[特集]

九州電力のスマートグリッド戦略! ―後編―

― 共通通信基盤全体のシステム構成と今後の展開 ―
2014/02/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

九州電力のBルート仕様:920MHz帯無線とECHONET Lite

次に、九州電力のBルート(スマートメーターとHEMS間)の通信について簡単に見てみよう。

図7に、経済産業省のスマートメーターに関する検討会等の相関関係図を示している。Bルート(スマートハウス)の伝送メディアとして、経済産業省の第3回スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会(図7)では、920MHz帯無線(特定小電力無線)、2.4GHz帯無線(Wi-Fi)、PLCが決定されている。さらに、スマートメーターとHEMSとの情報連携の通信手順として、「ECHONET Lite」(エコーネットライト)規格に準拠することが決定されている。

図7 経済産業省のスマートメーターに関する検討会等の関係図図7 経済産業省のスマートメーターに関する検討会等の関係図〔出所:経産省資料をもとに九州電力作成〕

図7のうち、スマートグリッドで最近特に注目されているデマンドレスポンス(電力の需給制御)は、

  1. C 早稲田大学内の「EMS(Energy Management System)新宿実証センター」
  2. D 同EMS新宿実証センター内の「次世代デマンドレスポンス技術標準研究会」
  3. E デマンドレスポンスタスクフォース(スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会内)

の3カ所において、ECHONET Lite、SEP 2注5、OpenADR注6などの実証実験が行われており、九州電力はいずれにも参加している。

図8は、スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会のBルートにおける5つの検討事項を示したものである。具体的には下記の5項目が検討されている。

図8 スマートハウス/ビル標準・事業促進検討会における検討事項(5つの課題)図8 スマートハウス/ビル標準・事業促進検討会における検討事項(5つの課題)〔出所:経産省資料をもとに九州電力作成〕

  1. 通信方式の選定:情報伝送の具体的な内容を検討
  2. 運用ガイドラインの整備:HEMSと連携するための施工時の手順等を記載
  3. 相互接続検証と相互認証:さまざまなメーカー機器がHEMSを介してお互いに接続可能とするための支援
  4. 国際標準化の推進:通信プロトコル(エコーネットライト規格)の国際標準化の推進
  5. デマンドレスポンスのシステム化:電力会社、アグリゲータ、需要家間のやり取りの自動化を検討

このような国の標準化動向を背景に、九州電力では、上記方式のうち、図9に示すように、伝送メディアとして920MHz帯無線方式(TTC標準準拠)を主とし、ECHONET Lite規格に準拠したBルート仕様を検討中である。

図9 Bルートに関する伝送メディアおよび通信手順について図9 Bルートに関する伝送メディアおよび通信手順について〔出所:経産省資料をもとに九州電力作成〕

九州電力のスマートグリッドの今後の展開

以上、九州電力のスマートグリッドの取り組みを概観してきた。九州地域は独特の地形である山間部が多いことなどもあり、例えばスマートメーターの通信方式もマルチホップ方式よりも、直接無線方式のWiMAXや携帯電話(3G/4G)方式のほうが利にかなったところもある。

今後は、2年にわたるWiMAXの実証実験(2014〜2015年)や、新しい国の標準に基づいたRFP(Request For Protocol)の実施によるスマートメーターの導入などが、本格化していこうとしている。

九州電力のスマートメーターは、すでにPLC方式が7万台、その他31万台、合計約40万台(約810万台の5%)が稼働している。また、2013年11月27日には、今後スマートメーターの導入計画を2年程度前倒しする方向で検討していることを明らかにした。都市部では2021年度まで、離島・山間地域を含む九州全域で2023年度までに100%の導入を目指すことになる。

現在、九州電力は、いろいろな国の検討会や研究会に参加して新しい動向をキャッチしながら、アプリケーションとしてデマンドレスポンスへの積極的な取り組みを行っている点が印象的であった。また、国際標準のWiMAX方式に重点を置いて取り組んでいることも大きな特長であった。

九州電力のスマートグリッドシステムが、日本の電力業界に新風を巻き起こすことを期待したい。

(終わり)


▼ 注5
SEP 2:Smart Energy Profile 2。2013年4月に完成した、主に家庭内におけるIPベースとしたエネルギー管理制御(デマンドレスポンス等)などを行うアプリケーションプロトコル。ZigBeeアライアンスが中心となって開発され、同アライアンスによって、2013年4月29日に批准された。すでに、NIST(米国国立標準技術研究所)内に設置されたSGIP(スマートグリッド相互接続性委員会)が担当している優先行動計画PAP18(PAP:Priority Action Plans)で承認され、批准されるのを待っていた。これまで、「SEP 2.0」と「SEP 2」の表現が混在していたが、正式に「SEP 2」となったので注意。
http://www.zigbee.org/Standards/Downloads.aspxからダウンロード可能。

▼ 注6
OpenADR:Open Automated Demand Response、電力を自動的に需要制御する標準。OpenADRアライアンスが提唱する、主に電力会社と需要家(スマートメーター)間でデマンドレスポンス情報を送受信するための規格。IECでは、OpenADR 2.0の国際標準化が検討されている。

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