水素基本戦略の大きな2つの狙い
政府が策定した「水素基本戦略」の主たる狙いは大きく分けて2つあり、1つ目は日本の一次エネルギー調達ルートの多様化と自給率向上、2つ目はCO2排出量削減である。これらについて具体的な内容を見てみよう。
〔1〕エネルギー自給率の向上
1つ目の一次エネルギーについての自給率は、日本ではエネルギーの94%を海外から輸入する化石燃料に頼っており、その自給率はわずか6%(2014年)〜7%(2015年)である。図1に示すように、日本のエネルギー自給率は、OECD加盟34カ国の中でもルクセンブルグの34位に次ぐ第33位と極めて低い水準であり、エネルギーセキュリティ(エネルギーの安定供給)において構造的な脆弱性をもっている。
図1 主要国の一次エネルギー自給率比較(2014年)※図中の順位はOECD34カ国中の順位
出所 http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue.html
その中でも、特に自動車の燃料は98%が石油で、そのうち87%を中東から輸入している。火力発電所で消費する燃料についても、LNG(Liquefied Natural Gas、液化天然ガス)が占める割合が上昇しているが、そのLNGもほぼ全量を輸入に頼っているのが現状だ。
〔2〕2つ目はCO2排出量削減
2つ目は温室効果ガス(CO2)排出量削減である。日本政府は、地球温暖化対策としてパリ協定(COP21:2016年11月発効、2020年から始動)の実現に向けて、2030年度にCO2排出量を2013年度比で26%削減する目標(中期目標注1)を立て、国連に提出している。
しかし、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の爆発事故の影響で、国内の原子力発電所のほとんどが休止状態(定期検査後の再稼働を見合わせている)のため、その分、LNGによる火力発電所の稼働率が高まっている。LNGは、石炭や石油よりも燃焼時に発生するCO2の量は少ないが、現在の日本のように電力の大部分をLNG火力発電所に頼っていては、CO2排出量は増加する一方である。
今回、政府が決定した水素基本戦略は、エネルギーを確実に調達する体制を整えながら、CO2排出量を削減することを狙ったものである。しかし、エネルギーを化石燃料に頼っていては、この2つの課題は相反するものになってしまう。そこで、燃料として利用しても(燃やしても)CO2を発生させない水素を活用しようというわけだ(表1)。
表1 温室効果ガス(CO2)排出ゼロのクリーンな「水素」の特性
出所 各種資料をもとに編集部で作成
しかし現状では、日本で水素を活用する動きは、ごく小規模なもの、あるいは実験的なものでしかない。水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の流通台数も少なく、水素の販売価格も決して安いとはいえない。
トヨタのMIRAI(ミライ)は、水素インフラの整備が進む日本や米国、欧州において、2014年12月の販売開始から2017年末までに、累計約5,300台が販売された注2。MIRAIについては、オーストラリアやアラブ首長国連邦、中国などにおいて、試験的な導入による実証実験が進められている。
▼ 注1
長期目標としては2050年までに80%の室温効果ガス(CO2)の排出削減を目指している。
▼ 注2
トヨタGlobal Newsroom:「トヨタ、カナダ・ケベック州で燃料電池自動車「MIRAI」のフリート販売開始」、2018年01月19日