IBMが提供するスマートエネルギーソリューション
ここでは、IBMが日本国内で実施しているビジネスモデルやソリューションについて説明する。
〔1〕新電力計画支援ソリューション(電力自由化ビジネスを検討する企業が対象)
新電力の計画支援ソリューションとは、起こり得る未来の業界環境の中で、小売事業者が成功する姿(Winシナリオ)を複数描き、施策を策定するシナリオ・プランニング手法を用いた事業計画の策定である。日本IBMでは、新電力事業を実施したい企業に対して、2012年からこれらの施策策定の提供を実施している。
シナリオ・プランニングでは、例えば、新電力が新規ビジネスを拡大させるケース、電力価格が下落し新電力参入が困難になるケース、新電力が乱立し淘汰が始まるケースなど、規制緩和による制度設計の状況によって変化してしまう複数の未来像に対して、それぞれの施策を策定する。
〔2〕仮想発電所構築ソリューション
仮想発電所の構築ソリューションについても、欧州のビジネスモデルを日本の環境に合わせてソリューション化している(図7)。
図7 仮想発電所構築ソリューションの仕組み
図7にあるアグリゲータや新電力事業者が、需要予測と発電予測をしていくという仕組みであるが、中には発電者が仮想発電所を構築するケースや仮想発電所の機能だけを新電力に提供するケースなど、ビジネスモデルによって、さまざまな利用形態が出てきている。1時間前市場への対応や、発電所建築に時間を要する企業向けに仕組みづくりを実施する。
安価な出なり電力注5やリアルタイムになっていく市場への対応、不安定な再生可能エネルギー、契約でペナルティを課すことのできない低圧需要家などへの対応に、仮想発電所ソリューションが有効である。今後は、個人宅の太陽光発電を利用した小売事業や、燃料電池を利用した電力供給(規制緩和が必要なケースもあり)など、さまざまなビジネスモデルが考えられる。
〔3〕新エネルギー技術:風力・太陽光発電出力予測システム
IBMが海外での実証事業等で培った新しいエネルギーソリューションとして、再生可能エネルギーの発電予測(技術)がある。
太陽光発電や風力発電の発電予測注6は、24時間後、48時間後の予測を実施し、ビジネスに活用するというソリューションを提供している。
例えば、中国の電力網でも、メガソーラー発電と風力発電の予測を実際に中国IBMが行っていて、系統への影響を最小限にするとともにインバランスペナルティ注7を最小化し、その効果は年間80億円と想定している。
その他、米国のエネルギー省注8のメガソーラーの発電予測についても、IBMはアメリカ大気研究センター注9とともに参画している。
後編では、海外事例をはじめとして規制緩和後の新エネルギービジネスを紹介した。海外では、いかに消費者と連携して、供給側と消費者が協調した中でビジネスを推進するかという事例も出てきている。IBMは、前編(2014年3月号)で紹介した「Smarter Planet」というビジョンに基づき、規制緩和や業界環境の変化に合わせて新規ビジネスを実施したい企業に対して、事業戦略局面から運用局面まで幅広く支援している。
海外事例を見ると、規制緩和前後の業界の動きはIT業界でいうダウンサイジングに類似している。大型コンピュータで業務処理を実施していた時代は、接続される表示装置数に応じた規模のコンピュータを準備することが重要であった。ダウンサイジングが発生しクライアント-サーバで業務を分担するシステムが可能になってくると、大きくビジネスモデルが変わり、大型コンピュータを凌駕するようになった。最近では、システムをもたずにビジネスを実施するクラウドが全盛である。このように、エネルギー業界がIT業界と同じような流れになるとすれば、次にどのような状況が現れ、どのような新しいビジネスが誕生するかを想定することもできる。
本記事が、今後の新電力ビジネスを実施したり、関連したビジネスを実施したい方々の参考になれば光栄である。
【インプレスSmartGridニューズレター 2014年4月号掲載記事】
▼ 注5
出なり電力:売電量が一定でない電力のこと。
▼ 注6
2013年8月にプレスリリース、http://www-06.ibm.com/jp/press/2013/08/2301.html
▼ 注7
インバランスペナルティ:新電力が供給する電力が不足した場合、電力会社が代わりに電力供給を実施する。その供給分の料金を新電力に請求する料金のこと。
▼ 注8
DOE:United States De-partment of Energy、アメリカ合衆国エネルギー省
▼ 注9
National Center for Atmospheric Research