太陽光発電、蓄電池と直流
スマートグリッド時代を迎えて、再生可能エネルギーの太陽光発電やリチウムイオン電池、燃料電池あるいは電気自動車など、直流で動作する新しい機器が続々と登場している。
〔1〕活発化する直流(DC)関連の研究開発
太陽光発電は直流で発電するが、電力会社に売電したり、家庭で使用したりする際には交流に変換してから使っている。それならば、いっそのこと最初から家電機器を直流で使えるようにすればよいのではないか、ということで、いろいろなDC配電システムやDC家電機器の開発などが行われ、これらがトリガーとなって直流(DC)関連の研究開発が活発化している。
また、再生可能エネルギー(太陽光発電)は、二酸化炭素(CO2)を発生させないので、地球温暖化を抑制することにも寄与することもあり、国のプロジェクトでも研究開発に積極的に支援し、推進されている。
そのような背景から、これまで家庭での屋内配線システムは交流(AC)であったが、今後の配線システムとして、直流(DC)配線システムや、直流と交流のハイブリッド配線システム開発が議論されるようになってきた。
〔2〕データセンターへの直流給電と特性に適した新たな規格
さらにデータセンターのように、直流で動作するサーバやストレージなどの情報機器が主体の施設では、最初から直流電源を供給してはどうか、ということも大きく取り上げられ、現実に直流電源(直流給電)を導入したデータセンターにおいても登場している(本誌2013年11月号および本号参照)。
従来の交流方式に加えて、直流方式のさまざまなアプリケーションが増えてきた際に、直流の特性に適した規格が必要となってくる。
最近は、直流に関する研究が活発化し、それをIEC規格や電気設備技術基準にどのように反映させるかという研究が進められている。
交流と直流でどちらが危ないか:具体的なデータで比較
すでにIECで標準化されている交流の安全電圧とは、前出の表3に示したように、50V以下である。標準状態において50Vであれば安全ということである。それに対して直流の場合は、前出の表3に示すように、交流の2.4倍のDC120Vが安全電圧として決められている。すなわち同じ電圧であれば交流のほうが危険であるという意味である。
それでは、「本当は交流と直流でどちらが危ないのか、危なくないのか」という議論は、長い間論じられてきているのでその一端を紹介しよう。
それは、人体に電流が流れた場合の人体への影響という研究が長期間にわたって行われきており、図3や図4に示すような、安全カーブ(S字カーブ)が発表され、IEC 60479-1として規程されている。
〔1〕交流の場合
図3は、交流(15〜100Hz)の場合の人体通過電流の影響を示したものである。縦軸は電流が流れている時間t(ms)、横軸は人体に流れる電流IB(mA)である。
図3 人体の電気特性:人体通過電流の影響<交流の場合>
〔出所 TR C 0023-1:2002(IEC/TR2 60479-1)〕
図3には、領域AC-1、領域AC-2、領域AC-3、領域AC-4という4つの領域がある。各領域の意味は表5に示されている。
表5 人体通過電流の影響(交流)
〔出所 TR C 0023-1:2002(IEC/TR2 60479-1)〕
表5からわかるように、領域AC-3になる(曲線bから右)と強い付随意(自分の意思とは関係なく)の筋肉の収縮が起こり、呼吸が困難となる。心臓機能の回復は可能な程度の障害であるが、通常、器官の損傷はない。すなわち、交流の場合は、領域AC-4が危険な領域であることがわかる。
〔2〕直流の場合
一方図4は、直流の場合の人体通過電流の影響を示す。縦軸と横軸は、図4と同様である。
図4 人体の電気特性:人体通過電流の影響<直流の場合>
〔出所 TR C 0023-1:2002(IEC/TR2 60479-1)〕
表6に示されるように、直流にも領域DC-1、領域DC-2、領域DC-3、領域DC-4という4つの領域がある。
表6 人体通過電流の影響(直流)
〔出所 TR C 0023-1:2002(IEC/TR2 60479-1)〕
表6からわかるように、強い付随意の筋肉の収縮および電流値と時間の増加に伴って、心臓におけるインパルス(活動電位)の生成と伝導の回復可能な乱れが起こることがある。通常は器官の損傷はない。すなわち、交流の場合と同様に、領域DC-4が危険な領域であることがわかる。
図3と図4を比較すると、人体通過電流および通電時間が同じであれば、交流に比べて直流のほうが危険度が低いことがわかる。
以上、簡単に電気事業法や電気技術設備基準、具体例を紹介しながら、直流と交流の法制度との関係やその課題などを見てきた。今後、スマートグリッドの展開が進展していくと、直流についてさらに注目されていくと考えられる。効率のよい電力の利用形態が法制度などの整備や進展によって、さらに活発化することが期待されている。