直流電圧400Vの標準が第1の優先課題
〔1〕「電圧の標準化や規定」がSG4の最優先課題へ
表2 専門家による直流給配電に関する課題の優先順位
これまで、IECの直流に関する標準化組織や身近に利用されている直流機器の例について概観してきた。次に、日本や米国の専門家は直流の重要性をどのように捉えているのだろうか。表2に、限定的で狭い調査範囲であるが日本における電気学会内に設置された調査専門委員会と、米国の電力中央研究所(EPRI)注8の専門家のニーズを調査した結果を示す。
表2から、直流については、「電圧の標準化や規定の重要性」がトップ事項と認識されていることがわかる。このことから、直流給配電システムに関係するプレイヤーが望んでいる最優先課題は、「直流電圧」といえよう。
ここで、すでに普及している既存の交流システムを国際的に見てみると、電圧や周波数が国や地域によって、100Vや200Vなどさまざまであり、統一されていない。このように、訪問する国によって電圧やコンセントの規格が異なっているため、機器やシステムを輸出入している企業関係者だけでなく、一般の旅行者も含めて、不便を感じることが多い。
このような背景から、これからSG4で策定される直流分野の標準(400V)については、真の意味での国際標準化が必要であり、この標準化によって、機器の「売り手」「買い手」「使用者」など多くのプレイヤーにメリットをもたらすことになると、期待されている。
〔2〕IEC規格等における直流電圧の定義
表3 IEC規格における電圧の区分の定義
現在、国際標準規格を策定しているIEC(国際電気標準会議)では、
表3の電圧区分の体系に示すように、
- 直流120V未満を危険度の低い特別低電圧(Extra-low voltage)
- 直流120V以上1,500V以下を低電圧(LVDC)
と定義している。
一方、参考として挙げると、英国のBS 7671:2008〔British Standard: “BS 7671:The 17th edition Requirements for electrical installations”(2008)〕では、「直流120V以上直流1,500V(線間)以下」、もしくは「直流120V以上直流900V(対地)以下」を低電圧と区分しており、IECの定義と異なる仕様が規定されている。
IECの定義では、低電圧は人畜に対する感電の度合い、それ以上では電気回路におけるアーク放電の危険度合いを目安に、低電圧とそれ以上の電圧とを区分している。IECにおける電圧区分の体係を表3に示す。直流と交流を比較すると、直流のほうが低電圧の範囲(120〜1,500V)が広く(高く)なっていることがわかる。
〔3〕日本国内における直流電圧の定義
次に、日本の直流電圧の定義を見てみよう。
表4 日本における低電圧区分の変遷
日本国内では、電気設備に関する技術基準を定める省令(2条)[経済産業省:「電気設備に関する技術基準を定める省令(平成九年三月二十七日通商産業省令第五十二号)」]によって、直流電圧は750V以下を低電圧としている。直流750Vに定まった経緯は、経済産業省原子力安全・保安院の「解説電気設備の技術基準(第13版)」(文一総合出版、平成20年1月)に説明されている。
表4に、日本における低電圧区分の変遷を示す。上記文献によれば、昭和24年(1949年)の電技改正(電技:電気設備技術基準)までは、直流と交流(実効値)との電圧比は2:1となっていた。
- 電気事業の初期においては、低圧は直流300V未満、および交流150V未満と定められた。
- 明治29年(1896年)制定の電気事業取締規則において、低圧の限度が直流500Vと交流250Vに引き上げられた。
- さらに、明治30年(1897年)の同改定により、直流600V、交流300Vとなり、昭和の時代まで用いられていた。
- 昭和24年(1949年)の改定では、路面電車に直流電圧を適用するため直流750Vまでが低電圧の電圧範囲と引き上げられ、今日に至っている。なお、交流については、400V級の配電電圧を採用する可能性があったため、昭和40年(1965年)に交流600Vまでが低電圧の範囲として引き上げられ、改定された。
〔4〕米国内における直流電圧の定義
また米国では、電気施工に関する規定NEC(National Electrical Code, article 490.2)[The National Fire Protection Association(NFPA):“National Electrical Code”(2008-9)]にて「600V以下が低電圧」と定義されているが、交流、直流の方式による違いはない。
次に、米国における直流配電に関連する主な規定を列記しておく。
- 2線方式は、対地電圧は300Vまでとすること。
- 3線方式の中性線は必ず接地すること。
- 対地電圧150V以上の回路には地絡保護を付けること。
- 地絡保護動作の場合、両線を同時に開放すること。
- 600V以下の配線電圧であれば、特別な施工規定は不要である。
▼ 注8
EPRI:Electric Power Research Institute、米国電力中央研究所