[標準化動向]

国際標準化へ向かうIEEE 1888の最新動向

― IEEE 1888.3のセキュリティ強化規格も承認へ ―
2013/08/01
(木)
SmartGridニューズレター編集部

2011年2月に策定された、スマートグリッド用のオープンなプロトコル「IEEE 1888」は、ビルなどにおける次世代の設備管理向けに開発された米国電気電子学会(IEEE) の通信規格である。現在、プロトコル適合性検査仕様や検査装置の開発が進められている。また、セキュリティ強化規格であるIEEE P1888.3 が2013年中には策定される見込みである。また、最近では、ISO/IEC国際標準化委員会、米国スマートグリッド委員会(SGIP)との協調も行われている。ここでは、これらの最新動向を紹介する。

IEEE 1888とは

IEEE 1888は、遠隔地の設備状態や制御設定情報をやり取りするために開発された、インターネット上のアプリケーション通信プロトコルである。通信に、HTTP/XML注2を用いているため、既存ネットワークや各種ITシステムとの親和性が高く、また、データ中心型のシステム・アーキテクチャ(図1)を採用しているため、大量の設備や環境データの保管、共有、処理に向いている。

図1 IEEE 1888のシステム・アーキテクチャ

図1 IEEE 1888のシステム・アーキテクチャ

さらに、データ表現に自由度をもたせているため、あらゆる設備ネットワークと協調することができる。このため、表1に示すように、IEEE 1888関連の製品が続々と登場している。

表1 IEEE 1888関連の製品など

表1 IEEE 1888関連の製品など

〔1〕接続実績のある通信規格

具体的に現在、接続されて動いているのは、

  1. BACnet/IP(ASHRAE):ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)によって標準化された、IPネットワークでフィールドバス通信を行うためのBACnet規格(IP対応のレイヤ5〜レイヤ7 プロトコル)
  2. Modbus:プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)アプリケーションのためのロイヤリティ・フリーのシリアル通信プロトコル
  3. ZigBee:ZigBeeアライアンスによって策定された、近距離無線通信ネットワーク(WPAN)の規格。
  4. Lonworks(OASIS)注3:米国エシェロン(Echelon)社が、同社の通信プロトコル「LonTalk」(LonWorksで使用される通信プロトコル)をベースにして開発した、照明設備や空調設備などのビル・オートメーション/制御用のプロトコル規格(非IPのレイヤ1〜レイヤ7プロトコル)。
  5. 各社のPLC(Programmable Logic Controller)
  6. 各社の独自通信規格(例えば三菱系のMCプロトコル注4、オムロン系のFINSプロトコル注5、パナソニック系のMewtocol注6など)

などであり、これらの長所を生かしたうえで、これらを横断的に統合したシステムを実現できる。

また、まだ実展開には至っていないが、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)用のインタフェース規格である「ECHONET Lite」との親和性も高いことが証明されている。

〔2〕具体例「IEEE1888 Modbus ゲートウェイ(GW)」

写真1 IEEE 1888 Modbusゲートウェイの外観(12.2cm×4.5cm×2.6cm)

写真1 IEEE 1888 Modbusゲートウェイの外観(12.2cm×4.5cm×2.6cm)

Modbus(モドバス)は、世界的に最もよく使われている設備ネットワークの通信方式の1つである。

建物内の配線工事がとても楽であるRS-485と呼ばれる2本の信号線上で通信を行う。Modbus通信に対応した電力メーターなどの各種計測器、ON/OFFリレーなどが各社から発売されており、これらを接続してビル内の設備ネットワークを作る。

IEEE 1888 Modbusゲートウェイ(写真1)を使うと、これら非IP(non IP)の設備機器が、IEEE 1888プロトコル(TCP/IP)上で扱われるようになる。これによって、電力の見える化サービスなどの情報システム、設備の遠隔制御機能などと連携させることが可能になる。

〔3〕2009年からの開発以降、国内外で採用

日本では、2009年頃から、総務省や東大グリーンICTプロジェクト(http://gutp.jp/)などが、IEEE 1888の開発に携わってきた。

IEEE 1888は、米国電気電子学会(IEEE)の標準規格として、2011年2月に承認〔正式名称「IEEE 1888-2011(UGCCnet注7)」(略称:IEEE 1888)〕されて以来、東京大学の5万kW電力の管理システム、東京工業大学のスマートグリッド管理システム(Ene-Swallow)など、国内外のさまざまなプロジェクト(表2)に採用されている。

表2 IEEE 1888の具体的な展開事例(予定も含む)

表2 IEEE 1888の具体的な展開事例(予定も含む)


▼ 注1
SGIP:Smart Grid Inter-operability Panel、米国スマートグリッド委員会。NIST(米国立標準技術研究所)の管轄にあったSGIPは、2012年7月、SGiP 2.0 Business Sustainment Plan(SGiP 2.0 ビジネス維持計画:将来のスマートグリッドの相互運用性に関するロードマップ)として独立した組織「SGiP 2.0 Inc.」となり、従来の「SGIP」から移行した

▼ 注2
HTTP/XML:XML(Extensi-ble Markup Language)言語で書かれた情報(コンテンツ)をHTML(HyperText Transfer Protocol)通信でやり取りする通信方式。

▼ 注3
OASIS:Organization for the Advancement of Structured Information Standards、XMLに関連するオープンな標準技術の普及促進活動を行う非営利団体。

▼ 注4
MCプロトコル:三菱系のEthernet通信やシリアルコミュニケーションユニットの交信手順で,相手機器からCPUユニットへアクセスするための通信方式。

▼ 注5
FINS:FAネットワークのシームレスな情報交換を実現するオムロン通信手順。

▼ 注6
Mewtocol:パナソニックのPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)用通信プロトコル。

▼ 注7
UGCCnet:Ubiquitous Green Community Control Network Protocol、ユビキタスグリーンコミュニティ制御ネットワークプロトコル標準。

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