト」では、雪を雪冷熱として利用して、りんごや野菜を貯蔵し、事務所や工場などの冷房の熱源として活用する。

さらに「エネルギーセキュリティ向上プロジェクト」においては、市役所庁舎や市立病院をはじめとする地域の主要施設において、太陽光発電や燃料電池、コージェネレーションなどエネルギー利用効率の高い自立分散型エネルギー施設を率先して導入する。

「地域主導型エネルギー供給体制構築プロジェクト」では、市内の下水汚泥の未利用エネルギーから水素を製造して利用する仕組みを構築。化石燃料依存型から地産地消型エネルギー利用への移行を目指す。水素エネルギーについては、スマートシティ構想策定と並行して、国土交通省の「平成24年度まち・住まい・交通の創蓄省エネルギー化モデル構築支援事業」を活用してモデル構想を策定した。注3これは地産地消の水素を燃料とした燃料電池バスが市内で走り、事業所や家庭で燃料電池を利用する水素社会を実現するというもの。注4

ICTも積極的に取り組む分野のひとつであり、「ICTによる情報共有プロジェクト」「ICTによる「地域の知と智」活用・創成プロジェクト」「スマート観光都市実現プロジェクト」を設けている。ICTの積極的な活用により、電子自治体化による低コスト化や住民サービスの向上が図られる。そのほか、医療・福祉・教育・公共交通・行政サービスなど様々な情報の共有化・一元化を図り、ICカードなどの1つのアイテムで対応できる仕組みもつくる。とくに、医療情報の共有化は、市民自らが診療や投薬の内容を確認できるとともに、医療機関間で診療情報を共有することで、最適かつ円滑な医療サービスの提供と医療費などの抑制が図られる。

さらに、医療と密接に関係する福祉・介護や学校などの医療情報を共有することで、より充実したサービスの提供を目指す。


▼ 注2
りんごの剪定枝(せんていし):弘前市はりんごの生産高が青森県全体の4割を占めているが、木の中まで日光が入るようにし、毎年よいりんごが実るように木の形を整えるため、りんごの枝を剪定する。この剪定された枝は毎年5万トンにものぼる。

▼ 注3
平成24年度まち・住まい・交通の創蓄省エネルギー化モデル構築支援事業
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000119.html
http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=22917

▼ 注4
弘前市内の循環バス(土手循環バス:100円バスルート。市民病院など市街地の主要施設を循環)のうち1台を燃料電池にバスに転換し、積雪寒冷地での2015(平成27)年から3年間の長期運転実証を目指す。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...